不動産所得の取り扱いにおける注意点とは?-パターン別に解説-

[取材/文責]岡和恵

個人が得る不動産所得とひとくちに言っても、空き部屋を貸し付けるものから、戦略的に次々と投資物件を増やすものまでさまざまな形態があります。不動産の貸付に種々のサービスをつけるものや、空き家を取り壊した跡地を駐車場として利用するなど、不動産所得における税務上の取り扱いを見ていきましょう。

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不動産所得の範囲と現行の申告制度

個人が不動産から得る収入については、種々の取り扱いがあります。

 

所得税法26条において不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下不動産等)の貸付けによる所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)とあります。

 

不動産所得とは「不動産の貸付」に特化された所得であり、所得税法では船や航空機、借地権等の権利の貸付も不動産所得となります。

 

また、自己が所有する不動産を売却した個人に対しては譲渡所得税がかかります。一方法人は不動産を売却しても、貸付しても法人税での取り扱いとなります。

 

個人の取り扱いとして、サラリーマンの副業で不動産の所得がある場合には、ほかの所得と合算し、所得が20万円を超えると確定申告が必要です。

 

不動産の貸付による所得は、不動産所得に係る収入金額から必要経費を差し引いて計算しますが、不動産所得が赤字となったときには、他の所得と差引計算ができます。これを損益通算といいますが、すべての不動産所得で適用できるわけではありません。

 

次からは個人の不動産貸付に特化し、いくつかのパターン別にどのような確定申告になるのかをシミュレーションしていきます。

パターン別に解説 -これって不動産所得にあたる?-

サービスが付帯した賃貸の場合

空いている部屋や居宅を「個人宅宿泊(Airbnb)」などに提供する、いわゆる「民泊ビジネス」の取り扱いは、不動産所得ではなく、原則として雑所得となります。

 

個人宅宿泊のサービスの中には、部屋の使用料以外に、シーツの利用代、水道光熱費、清掃費、日用品の提供などが含まれており、一般的な不動産の貸付けではないと考えられています。そこで個人宅宿泊の提供事業は原則、雑所得となりますが、事業としての継続性等を勘案して事業所得となる場合も考えられます。

 

雑所得の区分になると、損益通算ができないためサラリーマンの副業として民泊ビジネスをしている場合には、所得税の還付が受けられません。所有する不動産を単なる賃貸でなく、サービスをつけた⺠泊事業としたことによって、かえって税金を多く支払うことになってしまいます。

 

国税庁のHPには住居としての部屋の貸付について、次のような例が挙げられています。

 

  • (1) アパート、貸間等のように食事を供さない場合の所得は、不動産所得とする。
  • (2) 下宿等のように食事を供する場合の所得は、事業所得又は雑所得とする。

 

このHPの例では「食事」がキーワードになっており、食事の提供有無において不動産所得とそれ以外を区別しており、民泊ビジネスの例では「生活サービス」がキーワードになっています。このように、新たなサービスにおいては何を所得の決め手とするかがポイントです。

空いた土地を駐車場として賃貸した場合

場所を貸し付けるという意味でよく見られるのは、個人経営の駐車場です。

 

駐車場収入による所得は、責任の所在や事業形態などにより不動産所得、事業所得または雑所得となります。

 

国税庁のHPには、「自己の責任において他人の物を保管する場合の所得は事業所得又は雑所得に該当し、そうでない場合の所得は不動産所得に該当する」とあります。

 

したがって、車やバイクなどについて管理責任のない駐車場は不動産所得になります。一般的な駐車場では「この駐車場をご利用中の盗難・事故等につきましては一切責任を負いかねますのでご了承ください」と書かれ、管理人がいないケースが多くみられます。これは、駐車スペースとしての不動産の貸付以外はやっていませんということであり、不動産所得にあたる場合が多いです。

 

反対に、駐車場の入り口に管理者がいたり、50台以上を運営したり、立体駐車場の設備を持ったりしている駐車場については、事業所得となることが一般的です。なお、大規模なパーキングでもイベントなど数か月のみの事業であれば所得区分は雑所得になります。

所有するアパートの部屋を賃貸している場合

実は不動産所得であっても、「事業の規模」によって取り扱いが異なります。

 

アパートを建て、部屋を賃貸している個人は不動産所得を得ますが、アパートの部屋数によって「事業としての不動産所得」と「事業以外による不動産所得」があるのです。

 

建物の貸付けが「事業」としての不動産所得かどうかの基準としては、社会通念上の事業とされる規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきとされています。

 

客観的には形式基準として、次のいずれかの場合またはこれらに準ずる場合には、「事業としての不動産所得」に分類されます。

 

  • (1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
  • (2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

 

この形式基準のことを、一般に「5棟10室基準」と呼んでいます。

 

ある人が12部屋のアパートを賃貸していれば、形式基準の10室以上をクリアしていますので、通常は「事業としての不動産所得」に該当します。

 

その後、そのアパートを相続によって2人の子どもの共有名義となった場合はどうでしょうか?この場合は、12部屋÷2人=6部屋とは判断せず、2人の子ども両方が事業としての不動産所得と取り扱って問題ないようです。

 

しかし、細かな要件について個々に判断する方がよいので専門家や税務署に相談するほうがよさそうです。

不動産所得における注意点

「事業」と「事業以外」で取り扱いの異なる不動産所得

いくつかの不動産の貸付パターンについて見てきましたが、不動産所得が「事業」と「事業以外」とに分かれているケースについてまとめます。

 

同じ不動産所得であっても、税務上の取り扱いが異なるところが要注意点です。

 

事業である不動産所得と事業以外の不動産所得について

  青色申告特別控除 青色及び白色事業
専従者控除
資産損失
事業である場合 最大65万円控除 必要経費になる 必要経費になる
事業以外の場合 10万円控除 適用なし 所得の金額を限度として
必要経費となる

【青色申告控除額、専従者控除】
「事業以外」の不動産所得の場合には、10万円控除のみです。

 

所得税では家族などへの給料の支払いを「専従者給与」と呼び、「事業」である不動産所得においては青色、白色を問わず、一定の専従者控除が認められています。

 

しかし、「事業以外」の不動産所得の場合には、一般には不動産事業に専従するほどの労働が必要とされないと考えられているため、専従者の給与控除については認められていません。

【資産損失】
資産損失とは、資産の取り壊しや除却などによって生じるものです。災害などでの損失は除かれます。

 

老朽化した建物を取り壊して立て替える時などは、旧建物の簿価は主に除却損になります。その損失について、「事業」である不動産所得では必要経費となり、最終的に赤字となった場合も翌年度以降に繰越せますが、「事業以外」の不動産所得では赤字までは繰越せません。

 

したがって、「事業以外」の不動産所得においては、旧建物の取り壊しで発生した損失は給与所得などの他の所得との損益通算もできません。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

 

不動産所得を利用した節税対策は昔からよくありますが、「事業以外」の不動産所得である場合には、税務上の取り扱いに十分に注意が必要です。

 

建物の取り壊しとなると数年前から検討段階に入るかと思いますので、予め専門家に相談し、必要な場合には納税資金等を確保する必要があります。

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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