個人事業主が法人化したときの税金や処理はどうなるの?
個人事業主と法人。事業を営んでいる場合、どちらかの形態をとります。一般的に利益が大きくなれば、税金面などで法人の方が有利といわれ、個人事業主から法人化することも多くなります。では、法人化した場合、税金やその後の処理はどうすれば良いのでしょうか。個人事業主が法人化したときの処理等について解説します。
個人事業主が法人化した場合の手続きを知ろう
個人事業主が法人化する前に、そのメリットやデメリットを知ろう
個人事業主が法人化を考える際には、法人化のメリットとデメリットを考慮する必要があります。法人化のメリットには、次のようなものがあります。
・対外的な信頼がある
・節税ができる
・自分や家族への給料が経費になる
・欠損金の繰越期間が長い
一方、法人化のデメリットには、次のようなものがあります。
・開業のコストがかかる
・事務負担が多い
・社会保険の加入が必要
また、個人事業主の場合と法人化した場合の税金のシミュレーションも必要です。
詳しくは、個人事業主と法人のメリット・デメリットや税金のシミュレーション方法を記載した弊社下記のページをご参照ください。
法人化をするために必要な手続と、法人化した後の手続き
法人化のメリットとデメリットを考慮し、税金のシミュレーションをした結果、法人化が決定すると手続きに移ります。また、法人化した後にも必要な手続きがあります。それぞれを見ていきましょう。
①法人化の手続き
・商号の確認
商号とは法人の名前のことです。同じ名前で同じ仕事をしている場合、あとで訴訟問題などに発展する可能性がります。法務局などで、あらかじめ似たような商号がないかを確認します。
・定款の作成
定款とは、どんな仕事をするかといった目的や、商号など会社の基本の決まり事を記載した書類です。作成後、公証人役場の承認を受けます。
・資本金の用意
会社設立のためには、資本金の用意が必要です。社長個人の口座に資本金を用意し、残高証明書や通帳のコピーをとります。
・設立登記
登記申請書や定款、印鑑証明書、残高証明書や通帳のコピーなどの必要書類を用意し、法務局で設立登記をします。この設立登記が完了すれば法人の設立も完了です。
②法人化した後の手続き
法人化をした後は、税務署や都道府県・市区町村に設立届を、年金事務所に社会保険関係の届け出を、労働基準監督署等に労働保険関連の届け出を提出する必要があります。
主な届出の一覧は以下の様になります。
法人設立の場合の主な届出一覧
提出先 | 提出書類 |
---|---|
税務署
|
法人設立届出書 |
青色申告の承認申請書 | |
棚卸資産の評価方法の届出書 | |
有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書 | |
減価償却資産の償却方法の届出書 | |
給与支払事務所等の開設届出書 | |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | |
都道府県 | 法人設立届出書 |
市区町村 | 法人設立届出書 |
労働基準監督署 | 労働保険 保険関係成立届 |
労働保険 概算保険料申告書 | |
ハローワーク | 雇用保険 適用事業所設置届 |
雇用保険 被保険者資格取得届 | |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 |
法人化したら、個人事業主の税金に注意しよう
法人に移動した棚卸資産は、個人事業の収入になる
個人事業主が法人化すると、個人で持っていた資産の多くを法人のものとして使います。
もちろん、個人が持っていた販売用の商品(棚卸資産)も法人に引き継ぎ、法人で販売します。では、この販売用の商品(棚卸資産)について、個人と法人の間でどのようなやりとりが行われるのでしょうか。
法人といっても本人が代表者で仕事をしているため、通常は、金銭の授受はありません。しかし法律上、個人と法人は別人格のため、個人から法人に棚卸資産を売却したと考えます。そのため、法人化した年に行う、最後の個人事業主の確定申告で、売上として計上する必要があります。実際には金銭の授受がないので、その販売価額については次の計算式で求めます。
商品を法人へ引き継ぐときの販売価額=通常の販売価額×70%以上
