資本性劣後ローンとはどんなもの?内容やメリット・デメリットを紹介
中小企業にとって、財務を改善させたい、新たな事業に挑戦したい場合などに、資金繰りのための融資元探しは常について回る課題です。しかし、融資先が増えるとその分負債も増え、企業としての信頼性が下がるという問題があります。そこで知っておきたいのが「資本性劣後ローン」という融資です。
※記事の内容は2023年12月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。
「資本性劣後ローン」ってどういう制度?
資本性劣後ローンを一言でいうと、「会計上資産とすることができ、返済を他の債務より後回しにできる」ローン(融資)となります。従来ある融資制度ですが、近年注目を浴びたのは、新型コロナ対策のための資本性劣後ローンが措置制度として実施されたことでした。本措置制度は現在、2023年9月までだった期限が2024年3月まで延長されています。
会計上は「資本」になり、他の債権より支払い順位が劣るローン
資本性劣後ローンの意味は、「資本性」と「劣後」を別に考えると分かりやすくなります。
「資本性」ローンとは、実際には融資、つまり借金であるにもかかわらず「自己資本」として、賃借対照表上資本の部に記載できるローンを言います。
そして「劣後」ローンとは、複数の融資を抱えて破綻した企業が行うべき返済が、他の一般的融資より後回しになる(劣後する)融資のことです。
すなわち「資本性劣後ローン」は、これら両方の特性を持つことになります。
資本性劣後ローンは、現在主に日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など、政府系の金融機関が行っています。民間の金融機関でも同じような制度を実施しているところはありますが、債権回収の問題などがあることから、特に小規模の金融機関では実施にあまり積極的ではないようです。
資本性劣後ローンと一般的な融資との違い
資本性劣後ローンには、「融資なのに自己資本とみなされる」「万一の時に返済を後回しにできる」以外にも以下の特徴があります。
・借入期間が最大20年間と長期間であること
資本性劣後ローンの借入期間は5段階あり、最短で5年1ヶ月、最長で20年間です。民間金融機関より長期と言われている日本政策金融公庫の一般的な融資の期間は5〜7年とされているのに比べ、かなり長期間借り入れておくことが可能なのです。そして期間終了後に、一括返済するのが原則です。
・担保や保証人が不要
通常の融資は所有不動産等を担保に供したり、保証人を求められたりするのが当然の流れとなっていますが、資本性劣後ローンの場合、少なくとも政府系金融機関においては無担保・無保証人で融資が受けられます。
・融資上限額の違い
通常の融資では、企業の規模や経営状態で融資額が設定されますが、政府系金融機関の資本性劣後ローンの場合、企業規模や信頼性にかかわらず、融資限度額は10億円に設定されています。(新型コロナウイルスのための資本性劣後ローンは上限7,200万円)
因みに民間金融機関が行った資本性劣後ローンでは、コロナ禍においてですが、居酒屋チェーンの会社に30億円の融資が行われた例があります。
誰でも利用できる制度ではない
資本性劣後ローンは企業の大小を問わず、また個人事業主ももちろん利用できますが、前述のような特徴を活かし、主に中小企業や新規企業への手助けとして実施されることが多くなっています。しかし、融資元としては倒産などの場合の債権回収リスクをできる限り避けたいのが本音であり、それは政府系金融機関でも変わりません。
そのため、日本政策金融公庫では、一般の(コロナ対策ではない)資本性劣後ローンを「挑戦支援資本強化特別貸付」と銘打ち、利用する企業に以下の条件を課しています。
どことなく、国の機関が補助金を給付する際の条件と似ていますね。
より将来的な挑戦を行う企業の資金繰りを手助けしたいという目的が明記されています。
なお、2024年3月まで申込期限が延長された「新型コロナ対策資本性劣後ローン」においては、コロナ禍で影響を受けた企業の再生を目的としているため、利用条件は上記とは違ったものとなっています。
資本性劣後ローンを利用するメリットは?
融資を求める企業にとって魅力的な資本性劣後ローンですが、既述のものも含め、そのメリットを以下にまとめます。
自己資本として計上できる
先ほど資本性ローンだと貸借対照表上自己資本とみなされるとしましたが、これはすなわち、会計上自己資本率が上がるということです。
このため、他の融資を受ける際に会社の財政基盤が安定していると評価され、審査が通りやすくなるというメリットがあります。
また、複数の機関から融資を受けていると新たな融資は受けづらくなりますが、資本性ローンは借入金でありながら負債にならないため、利用したことによる新たな融資への影響は原則的にありません。
長期間借り入れられるので経営が安定
企業経営の再生、新規事業への取り組みや起業など、短期間で結果が出ないものもあるため、最長20年間借り入れたままでいられるのは、企業経営を長いスパンで考えることができるという点も大きなメリットです。
しかも、通常の融資であれば月々元本と利息を合わせた返済が必要であるところ、資本性劣後ローンの場合は利息分のみの返済で済むため、返済額がかなり抑えられます。つまり融資額を最大限有効利用することができるのです。
赤字の場合は金利が低下
月々の返済は利息のみとはいえ、経営状態が何らかの要因で悪化してしまった場合には、支払いはそれなりに負担となります。
ところが資本性劣後ローンにはもう一つメリットがあり、利息の利率が企業の業績に合わせて毎年上下するのです。
例えば借入期間が5年間の場合、年間の純利益が黒字であれば利息は3.6%ですが、赤字だった場合は0.5%で済むため、経営計画を返済に追われることなく設定できます。
さらに、事業計画書を策定しているなど一定の条件を満たせば、融資後3年間の利息利率は0.5%に据え置かれるのも有難いところです。
資本性劣後ローン利用におけるデメリットは?
企業にとっていいことだらけに見える資本性劣後ローンですが、もちろんデメリットもあります。
一般的融資より利率が高い
先ほど5年間借入れでの利息が黒字だと3.6%と述べました。日本政策金融公庫における利息の利率は借入期間により、以下の5段階となっています。
現在、日本政府が政策金利を低く抑えていることを受け、民間金融機関における企業への融資の金利の相場は年2%~3%程度となっています。
それに比べると、資本性劣後ローンの、特に長期間の金利はかなり高い印象です。
融資元としては回収リスクが高いローンですから、どうしても平均的な金利を上げておく必要があるのです。
もっとも、一般的な融資の利率は融資元が企業の審査を行って決定するものですから、業績や企業の規模により、金利が相場より上がるかもしれません。また、担保や保証人を求められることが多くなります。
であれば、資本性劣後ローンの金利が赤字の時は抑えられるということと合わせ見ると、それほど大きなデメリットにはならないかもしれません。
また、新型コロナウイルス対策のための資本性劣後ローンの利率は最高でも2.95%に押さえられています。
制度利用条件が一般融資より厳しい
一般的な融資の際も審査はありますが、資本性劣後ローンはご覧のように様々なメリットがあるため、債権回収を確実に行うためにも、審査は企業の信頼性などが厳しく問われるものとなっています。
審査時には、自社の独自性をアピールし、一定の期間内でどう事業展開、または経営を改善していくのか、その過程で実現できる地域貢献についてなど、長期間に渡った事業報告書を策定しなければなりません。また審査が通れば、四半期毎の経営状況の報告などを含む特約を締結する必要があります。
これらの作成、提出は、かなりの負担になるかもしれません。
まとめ
資本性劣後ローンは、長期的な視点で経営を改善し、業績を上げるための資金を必要とする企業に向いた融資制度です。利息の高さと、元本一括返済に注意は必要であり、審査時の手間はかかりますが、専門家などに相談しつつ検討してみてはいかがでしょうか。
行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。
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