同じ出費でも、「必要経費」になる場合、ならない場合がある
気持ちを新たに、4月から独立して事業を始められた方も多いでしょう。そんな人たちにとって気になるのが「必要経費」ではないでしょうか。支出が経費で落とせれば、そのぶん節税になるのですが、「何が落とせるのか?」の見極めは、簡単ではないことが少なくないからです。実は、同じモノを買っても、経費として認められる場合と、そうでない場合があるので、話はさらに複雑になります。今回は、「必要経費の考え方」を中心に解説します。
「経費になるかならないか」迷うのはなぜ?
あるウェブサイトで、「ペットを飼育するための必要経費」というタイトルの記事を発見したことがあります。読み進めていくと、犬や猫を飼育するためのケージや餌の代金、医療費など、要するに「ペットを飼うためには、だいたいこれくらいのお金が必要です」という内容でした。もちろん、これは言葉の誤用。「必要経費」とは所得税法上の用語で、「所得を得るために必要な経費」のこと。支出が必要経費になれば、その分を収入額から差し引くことができます。課税標準(※1)を下げられますから、経費が多いほど節税効果が大きくなるわけですね。企業も個人事業主も、必要経費に敏感になるのは、そのためです。
では、「所得を得るために必要な経費」とは、何を指すのでしょう? 所得税法の定義は、以下の通り。
「所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」
これだけ読んで、「なるほど」と思える人は、恐らくいないでしょう。でも、法には、「これとこれが必要経費」という明文規定はありません。ですから、経費についていろんな解釈の余地が生まれる=経費にできるかどうか迷う、という状況が生まれることになるのです。
税金の算定基準となるもの。これに税率を掛けて税額が決まる
必要経費にできるもの、できないもの
現実には、どのようなものが必要経費に計上されているのでしょうか? 主な項目には、次のようなものがあります(すべてではありません)。
- 「地代家賃」、「水光熱費」 事業のために必要な事務所の賃貸料や、それを運営するために不可欠な水道料、電気代など。
- 「給料賃金」 従業員に支払う人件費。
- 「外注工費」 事業のために外注先に委託して発生した費用。
- 「通信費」 事務所で使う電話代、回線使用料、切手代、事業用の携帯電話料金など。
- 「広告宣伝費」 商品やサービスの広告宣伝のための費用。
- 「接待交際費」 取引先などへの接待費用。
- 「福利厚生費」 従業員の勤労意欲の向上などを目的として活動した費用。
- 「租税公課」 事業税、業務用の部分の固定資産税など。
一方、次のような項目の支出については、必要経費には認められないことになっています。
- 業務を行うための「借入金」 ただし、その利息は必要経費として認められます。
- 個人事業主が支払った「所得税」や「住民税」。仕事中の駐車違反などで発生した「罰金」も、必要経費にはできません。
なお、個人事業主が支払った健康保険料や国民年金保険料は、経費ではなく所得控除の対象になります。
税務署は何を見るのか?
こうみてくると、一見すっきりと整理されているようにも感じられるのですが、経費に関しては「総論」では片づけられません。例えば、「ノルマ達成を祝って行った営業部門の飲み会」は、経費で落ちるのか? 答えは、「落ちる場合もあれば、落ちない場合もある」。なぜかといえば、福利厚生費には
- 全従業員を対象とした平等な費用であること
- 社会通念上認められる範囲内の金額であること
という要件があるからです。これを満たして、はじめて経費にできるということになるのです。
「各論」には、こんなケースもあります。個人事業主が、お笑い芸人のDVDを購入して、鑑賞しました。その購入代金が記載された領収書を「経費にしてください」と税理士さんに渡したら、「何を考えているのですか」と怒られそうですよね。でも、その人の職業がライターで、芸人の取材の準備をするためにDVDを買ったとしたのなら、どうでしょう? その場合は、「資料代」として立派に必要経費にすることができるのです。
新聞、雑誌の定期購読なども同様です。例えば、それが営業のツールとして不可欠な職種だったら、経費になるでしょう。美容院などが、待合室に置くために購入した場合にも、やはり必要経費として認められるんですね。ちなみに、冒頭のペットの話も、例えば猫カフェで飼うのだったら、購入費用も餌代も必要経費で落とせます。
このように、同じことをやっているのに、「必要経費になるか、ならないか」の違いが生じることがあります。その場合、判断基準になるのは、ひとことで言えば「その出費に、収入に結びつく実態があるのかどうか」。さきほどの所得税法の定義を噛み砕くと、そういうことになると理解してください。税務署は、そこを見るわけです。
経費ばかりに目が行くと……
とはいえ、「収入に結びつく実態」という表現自体、まだ“グレー”な面を残していますよね。「これは仕事に使っている」と主観的に考えていても、税務署が必ずウンといってくれる保証はありません。経費で落ちるのかどうか不安なので、確定申告前に税務署の事前相談会に出向いて話をしたら、「大丈夫ですよ」と言われた。ところが、申告後に「これは経費にはできません」と、税務署に否認されてしまった――という実話もあります。要するに、税務署員の間でも見解の異なることがあるくらい、必要経費の判断には、微妙で難しいケースがあるのです。
重要になるのは、「この支出は私的なものではなく、仕事のためのものです」という実態が、一点の曇りなく説明できるかどうか。それができるのだったら、いたずらに恐れる必要はないでしょう。
避けるべきなのは、不自然なこじつけで無理やり経費にしようとすること。「ダメモト」で高額の領収書を忍び込ませたりするのは、もってのほかです。その結果、税務署に否認されると、節税どころの話ではなくなる可能性があるからです。
できるだけ経費を膨らませて節税したいがために、今お話ししたような無理をすると、痛いペナルティーを科せられるかもしれません。ミスや故意で、本来納税すべき金額よりも実際の納税額が少なかった、と判断されると、「過少申告加算税」などの追徴課税が課せられることになります。きちんと申告、納税していた場合よりも高い税率の税金を追加して支払わなくてはなりませんし、その完納が納税期限から遅れた分には、別途「延滞税」もかかってくるのです。
まとめ
事業の発展のためにも、必要経費にできるものは計上して、節税を図りましょう。ただし、「はたしてこれが経費に該当するのか」について、素人判断は危険です。金額の大きな場合は特に、迷ったら、専門の税理士の判断を仰ぐべきでしょう。
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