個人事業主or法人、税金を最低限にする起業スタイルはどちらがベスト?

[取材/文責]阿部正仁

起業するときに「どのぐらい税金はかかるのか」は気になるところでしょう。同じ事業を行っていても、個人事業主または法人のどちらの起業スタイルを選択するかによって、納税額に差が生じます。そこで、コストを最小限にする起業スタイルの切り口から個人事業主と法人の税金の違いを中心に解説します。

個人と法人にかかる税金とは

個人事業主または法人設立のいずれかの方法で起業した場合に課税される税金について説明します。

起業するためにかかる税金

設立登記の手続きの有無によって起業にかかる税金は違ってきます。それでは個人・法人の起業スタイルごとに見ていきましょう。

(1)個人

個人事業主として起業する場合、設立登記をするかどうかは任意になります。そのため、法務局に手続きをしなければ税金はかかりません。設立登記をした場合には3万円の登録免許税がかかります。

(2)法人

法人として起業する場合、設立登記が義務付けられているため、必ず税金がかかります。登録免許税は株式会社などの組織形態によって異なります。

 

  • 株式会社:15万円または資本金×0.7%のうちの少額
  • 合同会社:6万円または資本金×0.7%のうちの少額
  • 合資会社、合名会社、一般社団法人:一律6万円

 

なお、個人と法人のいずれも税務署などへの開業手続きに税金はかかりません。ただ、許認可の対象業種で開業する場合、個人と法人を問わず手数料の負担が必要になります。

設立年度にかかる税金

個人と法人ごとに設立年度にかかる税金を見ていきましょう。

(1)個人

次の区分ごとに税金が課税されます。

 

  • 均等割
    均等割とはもうけや収入に関係なく、たとえ赤字でも課税される税金のことを指します。個人の均等割は原則、一律5,000円(2024年度までは5,500円)の住民税になります。
  • もうけに対する税金
    もうけに相当する所得に対して、所得税(5%~45%の7段階)、住民税の所得割(一律10%)、事業税(3%~5%)が課税されます。
  • 社会保険
    個人事業主として起業すると、社会保険は給与天引きされない代わりに自分で納めなければなりません。国民年金は月額1万6,410円(2019年度)と一律ですが、退職後の健康保険は後述する国民健康保険または任意継続健康保険(退職後も会社で加入していた健康保険を引き続き継続する)の選択制になり、負担額に差が生じます。

(2)法人

  • 均等割
    年7万円が最低額になります。「年」というキーワードが示す通り、この最低額とは12ヵ月間事業活動をした場合の税額です。そのため、設立年度が1年未満の場合は月数按分をするため、最低額も少なくなります。たとえば、第1期の事業年度が5ヵ月間の場合、「7万円×5ヵ月÷12ヵ月=2万9,100円(百円未満切捨て)」になります。
  • もうけに対する税金
    所得に対して法人税、地方法人税、住民税、事業税が課税されます。これらトータルの実効税率は約30%になります。
  • 消費税
    設立年度は原則、消費税は免除されますが、資本金1,000万円以上で設立した法人には課税されます。

役員報酬にかかる税金

法人の場合、事業活動で獲得した利益を代表者やその家族に対して分配した役員報酬にも所得税、住民税、社会保険(給与の約30%)が課税されます。そのため、法人を設立する場合には役員報酬に対する税金も考慮する必要があります。

税金面で得するのは個人?法人?

一度、起業すると「個人→法人」または「法人→個人」に変更するのは手間がかかります。法務局への手続きはもちろん、「○○工務店→株式会社○○工務店」などの名刺やパンフレットの表記内容も変更しなければならないためです。そのため、開業前に税金面と得する起業スタイルを知っておく必要があります。

所得に対する税率を低くするのが基本

そもそも事業活動はもうけを獲得するのが目的の一つであるため、所得に対する税率を低くするのが税金対策の基本になります。個人事業主や役員報酬に課税される所得税は累進課税により、所得金額に比例して税率が高くなるためです。

 

