実務担当者必見!法定調書の効率的な作成方法
年が明けて経理の方が最初に取り掛かるであろう作業の1つに「法定調書」があります。会社が1年間のうちに「一定の要件に該当する支払いをした場合」に税務署に対して報告する義務を負う「法定調書」とはどんなものなのか?作成する意味と作業手順について解説していきます。
まずは知っておきたい法定調書を作成する理由
法定調書とは何か?
税務署から届く年末調整の書類のなかに「法定調書」という書類が同封されています。
「法定調書」とは「所得税法」「相続税法」「租税特別措置法」及び「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により、一定の要件に該当する支払いをした者が税務署に提出を義務づけられている調書(支払調書)のことを指します。
源泉所得税の精算業務である「年末調整」と違い「法定調書」には納税がなく、調書の提出のみ求められます。ともすれば提出しなくても違反にはならないのでは……と思うかもしれません。しかし一定要件の支払をした場合「法定調書」の提出義務がありますので、義務を怠れば当然各種の罰則規定があります。
所得税法や相続税法など提出の根拠条文はさまざまですが、いずれの法律でも提出をしなかった場合「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」となっています。したがって意図的に提出しないのは勿論、うっかりして提出を忘れた!ということがないよう注意しなければなりません。
法定調書を作成することの意味
「法定調書」提出の目的は「支払者の支払内容を正確に把握すること」とありますが、その先にあるのは「受け取った者が正しく税務申告をしているか」を税務署が把握するための裏付け資料であることに他なりません。
受け取った側に対する調査資料であることは当然、税法では明文化されてはいませんが、対象となる支払いがいずれも「確定申告が必要になるであろう所得」であることを考えれば容易に想像がつきます。
なお、税務署が提出を求めるものとして同様の目的を持つ資料に「資料せん」というものがあります。会社が支払った「仕入」や「外注費」、「交際費」「支払リベート」を報告するものですが、資料せんも税務調査の裏付け資料としてよく使用されます。
効率よく進めたいならこれ!法定調書の作成方法
効率化の第一歩は事前準備から
「法定調書」は、報告しなければならない「支払調書」の総称であり、提出する各種の「支払調書」を「合計表」と呼ばれる用紙に合計転記し、支払調書を添付して提出します。「支払調書」と呼ばれるものは全部で60種類ありますが、今回は一般的に提出することが多い支払調書を列挙してみましょう。
- ① 給料や賞与の支払いをした場合
→「給与所得の源泉徴収票」 - ② 退職金を支払った場合
→「退職所得の源泉徴収票」 - ③ 税理士や司法書士などに報酬を支払った場合
→「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」 - ④ 地代家賃を支払った場合
→「不動産の使用料等の支払調書」 - ⑤ 不動産を購入した場合
→「不動産等の譲受けの対価の支払調書」 - ⑥ 不動産売買の紹介料を支払った場合
→「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」
記載項目を漏れなく網羅するポイント
様々な支払調書を提出する必要がある「法定調書」作成の作業で、記載漏れや記載間違いを減らすためのポイントをいくつか挙げます。
(1)法定調書作成の元となるのは「年末調整」と「会計」
「法定調書」を作成するための元となる資料は大きく分けて「年末調整」と「会計」に分類されます。上記で挙げた代表的な支払調書でいえば①「給与所得の源泉徴収票」は「年末調整」から、②~⑥は「会計」から該当する支払いを記載していきます。
「年末調整」は源泉所得税の納付期限や給与支払報告書の提出期限がありますので「法定調書」の作成時期までに作業が完了していると思います。しかし「会計」は決算月でない限り、その年分の12月までの会計処理が完了していないケースがよくあります。
法定調書に記載する支払金額は「1月から12月までに支払が確定したもの」とされています。会計、特に12月分の会計帳簿が未了の場合、12月の支払いを記載漏れしてしまいがちですので上記②~⑥の支払調書を作成する際には注意が必要です。
(2)支払金額による提出要件の判定
例えば税理士報酬を支払った場合「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を提出しなければなりませんが、同一人に対する支払金額が「5万円以下」であれば提出を要しません。ここで「5万円以下」が税込金額なのか税抜金額なのか?という問題が発生します。消費税が明確に区分されていれば「税抜金額で5万円以下」は提出不要ですが、区分されて いない場合には「支払金額」で判定しなければなりません。
(3)記載する金額は税込金額
上記(2)のように消費税がかかる支払調書については原則として「税込金額で記載」しなければなりません。例外として消費税が明確に区分されていれば「税抜金額で記載」すること も認められますが、そのかわり摘要欄に消費税額を記載しなければなりません。
支払調書の枚数が多い場合にはこの摘要欄の記載が非常に煩雑になりますので、全て「税込 金額」で記載した方が作業が楽になります。
実務における法定調書作成の作業手順
年末調整データからの転記
まずは①「給与所得の源泉徴収票」の作成手順から解説しましょう。
- (1) 年末調整で「自社で給与を支払った人数」「自社で支払した給与支給額合計」「源泉徴収税額」を「合計表」に記載します。
注意点としては以下の通りです。- 「自社で給与を支払った人数」ですので退職者も人数に含みます。
- 「自社で支払した給与支給額合計」ですので、中途入社の人の前職分は含みません。
- 「源泉所得税額」も同様に中途入社の人の前職分は含みません。
- (2) 年末調整で作成した「源泉徴収票」を「年末調整をした人」「年末調整をしなかった人」の2グループに分けます。
- (3)「年末調整をした人」のグループを「役員」「従業員」「それ以外(司法書士など)」に分け、「年末調整をしなかった人」のグループを「役員」「乙欄者」「退職者等」に分けます。
- (4)6つに分けたグループの金額要件を確認し、該当する「源泉徴収票」だけを抜き出します。
- (5)抜き出した「源泉徴収票」の支払金額合計と源泉所得税額合計を「合計表」に転記します。
会計からの転記
次に②~⑥の支払調書の作成手順を解説しましょう。
- (1) 「会計」で処理が完了している月までのデータから②~⑥の支払調書に該当する勘定科目 の総勘定元帳を出力します。具体的には以下の通りです。
- ②「退職所得の源泉徴収票」→「役員退職金」「退職金」など
- ③「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」→「報酬料金」「管理料」「雑費」など
- ④「不動産の使用料等の支払調書」→「地代家賃」「賃借料」など
- ⑤「不動産等の譲受けの対価の支払調書」→「土地」「建物」など
- ⑥「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」→「仲介手数料」など
- (2) それぞれの総勘定元帳から提出要件に該当する支払を支払調書に記載していきます。
不動産の使用料については「支払いが確定したもの」を記載することになっています。従って、前払家賃でも12月末までに支払期限が来ていれば記載する必要があります。 - (3) 記載した支払調書の「支払人数」と「支払金額」を「合計表」に転記していきます。
提出前には必ず最終チェックを
「支払調書」とその「合計表」は添付する枚数と転記した金額が必ず一致していなければなりません。提出枚数が多い場合には特に注意が必要です。提出する直前にもう一度、各支払調書の「提出枚数」と「支払金額」を再度確認することをお勧めします。
まとめ
「法定調書」の提出期限は毎年1月末日となっていますが、年末調整や年末年始の繁忙期と重なるため、調書の作成に割く時間は限られてくることが予想されます。スムーズに作業が進むよう事前準備、特に会計処理の準備には万全を期すようにしましょう。
▼参照サイト
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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