利用が進まないコロナ版ローン減免制度の概要とメリット・デメリット

[取材/文責]長谷川よう

多くの人が新型コロナウイルスの影響で収入が減少しています。中にはローンの返済が苦しくなった人もいるでしょう。そういった場合に利用したい制度が、コロナ版ローン減免制度です。しかし、コロナ版ローン減免制度は利用が進んでいません。
ここでは、コロナ版ローン減免制度の概要とメリット・デメリットについて解説します。

コロナ版ローン減免制度の利用が進まない現状とは

はじめに、コロナ版ローン減免制度の内容や制度の利用状況について見ていきましょう。コロナ版ローン減免制度とは、簡単にいうと、新型コロナウイルスの影響でローンなどの支払が難しくなった人に、破産手続ではなく、銀行などの金融機関の協力を得て債務免除を行う制度のことです。

 

コロナ版ローン減免制度は、制度を利用してローンなどの債務免除を行うことで、個人が生活を破綻せずに暮らしていけるようになったり、事業の再建ができるようになったりすることを目指しています。ただし、この制度は国ではなく、全国銀行協会などの金融協会が創立した、いわばガイドライン的な制度です。

 

では、コロナ版ローン減免制度の利用が進んでいるのかというと、残念ながら進んでいません。ローンの減免制度は、自然災害で住宅ローンなどのローンが返済できない人を対象に、昔からありました。2020年12月に、今まであった減免制度に新型コロナウイルスの影響で収入が減少した人も対象を拡大するという形で創設されました。

 

コロナ版ローン減免制度が創設された2020年の12月以降の利用状況を見てみると、2021年の6月までに1085件の申請が出されたのに対して、成立は3件しかありません。申請後の取り下げも300件近くあります。

 

これは、コロナ版ローン減免制度を利用するためには、すべての債権者から減免の同意を得ることが必要だからです。あくまで、ガイドライン的な制度のため、複数の金融機関などからのローンがある場合、1社だけが拒否するケースがあるなど、この制度を利用できないことも少なくありません。

コロナ版ローン減免制度の対象と手続きの流れ

コロナ版ローン減免制度の利用はあまり進んでいませんが、今後、新型コロナウイルスの影響の拡大が続くと、利用者が増加していく可能性もあります。

 

そこで、ここからはコロナ版ローン減免制度の対象と手続きの流れについて見ていきましょう。

コロナ版ローン減免制度の対象

コロナ版ローン減免制度は、人と債務、2つの対象がそれぞれ次のように定められています。

 

・対象者
新型コロナの影響で失業したり売上や収入が減少したりして、ローン(クレジット債務などを含む)の支払が難しくなった個人や個人事業主が対象です。

 

新型コロナの影響による失業や、売上や収入が減少した個人や個人事業主が対象者であるため、フリーランスは対象者に含まれますが、法人は対象外です。ただし、破産法に規定する免責不許可事由がないことや、反社会的勢力でない(おそれがない)ことなどの条件を満たす必要があります。

 

・対象債務
コロナ版ローン減免制度の対象となる債務は、次の2つです。

  • 2020年2月1日以前から負担していた債務
  • 2020年2月2日から2021年10月30日までの間に新型コロナウイルス感染症の影響による収入や、売上げへ減少の対応のために負担した債務(政府系金融機関、民間系金融機関のもの)
    例えば、政府系金融機関の新型コロナウイルス感染症特別貸付や民間系金融機関の個人向け貸付けなどが対象となります。

コロナ版ローン減免制度の手続きの流れ

次に、コロナ版ローン減免制度の手続きの流れを見ていきましょう。

 

コロナ版ローン減免制度では、裁判所などの特定調停が必要となるため、弁護士などの専門家の支援が必要です。コロナ版ローン減免制度の手続きの流れは、次のようになります。

 

①債務者に制度利用の申し出
まずは、銀行などのローン債務者に、コロナ版ローン減免制度を利用することを申し出ます。

 

②登録支援専門家に支援を依頼
弁護士などの登録支援専門家に支援を依頼します。支援の依頼は、地元弁護士会などを通じて、自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関に依頼することになります。

 

③協議
支援の依頼を受けた弁護士は、銀行などのローン債務者と減免について協議を行います。

 

④すべての債務者が合意
コロナ版ローン減免制度を利用するためには、すべての債務者の合意が必要です。

 

⑤特定調停の申し立て
すべての債務者から減免についての合意を得ることができたら、簡易裁判所に特定調停の申し立てを行います。特定調停により調停条項が確定すれば、減免の確定になります。

コロナ版ローン減免制度利用のメリット・デメリット

コロナ版ローン減免制度の利用には、メリットとデメリットがあります。コロナ版ローン減免制度の利用を行う際には、メリットとデメリットをしっかりと把握しておく必要があるでしょう。

 

そこで、ここからはコロナ版ローン減免制度利用のメリット・デメリットを見ていきます。

コロナ版ローン減免制度利用のメリット

コロナ版ローン減免制度利用のメリットには、次のようなものがあります。

 

・財産の一部を手元に残せる
どこまでの財産を手元に残せるのかについては、生活状況などの個人の状況で異なりますが、一定限度額の財産を手元に残すことができます。そのため、コロナ版ローン減免制度を利用したからと言って、生活ができなくなることはありません。

 

・「信用情報機関」に登録されない
コロナ版ローン減免制度利用のメリットの大きなものに、制度を利用しても「信用情報機関」に登録されない、いわゆるブラックリストにのりません。

 

自己破産の場合には、その情報がブラックリストにのるため、クレジットカードが作れなかったり、新たな借り入れができなったりするなどのデメリットがありますが、コロナ版ローン減免制度利用では、これらのデメリットはありません。

 

・「登録支援専門家」からの支援が無償で受けられる
コロナ版ローン減免制度では「登録支援専門家」からの支援が無償で受けられます。返済の必要がないため費用の心配をしなくてよいメリットがあります。

コロナ版ローン減免制度利用のデメリット

次は、コロナ版ローン減免制度利用のデメリットです。コロナ版ローン減免制度利用のデメリットには、次のようなものがあります。

 

・同意がないとローンを減免できない
コロナ版ローン減免制度は、銀行などの債務者の同意がないとローンを減免できません。複数の債務者からのローンなどがある場合には、すべての債務者からの同意が必要です。コロナ版ローン減免制度に申し込んだからといって、必ず債務の減免ができるわけではないので、注意が必要です。

 

・ローン減免制度の利用が不発に終わった場合、返済を一括で請求される可能性もある
これは、必ず行われるというわけではありませんが、ローン減免制度の利用が不発に終わった場合、銀行などの債務者から、返済を一括で請求される可能性もあります。あらかじめ、専門家などに返済を一括で請求される可能性があるのかどうか、相談しておく必要もあるでしょう。

まとめ

コロナ版ローン減免制度とは、簡単にいうと、新型コロナウイルスの影響で、ローンなどの支払が難しくなった人に、破産手続ではなく、銀行などの金融機関の協力を得て債務免除を行う制度のことです。

 

2020年12月にできた比較的新しい制度ですが、すべての債権者から減免の同意を得ることができないと活用できないなどの理由から、あまり制度の利用は進んでいません。ただし、今後も新型コロナウイルスの影響の拡大が続くと、利用者が増加していく可能性もあります。コロナ版ローン減免制度のメリットとデメリットをしっかりと理解し、制度の利用を行うようにしましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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