通常の販売価額の70%以上であれば、その金額が認められます。70%未満の場合は低額譲渡になり、さまざまな問題が出てきます。通常の販売価額の70%以上の金額で売上に計上しましょう。
また、毎年、貸倒引当金の計上を行っている場合は、最後の個人事業主の確定申告で戻入の処理を行います。貸倒引当金の戻入額は収益となり、税金が増える要素となるので注意しましょう。法人化に伴い、債務の免除があった場合も収益になります。
法人に移動した固定資産は、譲渡所得の収入になる
次に個人が所有していた固定資産について見ていきましょう。法人化すれば、固定資産も個人から法人に引き継ぎます。こちらも棚卸資産と同じように、現実には無償で引き継ぐ場合が多いですが、個人から法人に固定資産を売却したと考えます。所得税では、固定資産の売却は事業の所得とは別の所得である「譲渡所得」になります。そのため、事業の帳簿には記載せず、確定申告でその利益(所得)を計算します。では、固定資産の場合、その売却価額はどのように考えるのでしょうか。個人から法人化した法人への売却価額は、次のようになります。
固定資産を法人へ引き継ぐときの販売価額=時価の1/2以上
時価とは実際にその固定資産を、今の状態(中古)で販売するときの価額です。
通常では帳簿価額は時価の1/2以上になることが多いため、帳簿価額で販売したことにし、譲渡所得を発生させないため、税金(所得税)には影響しません。
※法人設立時の資本金を現金ではなく、固定資産による出資(現物出資)にし、固定資産を個人から法人へ引き継ぐ方法もありますが、その場合も税法上は個人から法人への売却と考えます。
法人化したら、法人の税金に注意しよう
棚卸資産や固定資産等の引き継ぎの処理をしよう
次に、法人側の処理について見ていきましょう。法人化した際の棚卸資産や固定資産は、個人にとっては売却ですが、法人にとっては購入です。そのため棚卸資産は商品の購入に、固定資産は中古資産の購入になります。
個人の販売価額と法人の購入価額は同じ金額にならないと整合性がとれません。帳簿付けするときには注意しましょう。固定資産は中古資産の購入となります。中古資産の場合は新品資産と違い、耐用年数が何年になるかは自分で計算する必要があります。計算式は以下のとおりです。
中古資産の耐用年数=新品資産の法定耐用年数−経過した年数+経過年数×20%
※計算結果が2年未満の場合は2年とする。
個人事業主の場合、固定資産台帳などで所有している固定資産の管理をしています。そこに新品資産の法定耐用年数や、経過した年数などが記載されているので、その数字を参考に、上記計算式にあてはめて計算してください。棚卸資産や固定資産の引き継ぎは、処理を間違えると税金の金額が大きく異なる可能性があるため注意が必要です。
役員の給料を決めるときは慎重に
個人と法人との大きな違いの1つに、自分に対しての給料が経費になるかどうかがあります。個人事業の場合は経費になりませんが、法人の場合は「役員報酬」として経費にすることができます。しかし、役員報酬の金額を決めるときは注意が必要です。
法人の場合、役員報酬は原則、1年間を通して、毎月同じ金額でないと経費として認められません。これを「定期同額給与」といいます。毎月の役員報酬をころころ変えてしまうと、一部しか経費に認められなくなってしまい、税金が多くかかります。
※期末日後3ヶ月以内に開催する定時株主総会で決定した役員報酬の改定や、役員の地位の変更などの特別な理由での改定の場合のみ、役員報酬を変更しても経費として認められます。そのため、法人を設立して、役員の給料を決めるときは、先のことまで考えて決めるようにしましょう。
まとめ
個人事業主が法人化した時には、いろいろな手続きや複雑な処理が必要になります。また、処理を間違えると、税金の計算にまで影響を与えます。この記事では、一般的な処理方法を解説しています。法人化の際はまずこの記事を参考にしていただき、自分自身の場合どうなるか不明点等がある場合は、税理士等の専門家に相談しましょう。
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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