自己資本比率を向上させる、債務免除について解説
借金を返せなくなるような財務状況に陥った時に、企業はどのように倒産を回避すればいいのでしょうか。いくつかある方策の1つに債務免除があります。債務免除とは、企業内から借りたお金を返すことを免除してもらうというものです。では、債務免除を行うことでどのようなメリット、デメリットが生じるのでしょうか。今回は債務免除を行なう理由と、その手順について解説していきます。
債務免除とは
企業が運用のための資金を十分に持ち合わせていない場合、社長や役員などから貸付を受けることが度々あります。これは企業が身内から借りている借金のようなものですが、このような特殊な関係においては、適正な手続きを踏むことによってこの借金の債務を免除することができます。このことを債務免除と言います。
債務免除を行う理由
債務を免除することが可能なため、メリットしかないように思われるかもしれませんが、当然デメリットも存在します。以下で詳しく説明していきます。
メリット
業績が良いかどうかを決める指標の1つに自己資本比率というものがあります。これは総資産に対する純資産の割合を表したものであり、より数値が高いほど業績が良いと判断されます。この数値を高めるのに適しているのが債務免除です。債務免除を行うことにより、免除された債務を会社の利益として計上することが可能になります。これは、元々返さなければいけないお金を免除されたので、会社にとっては得をしていると考えられるためです。したがって債務免除によって純資産が増え、自己資本比率の数値を向上させることができます。
また、節税が可能になるというメリットもあります。企業が社長からお金を借りているなら、このお金は社長から見て貸付金となります。もし社長が何かしらの事情で亡くなると、この貸付金は相続財産と見なされて相続税が課せられます。返還されないお金に税金が発生してしまうこのような状況を事前に回避するために、債務免除を活用することができます。
デメリット
債務免除された金額は会社の利益とみなされるので、債務免除益と呼ばれます。この債務免除益が繰越欠損金および当期に生じた赤字を超えた場合、法人税が課税されてしまいます。よって、債務免除を単発的に行うか、あるいは長期にわたって段階的に行うかは、財務状況に応じて判断する必要があります。繰越欠損金は9年(平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生じる欠損金額の繰越期間は10年)までしか繰り越せないと定められているので、現在どれくらい繰越欠損金が存在するのか、それはいつのものなのか確認しておきましょう。
また、社長以外に株主が存在している場合にもデメリットが生じる可能性があります。債務免除を行った場合、会社の純資産が増加し株の値段も上昇します。この時、社長以外の株主は何もしていないにもかかわらず株価が上昇しているため、会社から株主に対してお金を贈与されたとみなされ、株主に贈与税が課せられる場合があります。贈与税は基礎控除額110万円を超えた場合に課せられるので注意しましょう。
債務免除の方法
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- 債権者、すなわちお金の貸し手側から支払いの催促を行います。催促が必要な理由は、支払いを求めたにもかかわらず、貸付金を回収できなかったという証拠を作るためです。この証拠が提出できない場合、債権者が会社に対してお金を寄付したとみなされます。客観的な証拠として提出できるように、内容証明郵便で支払いの催促を行いましょう。
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- 債務免除を行う条件を満たしているかどうかを調べるために、会社の財務状況を調査します。債務が資産を超えている債務超過の状態が、相当期間継続しているという情報を確認することができれば大丈夫です。一般的には、債務超過が3~5年続いていると条件を満たしているとみなされます。ただしこの場合の「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態を踏まえて回収不可能かどうかを判断するのに必要な合理的な期間のことを指すので、場合によっては年数が変わることもあります。
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- 債務免除通知書または債務放棄通知書を送る際、内容証明郵便または配達証明郵便を必ず使用します。電話や普通郵便で送った場合、客観的な証拠として認められないので注意しましょう。通知書には債務免除の事実、契約日、商品名、商品代金、商品の引渡日、商品代金の支払期限、日時、債務者氏名・住所、債権者氏名・住所を記載します。同じ書類を3通作成し、自分、相手、郵便局にそれぞれ1通保管します。
- 貸倒れ認定で問題が起こった時に直ちに証拠を提出できるように、会社更生等手続き開始通知書、債権者集会の協議決定通知書、債務免除通知書などの書類を保管し、どこにあるかわかるようにしておきましょう。
債務免除の課税関係
最後に、債務免除を行うにあたり生じうる税関係のリスクを改めて整理しておきましょう。
法人税
債務免除を行った金額を利益とみなし、法人税が課税されます。繰越欠損金で相殺可能な場合は課税されることはありませんが、債務免除益すべてを相殺できない場合は超過分の金額に対して課税されます。よって、お金を返すことができないからといって安易に債務免除を行なうと不利益になる場合もあります。債務免除を必要とする会社には繰越欠損金が存在するケースが多いので、確認しておきましょう。
贈与税
債務免除によって返済の必要のなくなった分の金額は、債務者が債権者からの贈与により取得したものとみなされ、贈与税の対象となります。しかし、債務者が債務超過の状態などにあり、返済を行うのが困難であると認められる分の金額については、贈与税が適用されません。債務免除を行う時には債務者は返済の資力を欠いていることが通常ですので、あまり心配する必要はありません。
しかし債務免除で気をつけなければならないのは、債権者以外の株主に贈与税が課せられることがある点です。債務免除を行った結果として純資産が増加し株価が上昇すると、債務免除に関わっていない株主が得をします。この場合、会社から株主に対して株価が上昇した分を贈与したとみなされ、贈与税が課税されます。ただし、贈与税の控除額である110万円を超えない金額に関しては課税されません。
相続税
債権者が社長の場合、貸しているお金は社長の財産という扱いとなるため、社長が何らかの事情により亡くなると貸付金に対して相続税がかかります。そのため、債権者の健康に不安がある場合などは、早めに債務免除を行って債権者個人の財産を整理しておくのがよいでしょう。ただし、贈与税と同様にお金の返済が困難だと判断された金額に対しては課税されません。
まとめ
今回は債務免除について解説しました。多くのメリットもあればデメリットも存在することがご理解いただけたのではないでしょうか。今後債務免除を考えている場合、本当にその選択が企業にとって有益となるかどうか、財務状況と照らし合わせて慎重に検討しましょう。
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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