今さら聞けない経営のキホン!3C分析ってどうやるの?
3C分析という言葉を聞いたことのある経営者の方も多いのではないでしょうか。3C分析とは、企業が戦略を練る際に、現在のビジネス環境を整理し、自社の課題や成功要因を導き出すために使われるフレームワークのひとつです。
大企業から個人経営の飲食店まで幅広く使える基本的な考え方ですので、是非本稿を参考にしてみてはいかがでしょうか。
3C分析とは
3つのCで明らかにしたいこと
はじめに、3C分析における3つのCとは何かを説明します。1つ目はCustomer(顧客)、2つ目はCompetitor(競合)、3つ目はCompany(自社)です。つまり、「3C分析」とは、顧客、競合、自社の三者の状況を整理し、データを集めて「どうしたら自社の製品が売れるのか」を考えることをいいます。それぞれのCで明らかにしたいことは以下の通りです。
● 顧客…購買する意志・能力のある顧客の特徴、規模、成長性、ニーズetc.
● 競合…他社の動向、潜在能力、寡占度、強み・弱みetc.
● 自社…自社のシェア、技術力、ブランドイメージ、品質、販売力、資源、強み・弱みetc.
全体の図的イメージは下図を参考にしてみてください。
3C分析において最も優先するべきCは、顧客です。次いで競合、自社と続きます。自社と競合の差別化ばかりに気を取られ、顧客の存在をないがしろにしてしまっては元も子もありません。まずは顧客について分析することが大切です。
さて、では具体的にどのように分析を行えばよいのでしょう。以下では、3つのCそれぞれの分析方法について紹介していきます。
● 顧客
自分の店に足を運んでくれるお客さんの特徴は何でしょうか。もっと来店して客層はどのような特徴があるのでしょうか。お客さんのニーズは何でしょうか。
● 競合
最寄駅周辺にはほかにどのような居酒屋がありますか。周囲の居酒屋ではどのような傾向が見られますか。
● 自社
他の居酒屋にはない自社の特徴は何ですか。逆に、他社に対して弱みのようなものはありますか。どのようなサービスやメニューを提供すれば、客層のニーズを満たし、差別化もできるのでしょうか。
Customer顧客のニーズを読み取ろう
自社の顧客のターゲット像は決定できるでしょうが、具体的にその顧客が何を求めているかまで把握することは難しいでしょう。
ここでは「PEST分析」というマクロ環境分析、「ファイブフォース分析」というミクロ環境分析、「マーケット・イン」という分析方法を使います。マクロ環境とは業績に間接的に影響する要因のこと、ミクロ環境とは業績に直接的に影響する要因のことです。顧客を分析するにあたり、顧客を取り巻く環境をマクロ・ミクロの両方の視点から見ていくことが必要なのです。
PEST分析でトレンドを知る
PEST分析とは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4項目から、自社に影響のあるものを把握・分析することです。これにより、社会全体に影響のある動向・状況・問題などについて知ることができます。では、P・E・S・Tそれぞれの要因について詳しく見ていきましょう。
● Politics(政治的環境要因)
政治や法律、税収や補助・助成などの面から、市場への影響を分析します。多くの場合、これらは国や地方自治体が管理しているため企業側での変更はできませんが、資金面や開発面で重要な要因になるのできちんと把握・分析しておくことが必要です。例えば、消費税の引き上げに際し、売り上げを維持するためには何か施策を打つ必要があるでしょう。このようなとき、自社にとってより良い戦略は何かを、消費税が上がる前に立てておく必要があります。これは、政治の把握・分析なくしてはできません。
● Economy(経済的環境要因)
株価や為替、経済成長率や原材料の価格変動などの面から、市場への影響を分析します。経済的環境要因は長期的な予測が不可能なため、定期的に経済動向を掴んでおく必要があります。例えば、石油をはじめとした多くの資源を輸入に頼っている日本ですが、それらに関わる全ての企業において、円安はコスト高として跳ね返ってくる要因となります。つまり、事前に為替の大まかな動向をチェックしておけば、輸入地の変更、代替原材料の検討などの対策を練ることが可能になるのです。
● Society(社会的環境要因)
人口や流行などの人々の直接的なライフスタイルの面から、市場への影響を分析します。業界によってこれらの動向の変化速度や影響力の程度はさまざまですが、需要の把握や喚起、ターゲット設定などに用いることができます。例えば、少子高齢化の進む日本において、若年者層よりも高齢者層を狙った商品の方が、売れ筋は良いだろうと予想しておけば、そちらの商品開発に時間や資金を費やすことができる、といった具合です。
● Technology(技術的環境要因)
