法人の税金はどう計算されるの?意外と知らない会社の経費について解説

[取材/文責]阿部正仁

個人事業主と同じように、法人も所得金額に対して税率を掛けて法人税などを計算します。しかし、経費の計算方法は個人事業主の必要経費とは異なります。法人のメリットを上手に活用すればより多くの経費が計上できますが、やり方を間違えると税務調査で引っかかってしまいます。そこで、法人の経費について解説します。

法人の経費のアウトライン

法人の場合、経費の計算には業績報告など税金の計算以外の目的が含まれています。そのため、個人事業主の経費とは少し違います。それでは、法人の経費のアウトラインを見ていきましょう。

「経費=損金」は費用をベースに計算する

法人の所得から控除する経費を「損金」といい、これは個人事業主の「必要経費」に相当します。個人事業主の場合、必要経費を直接計算しますが、損金の計算は業績報告に用いる会計上の費用をベースに間接的に計算します。そのため、会計上の費用のうち、損金に計上できない項目については、法人税を計算する際、所得金額に加算します。この加算を「別表調整」といいます。会計上の利益から所得金額を調整するという、2段構えで計算する仕組みになっています。

法人の経費は3つに区分されている

法人の経費は次の3つに区分されており、同じ会計上の費用でありながら計算方法が若干異なります。

(1)売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

売上高にかかる原価であり、販売数量などから見積計算により損金に計上可能です。

(2)販売費、一般管理費その他の費用の額

水道光熱費などの諸経費は債務が確定している費用に限り損金に計上できます。そのため、上記(1)の原価のように、販売数量などからの見積計算による損金計上は認められません。「債務が確定している」とは次の3つを満たす場合を指します。

 

  • 債務が成立していること
  • 債務に基づき支払義務が発生していること
  • 債務の金額を合理的に算定できること
    例)修繕費:建物等の修繕を発注し、業者によって修繕が完了し、かつ客観的に金額の見積りが可能な状況になっていること

 (3)損失の額

損失の額のうち、株主への配当金や減資などの資本等取引を除いた項目になります。

経費に計上できない費用

会計上の費用に計上しても、経費(損金)に計上できない項目は次の通りになります。

 

  • 法人税や延滞税などの税金
  • 寄付金のうち損金算入限度額を超える金額
  • 交通反則金などの罰金 など

すべての所得と損益通算ができる

そもそも法人には個人事業主の所得税と違い、事業所得や雑所得などの所得分類という考え方が存在せず、すべての所得をひとくくりに考えます。そのため、株取引など本業以外の損失額でも本業の所得金額と損益通算することができます。そこが株取引の損失額を事業所得から控除できない個人事業主との違いです。

役員給与(代表者とその家族への給料)の取り扱い

代表者やその家族と法人は完全に別人格です。そこが会社と代表者が同一人物である個人事業主との違いになります。そのため、役員給与に対する取り扱いは法人独特のルールといえます。

経費に計上できる役員給与

役員給与は損金として認められますが、従業員への給与と違い、計上できる範囲に制限が設けられています。中小企業の場合、損金に計上できる役員給与は次の2つです。

 

  • 定期同額給与:月額給与など1ヵ月以内のスパンで支給する定額給与
  • 事前確定届出給与:役員賞与などの定期同額給与以外の給与のうち、税務署に事前に届出をした通りに支給した役員給与

代表者の役員給与も経費に計上できる

定期同額給与と事前確定届出給与に該当する役員給与なら、代表者に対する支給額も損金に計上できます。これが代表者への給料は必要経費に計上できない個人事業主との違いです。

青色事業専従者給与との共通点

家族への給与は法人の役員給与、個人事業主では青色事業専従者給与として経費に計上できます。ただし、家族への給与支給額は会社が自由に決められるため、計上できる金額が適正額の範囲内という縛りがある点でも共通しています。適正額とは、常識の範囲内であり、たとえば仕事内容が全く同じなのにもかかわらず家族への給与が従業員の3倍なら税務調査で引っかかる可能性が出てきます。

青色事業専従者給与と異なる点

家族への給与が経費に計上できても、役員給与と青色事業専従者給与とでは所得控除の面で異なります。役員給与の場合は支給対象者を代表者の扶養に入れることが可能ですが、青色事業専従者給与の場合は配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除との併用が認められません。たとえば、配偶者への年間給与を103万円以内にしたとします。法人なら代表者の扶養に入れて役員給与を経費に計上し、さらに代表者の配偶者控除も適用できます。しかし、青色事業専従者給与の場合は必要経費に計上できる代わりに配偶者控除は認められません。

損金に計上できる代表者への手当

個人事業主の場合、会社と同一人物である代表者への手当という考え方は存在しませんが、法人の場合、会社から支給される代表者への手当も他の従業員と同じように損金に計上できます。

社宅家賃の補助

自社所有の建物や会社で借り上げた賃貸物件を社宅として代表者に貸した場合、会社が補助する社宅家賃の一部が損金に計上できます。たとえば、賃貸物件を会社が借り上げて代表者に貸した場合、補助する金額が家賃の50%以内なら損金になります。

通勤手当・日当

社宅家賃の補助と同じように代表者への通勤手当や日当も損金に計上できます。しかも、非課税限度額の範囲なら代表者に対する所得税は非課税です。

 

個人事業主の場合、通勤費用のうち、実際に負担した交通費のみが必要経費に計上できるため、マイカー通勤のように通勤費用が客観的に分からないものまでは認められません。しかし、法人なら通勤距離に応じた通勤手当が損金に計上できます。マイカー通勤の非課税限度額は次の通りです。

マイカーなどで通勤している人の非課税となる1か月当たりの限度額の表

片道の通勤距離 1か月当たりの限度額
2キロメートル未満 (全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上 31,600円
出典:国税庁

 

一方、出張手当などの日当についても個人事業主の場合は実際に負担した金額になります。出張費用が客観的に分からない場合、手当として代表者に定額支給し、損金に計上できるのは法人のみになります。

法人独特のルール「損金経理」とは

損金経理とは、「接待交際費」や「固定資産売却損」などの勘定科目を用いて費用または損失の経理処理をし、会計上の費用に計上することを指します。法人の経費には損金経理が条件となっている項目が存在します。この条件を損金経理要件といい、経理処理が経費の計算に影響を及ぼします。

減価償却費・繰延資産の償却費

固定資産を税法上の使用可能期間に相当する耐用年数に応じて費用化する減価償却費や、開業費や礼金などの費用化する繰延資産の償却費には損金経理要件が適用されます。そのため、損金に算入する適正額を計算するのみでは不十分であり、経理処理により会計上の費用に計上することまで求められています。経理処理を怠ると損金への計上は認められません。

費用ではない項目でも損金に計上できる

法人の経費は会計上の費用をベースに別表調整をするという2段構えで計算するため、損金経理要件に該当しない項目は経理処理をしていなくても法人税を計算する段階で損金に計上できます。別表調整で損金に計上できる項目はおもに次の通りです。

 

  • 特別償却準備金
  • 〆後の従業員給与 など

まとめ

法人の経費は会計上の費用をベースに別表調整をするという2段構えで計算したり、損金経理要件があったりするため、個人事業主の必要経費と勝手が違うかもしれません。一方、会社との別人格を利用して、代表者への役員給与をはじめ社宅家賃の補助や通勤手当などが経費に計上できる範囲は法人のほうが広いといえます。法人のメリットを最大限に生かしましょう。

 

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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