居酒屋経営でも上場が狙える?上場を目指す前に知っておくべき基礎知識

[取材/文責]岡田桃子

会社設立をする際、上場を目標にしている人も少なくないでしょう。会社を上場させるためには、上場審査をクリアしなければなりませんが、そのために税理士が果たす役割は大きいと考えられます。今回の記事では、そもそも上場すると何が得られるのか、また大切な事前準備についても合わせて、詳しく解説していきます。

株式上場の基礎知識

上場とは?

そもそも「株式」とは、会社が資金を調達する目的で発行するものです。会社が活動していくために必要な資金は投資家から調達され、業績が上がった際には、「配当」という形で利益が還元される仕組みが取られています。
一般投資家は、「株式」をすべての会社から自由に買えるわけではありません。そのような取引が可能かどうかで、株式会社は「上場会社」と「非上場会社」に分かれています。

上場会社

上場会社とは、証券取引所において株式が公開されていて一般投資家が自由に売買できるよう、株式を公開している会社のことをいいます。

非上場会社

非上場会社とは、上場会社と反対に株式が公開されていない会社のことで、公開されていない株式は「未公開株」と呼ばれます。つまり、限られた人にしか保有されていなかった未公開の自社株を、株式市場に公開して一般投資家が自由に売買できるようにすることが、非上場会社の「上場」や「株式公開」、「IPO」といった言葉の意味になります。

株式市場の仕組み

株式市場とは、「発行市場」と「流通市場」の総称です。

発行市場

発行市場とは新規に取引される証券が売買される市場のことで、証券には株券以外にも社債などの債権も含まれています。この売買では、証券会社が仲介となって新しく売りたい証券を引き受けてもらい、それが投資家に販売されるという流れになります。ここで購入された証券はその後、流通市場で自由に売買されることになります。

流通市場

流通市場とは、すでに発行されている株式を投資家同士で売買し合う市場のことで、具体的には証券取引所で取引されます。証券取引所は全国5ヵ所にあり、東京にある「東京証券取引所(東証)」で最も盛んに取引が行われています。会社の株式をこれらの市場に上場するためには、それぞれの証券取引所が定める審査基準をクリアしなければなりません。

上場に伴うメリットとデメリット

株式を上場することで、会社には知名度や信頼性の向上など多くのメリットが期待できますが、中でも一番に資金調達におけるメリットがあります。
会社が上場して自社株が公開されると、一般投資家からの出資による資金調達の多様化が望め、また信頼性の向上から銀行から融資を得やすくなるといった効果もあります。資金を得やすくなることで、さらなる会社の成長につながるでしょう。

一方で上場に伴うデメリットとして、社会的責任の発生が挙げられます。会社は上場することでパブリックな立場となり、広く世間の目にさらされることになります。そのため、より高いコンプライアンスが求められること、会社にとって不利な情報であっても開示する必要性が生まれることなど、強い社会的責任を負わなくてはなりません。

上場審査において注意すべきポイント

会社が新規に上場する際に、最も問題となるのが事前準備です。上場までの道のりでは、公認会計士などの監査法人による監査が必要で、監査を受け入れる体制を整えるため、適切にスケジューリングして対応しなければなりません。

コーポレート・ガバナンスと内部管理体制

数ある上場審査の中でも特に注意が必要なのが、コーポレート・ガバナンスと内部管理体制です。例として東証マザーズに上場する場合の上場審査基準を以下の表1に示します。

表1 上場審査基準の例(東証マザーズの場合)
項目 内容
企業内容、リスク情報等の開示の適切性 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること
企業経営の健全性 事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること
事業計画の合理性 当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みがあること
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

コーポレート・ガバナンスとは、企業理念に反した経営や不正行為を阻止して、長期的に見て会社が健全に成長することを促す仕組みのことを指します。
一方で内部管理体制とは、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令の遵守、資産の保全の4つの目的を達成するための会社のシステムを指します。
コーポレート・ガバナンスと内部管理体制の考え方で共通しているのが、透明性の高い財務報告を重視しているという点です。財務報告の信頼性に関しては、実務に深く関係するため、監査法人による監査でも非常に重要視されます。

上場までのスケジュール

では実際に上場までにどのような準備をすればよいのか、スケジューリングの一例を以下の表2に示します。
一般的に監査法人による監査が行われるのは、上場目標年度の2期前からです。従って、さらにその前の段階から、会計管理制度や内部管理制度の問題把握と整備を行う必要があります。
事前準備が余裕を持って行われるべきなのは、監査において問題が見つかった場合、目標としている上場スケジュールを延期しなければならなくなる恐れがあるからです。

表2 上場準備のスケジューリング例

上場するには税理士が重要?

