範囲見直しで優遇の対象から外れているかも?みなし大企業と優遇税制について徹底解説

[取材/文責]清水瑛介

2019年度の税制改正で「みなし大企業」の範囲が見直されようとしています。この見直しによって税制の優遇が受けられなくなる企業があります。そこでここでは、変更の内容から優遇税制への影響まで徹底的に解説します。

みなし大企業とは?

みなし大企業とは

みなし大企業とは、資本金や従業員数など企業規模の面では中小企業ですが、大企業である親会社から出資を受けているなど、実態としては大企業の支配下にある企業を指します。みなし大企業は、中小企業基本法では中小企業として認められています。しかし、国や自治体などが中小企業を支援するための補助金や法人税の軽減措置を出す際に、大企業とみなされて対象から外れることがあります。

2019年度税制改正案におけるみなし大企業の定義

2019年度の税制改正案によって定められた「租税特別措置法」におけるみなし大企業の定義は、資本金または出資金が1億円以下の法人のうち、以下の2点のいずれかを満たす法人となっています。
 

  • 発行済み株式または出資の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人
  • 発行済み株式または出資の3分の2以上を大規模法人に所有されている法人

 
この定義中に現れる大規模法人とは、以下のいずれかにあてはまる法人を指します。
 

  • 資本金または出資金が1億円超の法人
  • 資本または出資を有しない法人で常時使用従業員数が1,000人超の法人
  • 大法人(資本金または出資金が5億円超の法人など)の100%子法人
  • グループ内の複数の大法人に発行済み株式または出資の全部を保有されている法人

租税特別措置法におけるみなし大企業の範囲の見直し

平成31年税制改正前と改正後で範囲を比較

上述した租税特別措置法におけるみなし大企業の定義は、2019年度税制改正後に見込まれる定義となっています。改正前と比較して、どこが変わるのかを確認しましょう。みなし大企業の範囲の見直しによって、税制の優遇が受けられなくなるかもしれません。
 

今回の改正前後のみなし大企業の範囲の変化は、大規模法人の定義の変更によるものです。現行の大規模法人の定義は、以下の通りです。
 

  • 資本金または出資金が1億円超の法人
  • 資本または出資を有しない法人で常時使用従業員数が1,000人超の法人

 
今回の改正により、これに次の2つの要件が加わることになります。
 

  • 大法人(資本金または出資金が5億円超の法人など)の100%子法人
  • 100%グループ内の複数の大法人に発行済み株式または出資の全部を保有されている法人

 
これに従い、実態として大企業の支配下にある企業を、より厳密にみなし大企業として判断するようになることが予想されます。例えば、大法人の100%子法人の100%子法人である「大法人の孫法人」は、現行制度では中小企業者とみなされていましたが、改正以後にはみなし大企業とされます。

範囲の見直しに関して、今後起こりうる変更ポイント

みなし大企業の範囲見直しに関連して、今後変更が起こりうるポイントがあるので、確認しましょう。
 

  • 適用時期について
    まず、今回の税制改正案では、適用時期が明記されていません。そのため、適用時期に関する変更がある可能性があります。
  • 大規模法人の定義について
    今回、大規模法人の定義のひとつに「大法人の100%子法人」が加えられました。今後は、「大法人による完全支配関係がある法人」に範囲が変わる可能性もあります。

中小企業者と中小法人

みなし大企業の話をする際には、中小企業者と中小法人という紛らわしい2つのキーワードが出てきます。ここで改めて確認しておきましょう。
 

端的にいうと、「中小企業者」とは、租税特別措置法において定義された中小企業のことで、「中小法人」とは、法人税法において定義された中小企業のことです。前述したみなし大企業は、租税特別措置法における定義です。つまり、「中小企業者」にあてはまらない中小企業ということになります。法人税法で定義されたみなし大企業とは異なるので、「中小法人」にあてはまるかどうかとは区別して考える必要があることに注意しましょう。
 

では実際には、両者はどのような定義になっているのか、順に整理していきましょう。

中小企業者

中小企業者は、以下のいずれかにあてはまる企業を指します。
 

  • 資本金または出資金が1億円以下で、かつ、前述のみなし大企業の条件にあてはまらない企業
  • 資本または出資を有しない法人で常時使用従業員数が1,000人以下の法人

中小法人

中小法人は、以下のいずれかにあてはまる企業を指します。
 

  • 普通法人のうち、資本金または出資金が1億円以下で、かつ、単独または複数の大法人による完全支配関係がない法人
  • 公益法人や協同組合、人格のない社団など

 
このように、中小企業者と中小法人とでは、多少定義が異なります。そのため、中小法人ではあるが、中小企業者にはあてはまらないというケースなどもありえます。
 

例えば、資本金または出資金が1億円以下の法人で、発行済み株式または出資の70%をある大法人に所有されている場合は、租税特別措置法ではみなし大企業となるため「中小企業者」にはあてはまりませんが、法人税法では「中小法人」として扱われます。実務上、両者の区別という面で注意が必要です。

優遇税制への影響

最後に、今回のみなし大企業の範囲拡大の影響を受ける主な優遇税制と簡単な内容をまとめていきます。みなし大企業となってしまうと、これらの優遇税制が受けられないので注意が必要です。
 

  • 中小企業投資促進税制
    中小企業者が一定の設備投資を行なった場合に、30%の特別償却、または、資本金3,000万円以下の法人に限り7%の税額控除が受けられるという制度です。
  • 中小企業経営強化税制
    中小企業者が経営力向上計画に基づき、一定の設備投資をして指定の事業に用いた場合に、即時償却、または、取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の場合7%)について法人税の税額控除が受けられるという制度です。
  • 商業・サービス業・農林水産業活性化税制
    商業・サービス業などを営み、青色申告書を提出する中小企業者が、経営改善設備の投資を行なった場合に、30%の特別償却、または、資本金3,000万円以下の法人に限り7%の税額控除が受けられるという制度です。
  • 研究開発税制
    青色申告書を提出する中小企業者等が、研究開発費に応じて、最大で法人税相当額の25%程度の税額控除が受けられるという制度です。
  • 所得拡大促進税制
    青色申告書を提出する中小企業者が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、増加額の一部を法人税から控除できる制度です。
☆ヒント
上述されている優遇税制の他にも、今回の改正による影響を受ける優遇税制があります。また、これらの優遇税制が受けられなくなった場合に、他の制度で税の優遇を補填することができる場合があります。各種優遇税制についてさらに詳しく知りたい方は、税理士に相談してみてはいかがでしょうか。ビスカスでは、優秀な税のエキスパートを多数紹介しておりますので、この機会に是非ご利用をご検討ください。

まとめ

今回は、みなし大企業について説明してきました。優遇税制の対象外になってしまう可能性もあるので、注意しなくてはいけない変更です。これを機に、優遇税制について考えてみてはいかがでしょうか。

東京大学卒。現、同大学院所属。
不動産投資に長らく関わっており、不動産に関する税制や相続が得意分野。
税理士事務所でアルバイトとして従事。

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