いまさら聞けない支払調書の基礎知識
事業主になるといきなり公的な手続きや書類が一気に増えて大変です。特にややこしい書類も多いので疎かになり易いですが、よく理解して書類を提出しないと一歩間違えるだけで大きな損害を起こしかねません。マイナンバーとの関連も含めて、今さら聞けない支払調書のおさらいを済ませましょう!
支払調書の基礎知識
支払調書とは、所得税法をはじめとする法律の規定により税務署への提出が義務付けられている法定調書の中の一つの種別です。59種ある法定調書の多くは源泉徴収票か支払調書に大分されます。支払調書と源泉徴収票は類似点も多く、混同されがちですが、実際には全くの別物です。まずは支払調書が何なのかを正しく理解していきましょう。ここでは、もっとも一般的な支払調書である「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」に絞って説明していきます。
支払調書とは何か?
源泉徴収票が、会社の給料や退職金の支払いが生じた際に、その支払いをした側の者が税務署に提出する法定調書であるのに対して、支払調書とは、個人事業主や法人に対して報酬などを支払った際に、その支払いをした側の者が税務署に対して提出しなければならない法定調書です。支払調書の場合、源泉徴収票とは異なり報酬の受け取り手への交付の法的義務はありません。しかし慣習的に、税務署だけでなく報酬の受け手に対しても交付することが多いです。というのも、支払調書には報酬額や源泉徴収額といった情報が記載されているため、報酬の受け手が支払調書を入手できれば、確定申告の際などにそれが受け取った報酬とすでに源泉徴収によって納めている税金の額の証明となるからです。
報酬等の支払調書の提出範囲
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出義務が生じるのは、以下の場合に限られます。
1.外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサー等の報酬、料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬、料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
2.馬主に支払う競馬の賞金については、その年中の1回の支払賞金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中の全ての支払金額
3.プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、その年中の同一人に対する支払金額の合計額が5万円を超えるもの
4.弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるもの
5.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
この基準は、源泉徴収票(給与所得の源泉徴収票や退職所得の源泉徴収票)のそれとは大幅に異なっています。支払調書は源泉徴収票とは別の独立した法定調書なので、仮に源泉徴収票の提出義務が発生しない事例に関しても、上記5つのどれかに該当している場合は、支払調書の提出が義務となります。
ここで取り上げた「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の他にも、主だった支払調書として以下の3つがあります。
・不動産の使用料等の支払調書
・不動産等の譲受けの対価の支払調書
・不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
いずれも税務署への提出義務を有するのは、支払を行った者の側であることに再度注意してください。
提出期限はいつまでか?
上に挙げた4つの支払調書については、源泉徴収票などと同様、原則として支払確定日が属する年の翌年1月31日までに、支払事務を取り扱う事務所・事業所等の所在地を所轄する税務署長に提出することになっています。さらに、これらの法定調書を税務署へ提出する際には、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を作成・添付しなければなりません。法定調書合計表とは、事業主体ごとにその内部の個々の法定調書を集計したもののことです。
また税務署に提出する法定調書については、所定の手続きなどを踏めば、書面によらずインターネットを利用したe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用しての送信や、法定調書の記載事項を記録したDVDやCDなどの光ディスクによる提出も認められています。特に、法定調書の種類ごとにカウントした時に、前々年の提出すべき枚数が1,000枚以上という条件に該当している種類の法定調書に関しては、平成26年1月1日以後、e-Taxまたは光ディスク等による提出が義務化されています。
さらに令和3年1月1日以降は、法定調書の種類ごとに前々年の提出すべき法定調書の枚数が「100枚以上」の場合、光ディスクを用いて法定調書を作成することも可能になっています。
マイナンバーとの関係は?
平成28年から始まったマイナンバー制度は、税・災害対策・社会保障の3つの局面において、複数の機関に保有されている個人の情報が同一人物のものであることを確認するためのものです。この制度の導入に伴い、平成28年1月1日以後に支払の確定する、報酬等に係る支払調書についても報酬の支払者・受領者のマイナンバーまたは法人番号の記載が必要になりました。
ここで注意しなければならない点があります。上述のように「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は所得税法上、報酬の受け取り手に交付する義務がありません。そのため、報酬等の支払調書の写しを受け取り手に対して交付する場合には、番号法上の特定個人情報の提供制限を受けることなり、写しの書類上にはたとえ本人のものであろうとマイナンバーを記載することができません(ただし法人番号については、マイナンバーとは異なり番号法上の提供制限がありませんので、任意で記載いただくことは可能です)。また、報酬の受け取り手から提供を受けたマイナンバーに関する情報を適切に管理・保管、そして廃棄する義務も負うことになります。
平成28年、マイナンバー制度が導入されました。制度の導入に伴い、現在の報酬に係る支払調書には、マイナンバーまたは法人番号の記載が必要になっています。
そもそもマイナンバー制度とは、複数の機関に保有されている個人情報が同一人物のものであることを確認するための制度です。税・災害対策・社会保障の3つの局面において活用されてきましたが、最近利用範囲を拡大する改正案が決定しました。今後は税・災害対策・社会保障だけでなく、国家資格の更新や自動車に関わる登録などさまざまな分野でマイナンバーの利用が可能になります。
マイナンバーに関する支払調書の注意点は、報酬等の支払調書の写しを受け取り手に交付する場合に、写しの書類にマイナンバーを記載することができないことです。上述したように報酬等の支払調書は、所得税法上受け取り手に交付する義務はありません。そのため、交付する場合は番号法上の特定個人情報の提供制限を受けることになるのです。(ただし法人番号についてはマイナンバーと異なり番号法上の提供制限がないため、任意で記載することが可能です)
また写しにマイナンバーを記載できないだけでなく、報酬の受け取り手から提供を受けたマイナンバーに関する情報を、適切に管理・保管、廃棄する義務も負います。
まとめ
今回は税務署への提出が義務づけられている法定調書の中でも、報酬等の支払いにかかわる支払調書について取り上げました。支払調書の税務署への提出が義務となるのは5つの場合がありましたが、その基準は源泉徴収票のそれとは大きく異なり、報酬の受け取り手への交付義務がないといった特徴もありました。また、最近導入されたマイナンバー制度に伴い、支払調書に関しても注意しなければならない事柄が増加しています。
▼参照サイト
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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