個人と法人の所得金額ごとの税率を比較すると次の通りになります。

課税所得金額 税率
個人 法人
所得税 住民税 合計 実効税率
195万円以下 5% 一律10% 15% 約30%
195万円を超え 330万円以下 10% 25%
330万円を超え 695万円以下 20% 30%
695万円を超え 900万円以下 23% 33%
900万円を超え 1,800万円以下 33% 43%
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 50%
4,000万円超 45% 55%

 

たとえば、課税所得金額が300万円の場合、法人の実効税率30%よりも個人の税率25%のほうが税金は低くなります。一方、課税所得金額が1,000万円の場合、個人の税率43%よりも実効税率30%の法人のほうが有利になります。

経費の範囲も考慮する

個人と法人との経費の範囲の違いは次の通りになります。

(1)家族への給与

家族に支払う給与に相当する「個人の青色事業専従者給与」と「法人の役員報酬」のいずれも経費に計上できます。しかし、所得控除の範囲に違いが生じます。

 

  • 青色事業専従者給与:配偶者控除や配偶者特別控除などの所得控除と併用できない
  • 役員報酬:配偶者控除や配偶者特別控除などの所得控除と併用できる

(2)代表者に対する通勤手当

法人の場合、会社と代表者は別名義のため、通勤手当を経費に計上できます。しかし、個人の場合、会社と代表者が同一人物のため、そもそも事業主に対する通勤手当という考え方が存在せず、定期代など実際の負担額しか経費に計上できません。そのため、マイカー通勤にかかる通勤手当は法人のみが経費に計上できます。

(3)代表者の社宅家賃

社宅家賃の会社負担額は、自社保有の建物または会社が賃貸契約をした物件を代表者へ貸す形式が採用できる法人のみが経費に計上できます。

青色申告特別控除vs給与所得控除~現金支出0円の所得控除~

現金支出が0円にもかかわらず、所得控除の可能な制度があります。それが個人の青色申告特別控除と役員報酬の給与所得控除です。所得控除額は青色申告特別控除が最高65万円に対して、給与所得控除は年収に応じて65万円(2020年からは55万円)~220万円(2020年からは195万円)です。そのため、役員報酬のほうが所得控除額は大きくなる傾向にあります。

国民健康保険と任意継続健康保険を比較検証

退職後の個人は国民健康保険と任意継続健康保険を一度選択すれば変更できません。そこで、起業前に役立てるためにも両者を比較検証します。

国民健康保険の特徴

国民健康保険の計算方法と特徴は次の通りです。

(1)計算方法

所得割、資産割、均等割、平等割を組み合わせて算出し、世帯単位で計算するのが特徴です。

(2)特徴

  • 前年の所得や資産状況、世帯人員数に応じて計算する
  • 収入が激減した場合などには保険料の減免制度がある
  • 世帯単位で計算するため、扶養家族が存在しない
  • 世帯主に出産育児一時金が支給される

任意継続健康保険

任意継続健康保険の計算方法と特徴は次の通りです。

(1)計算方法

退職時の月額給与(標準報酬月額)に料率を掛けて計算します。

(2)特徴

  • 個人単位の収入(月額給与)のみをベースに計算する
  • 保険料は全額自己負担になる(給与天引額の2倍)
  • 保険料は原則2年間、変更しない
  • 個人単位で計算するため、扶養家族が存在する
  • 在職時と違い、傷病手当金や出産手当金が支給されない
  • 最大2年間までしか継続できない

 

たとえば、出産を機に個人事業主として独立するなら出産育児一時金が受給できる国民健康保険のほうが有利になると考えられます。一方、家族のパート・アルバイト収入が健康保険の扶養内の場合、任意継続健康保険には含まれませんが、国民健康保険の計算に含まれます。

まとめ

個人と法人との起業スタイルを税金面から見てきました。設立年度のみならず均等割の低い個人のほうがコストはかかりませんが、事業が軌道に乗れば業績によって法人設立のほうが有利になる可能性が出てきます。また、コストの低い個人で起業し、法人成りをする選択肢もあります。ベストな起業スタイルを選択しましょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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