iDeCoの加入要件が緩和!企業型DCと併用しやすくなるiDeCoの法改正ポイントとは

[取材/文責]村上カツ

2022年の確定拠出年金制度の改正により、企業型DCに関する年齢制限の引き上げや、企業型DC加入者のiDeCo加入要件緩和が発表されています。これまでも併用は可能だったものの、厳しく制限されていましたが、2022年から制限が撤廃されます。
この記事では、企業型DCとiDeCoの違いやiDeCoを活用するメリット、法改正で変更となったポイントなどをご紹介します。

企業型DCとiDeCo

企業型DCとは

企業型DCとは、企業が従業員のために掛金を拠出する確定拠出年金です。「DC」は英語のDefined Contributionの省略形で、積立額が決まっているという意味となります。積立額は決まっているものの、従業員が退職後に受給できる金額はあらかじめ決まっておらず、各従業員による年金資産の運用次第で将来の受給額が決まる制度になります。

 

確定拠出年金と対になる年金が確定給付年金で、将来の給付額が保証されている年金を指します。確定給付型の年金は企業にとっても運用が難しく、リスクも大きいため、企業型DCを採用する企業が増えています。

 

  • 加入対象者
    企業型DCの加入対象者は、厚生年金の被保険者であり、企業型DCの制度を持つ企業の従業員です。企業は、一定の職種や勤続期間などの基準で加入資格を設けて、加入者を制限することもできます。
  • 加入するメリット
    従業員が企業型DCに加入する最大のメリットは、企業が掛金を拠出してくれることです。税制面でもメリットがあり、積立・運用・受取の各段階で、従業員は非課税の優遇措置を受けることができます。

    • 積立:企業が拠出する掛金は、従業員の各年の所得に算入されず、非課税となります。また加入者自身が一部の金額を拠出する「マッチング拠出」の場合も、従業員の課税所得は拠出額の分だけ減額され、節税が可能です。
    • 運用:通常の投資の場合、投資の運用益が実現すればその都度課税されますが、企業型DCでは、運用益が非課税になります。
    • 受取:年金資産は、退職後に一時金または年金として受け取れます。一時金で受け取る場合は退職所得となり、勤続年数に応じた退職所得控除を適用できます。年金として受け取る場合も、公的年金と同様に公的年金等控除を利用でき、受給額の一部のみが雑所得として課税されます。

iDeCoとは

iDeCoは、個人型確定拠出年金のことで、英語の「Individual-type Defined Contribution pension plan」の省略して表します。企業型DCと同様、一定の積立額に対して、年金資産の運用次第で将来の受給額が決まる年金です。掛金を拠出するのが企業ではなく受給者自身であるため、「個人型」と言われます。毎月の掛金は5,000円から一定の上限額の範囲内で拠出し、積み立てた金額は60歳を過ぎるまで引き出せません。

 

  • 加入対象者
    現在、iDeCoに加入できるのは、以下のいずれかに該当する人で、会社員の被扶養配偶者や自営業者なども加入できる点が企業型DCと異なります。

    区分 加入対象者
    国民年金の第1号被保険者 日本の居住者である20歳以上60歳未満の自営業者、フリーランス、学生など
    国民年金の第2号被保険者 60歳未満の厚生年金の被保険者
    国民年金の第3号被保険者 20歳以上60歳未満の、厚生年金加入者の被扶養配偶者
  • 加入するメリット
    企業型DCと同様に、iDeCoも税制上の優遇を受けられます。積立・運用・受取の各段階のうち積立の時点では、小規模企業共済等掛金控除という所得控除を受けられます。この場合、受給者が被用者であれば年末調整、自営業者であれば確定申告のときに節税できます。また、運用・受取の時点では、企業型DCの場合と同様の優遇を受けられます。

企業型DCとiDeCoの違い

企業型DCとiDeCoは、確定拠出年金という点では同じですが、誰が掛金を拠出するかが違います。企業型DCは原則として企業が、iDeCoは加入者自身が拠出します。
もう一つの違いは、企業型DCは勤務先の企業が導入していない限り加入できないのに対して、iDeCoは企業に勤務していなくても加入が可能なため、間口が広いということです。

確定拠出年金制度の改正で変更となったポイント

企業型DCの加入可能年齢が70歳未満に引き上げ

現在は、原則として60歳未満の厚生年金被保険者が企業型DCの対象者です。60歳以降も同一事業所で継続して勤務する厚生年金被保険者は、規約に従い、65歳未満まで企業型DCに加入できます。2022年5月1日からは、厚生年金被保険者であれば70歳未満まで企業型DCに加入できます。高齢者の雇用が増える中、柔軟な制度運営を可能にする趣旨の改正です。