内部管理体制を整備するために最も重要となるのが財務報告の信頼性の確保ですが、これに有効となる対策の1つが「決算の早期化」です。会社が上場するにあたって、ITの進化やグローバル化に伴う会社外の環境のめまぐるしい変化に即時対応しなければならず、財務に限らずスピード感を持って情報を発信していくことが求められます。東証は決算の開示を45日以内が適当で、30日以内が望ましいと定めています。しかし、新興企業の多い東証マザーズでの決算開示平均日数は、他の上場会社と比べて5日ほど長くなっているのが実情で、決算開示の遅さが法人監査でのネックになるケースもあります。
ここでは決算早期化という表現を使っていますが、決算早期化は決算業務の効率化を図ることとほぼ同じという考え方ができます。会計処理のプロセスを見直して手間やコストを削減することで、正確性の高い財務報告が可能となると同時に、決算の早期化へとつながります。これらの工程は、普段会計アドバイスのみしか行っていない税理士では対応が困難といえるでしょう。

また他に陥りがちな問題点として、法令の遵守の問題があります。上場する会社には、「法人税法」や「会社法」、「金融商品取引法」を遵守しなければならないのですが、上場していない中小企業では、「法人税法」のみを遵守していれば十分に営業できるというのが実情です。
以上の2つの課題にしっかり対応するためにも、上場準備に精通した税理士を選んで、相談しながら内部体制を整備していきましょう。

実際の株式上場の流れ

実際に上場した会社の事例を紹介します。
10年ほど前に創業した某飲食チェーンは、小さな店舗から徐々に成長していき、先日ついに株式上場を果たしました。ここまでの順調な成長の背景にあるのが、低価格を売りにした、庶民的な味は守りつつブランド力を高める仕組みを形作った経営方針です。その経営方針の根幹にあったのがフランチャイズ戦略でした。この飲食チェーンは、従業員が素人でも営業できるよう、徹底した業務のマニュアル化と簡素化を行いました。これによってフランチャイズでの経営が可能となり、その結果として多くの店舗と確かなブランド力を得ることとなりました。

そもそも飲食業でありながら上場することにしたのは、さらなる店舗拡大を目指す上で、会社としての基盤を強化することが目的でした。その先にある最終目標は提供する料理を文化として根付かせることであって、上場はその道のりへの一歩目と言えるでしょう。

上場を目指すにあたっては、よりパブリックな存在となる会社のあるべき姿、会社の強みを把握する必要があります。そこでこの会社が打ち出した強みが、確かなブランド力とマニュアル化による事業展開でした。この強みは業態が単一であることで可能となり、実際に上場した後も続けられています。マニュアル化による事業展開は、店舗数拡大を伴っても内部の管理体制を維持することを容易とし、いたずらに業種を増やすことで生じるリスクの増大を避けることができます。

上場することを決めたのは2年ほど前のことです。通常3年は必要とされる上場準備期間ですが、2年という短期間で進めることができたのも、この飲食チェーンが単一業態をとっていることが背景にありました。多くの店舗を持ちつつも業態はみな同じであったことから、財務管理が比較的容易で、内部管理体制の整備と構築をスムーズに進めることができました。またここでの体制構築で肝になったのが、上場経験の豊富な税理士の存在でした。創業から日も浅く、上場準備でわからないことばかりだった経営者でしたが、税理士のコンサルティングがあったからこそ上場準備を迅速にすすめることが可能となったのです。

まとめ

監査法人の厳しい監査に向けて、財務報告の信頼性や法令の遵守を重視した会計管理制度の構築が求められます。会社を取り巻く環境が大きく変化する中で、経験の豊富な税理士と協力して確かな上場準備を行いましょう。

東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。

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