企業型DCの受給開始年齢が75歳まで引き上げ

また、企業型DCの受給開始は60歳から70歳までの間とされていますが、2022年4月1日以降は、60歳から75歳に拡大されます。なお、加入資格をもつ60歳以上の人が資格喪失後でなければ受給できない点は、改正後も変わりません。

企業型DCとiDeCo併用の制限が緩和

現在、企業型DCの加入者は、規約でiDeCoへの加入も認められていない限り、iDeCoに加入することはできません。 2022年10月以降は、そうした規約の定めがない企業型DCの加入者であっても、原則としてiDeCoに加入できるようになります。ただし、企業型DCとiDeCoの掛金額には、以下の上限が設けられます。

 

企業型DCの加入者 企業型DCと確定給付型(DBや厚生年金基金など)の加入者
企業型DCの事業主掛金額(月額) 5.5万円 2.75万円
iDeCoの掛金額(月額) 2万円(企業型DCとの合計で5.5万円まで) 1.2万円(企業型DCとの合計で2.75万円まで)

 

なお、企業型DCには、会社拠出分に加えて加入者本人が掛金を上乗せして拠出できる仕組みもあり、これを「マッチング拠出」といいます。マッチング拠出を行っている場合はiDeCoへの同時加入はできません。

企業型DCとiDeCoを併用するメリット

2022年10月以降に企業型DCとiDeCoが併用できるようになると発生するメリットとして、「運用資金の増加」「節税しながら積み立てが可能」が挙げられます。

運用資金の増加

企業型DCの拠出の上限は月5.5万円ですが、会社拠出額がそれ未満の場合、iDeCoで積み増しすることにより運用資金を増やすことができます。マッチング拠出ができる場合でも、マッチング拠出は会社拠出額と同額までしかできないため、iDeCoの拠出額の方が上回る場合もあります。

節税しながら積み立てが可能

上述の通り、iDeCoには積立・運用・受取の全ての段階で節税のメリットがあります。企業型DCに加入していることでiDeCoを利用できていなかった方は、この改正を機に利用を検討しましょう。

企業型DCとiDeCoで別の金融機関を選択できる

マッチング拠出で拠出を行う場合、企業型DCで利用している金融機関のもとで運用商品を選ぶため、投資先の選択肢が限られている場合があります。iDeCoであれば、自分で金融機関を選び、それに応じた投資商品を選択できます。

企業型DCとiDeCoを併用するデメリット

マッチング拠出ができない

iDeCoを利用する場合はマッチング拠出ができないため、それによるデメリットが生じる場合もあります。マッチング拠出の場合、会社の制度の延長上での拠出になるため手続きが簡単です。iDeCoの場合、自身で金融機関を選び、加入の手続きを行う必要があります。また、iDeCoの場合、管理する口座が2つになるので、時間や手間をかけたくない方には不向きと言えます。将来の受給時も、マッチング拠出であれば企業型DCで一本化されており、手間を省けます。

 

さらに、iDeCoの場合は毎月少額ながら管理手数料が発生しますが、マッチング拠出であれば手数料が発生しません。

 

☆ヒント
企業型DCに関する制度改正によって、対象となる年齢の幅も広がり、企業型DCとiDeCoの併用もしやすくなります。退職金等の制度がない企業に勤めている場合、企業型DCで退職後の資産を積み立てておくことで定年後の生活に少しでも余裕が持てるようになるため必見です。資産形成についてより詳しく専門家に相談したい方は、気軽に連絡できる顧問税理士がいると安心できます。

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まとめ

2022年からの改正について、加入可能年齢の引上げ、受給開始時期の拡大、iDeCoとの併用の3点を紹介しました。60歳以下の方にとっては、iDeCoと併用可能になった点が最大のメリットです。寿命が延び60歳以降の生き方の多様性も広がる中、国としても公的年金の財源には限界があり、個人による老後のための資金運用の重要性が高まっています。企業型DCに加入している方も、今回の改正を契機に、iDeCoとの併用を検討してみるとよいでしょう。

一橋大学社会学部卒業。流通業の企業で勤務後、専門性の高い仕事に憧れ、公認会計士を受験。合格後は会計事務所で税務の仕事をこなし、その後、海外の提携事務所に出向。幅広い経験を生かし、読者ニーズに応える執筆を心がけます。

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