インフラ・IT・特許・イノベーションなど、技術の変化の面から、市場への影響を分析します。特に近年は技術革新のペースが速いため、ここでの把握・分析は不可欠です。例えば、携帯電話やインターネットの登場により数十年前までとはかなり変わった商品・サービスが増えました。最近の事例で見てみると、人気アプリ「ポケモンGO」の影響で移動中にスマートフォンの画面を開いたままにする人が増え、持ち運び型充電器の需要が一気に高まりました。この状況を、アプリが世に出てきたタイミングで予想し、対策を打っていれば大きな利益を得ることができたはずです。
これらP・E・S・Tそれぞれの観点から社会のトレンドを読み解くことで、顧客の興味の変化を敏感にキャッチしましょう。
分類 | 事象 | ポジティブ | ネガティブ |
---|---|---|---|
P | ・法規制 →食品衛生法、消防法、風営法などの自治体によって低金利で融資する支援策 ・消費税率の引き上げ |
・開店する地域によっては支援が受けられる。 | ・輸入規制などの影響を受けるなどのリスク ・消費税増税による消費の冷え込み |
E | ・観光客の増加 ・景気動向 ・金利変動 ・不動産価格変動 ・景気 |
・観光客の増加により売り上げが上がる ・変動金利ローンで借りた場合、金利が下がれば返済額も下がる ・不動産価格が下がれば店舗賃料も下がる ・客層をセグメントして価格設定が可能 |
・金利が上がれば変動金利のローンの返済額が上がる ・不動産価格が上がれば店舗賃貸料が上がる ・景気が悪化すれば売り上げも減少 |
S | ・居酒屋のバリエーション・ニーズの多様化 ・低価格指向と高級志向の二極化 |
・オリジナルテーマで他社との差別化を図れる ・客層をセグメントして価格設定が可能 |
・客の嗜好とコンセプトがずれる可能性 ・競争激化 |
T | ・食品加工技術 ・食品保存技術 ・設備機能の向上 |
・料理のバリエーション ・新鮮な食材を調達,保存 ・衛生面のリスクが減少 |
・設備への過剰投資のリスク |
ファイブフォース分析で環境をみる
ファイブフォースとは、市場における競争状況が「同業者間の競争」「顧客の交渉力」「仕入れ先の交渉力」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」の5つの要因によるものだと考える考え方です。まずはこれら5つの要因が一体どういったものなのかを説明していきます。
● 同業者間の競争
自社と競合他社との競争。競争が激しくなる業界の特徴は「同業者が多い」「差別化しにくい」「生産能力の拡大が容易」「戦略のバラエティが豊富」「撤退コストが大きい」などがあげられます。
● 顧客の交渉力
自社と顧客の競争。買い手は、同品質なら低価格で、同価格なら高品質な商品を購入したいと考えています。供給過剰などで買い手の交渉力が強まると、値下げ圧力などで自社の利益を圧迫することがあります。
● 仕入れ先の交渉力
自社と仕入れ先の競争。仕入れ先は、販売企業に最も高い価格で製品を供給したいと考えています。仕入れ先側が少数の企業による独占・寡占状態であれば、仕入れ先の交渉力が強まり、反対に仕入れ先が多ければその交渉力は弱まることになります。
● 代替品の脅威
自社製品と代替品の競争。自社の製品・サービスが、顧客のニーズを満たす、他の製品・サービスにとって代わられてしまう脅威のことです。例えば欧米の砂糖メーカーは、果糖分の多いコーンシロップが大量に販売されたことにより甚大な影響を受けました。
● 新規参入の脅威
自社と新規参加者の競争。必要資本額や政府の規制など、参入障壁が低い業界はこの脅威が大きくなる傾向にあります。
そして、各項目別に競争または交渉相手は誰なのか、競争または交渉のポイントはどこなのか、を分析することをファイブフォース分析といいます。自社が競争する相手は誰なのか、価格・品質・社風など、何で勝負するのか、自社と顧客・仕入れ先はどちらの方が強いのか、などを分析することで、業界内の構造を明らかにする目的があります。
マーケット・インでニーズをつかむ
マーケット・インとは簡単に述べると、顧客の立場に立って、顧客が必要とするものを提供していこうとすることを指します。会社の方針や作りたいもの、作れるものを基準に商品開発を行う「プロダクトアウト」の対になるものとして、マーケティングで使われる考え方です。近年の多くの日本製品はこのマーケット・インの考え方で作られています。マーケット・インで作られた商品は、顧客が一目見ただけで自分の求めていたものかどうかがわかるため、商品のメリットを理解してもらう必要がありません。顧客にとって必要なものを提供するわけなので、手っ取り早く顧客に買ってもらうことができます。
顧客の声を聞く方法としては、アンケートやインタビューなどが主流になります。商品を買うとついてくるハガキによるアンケートなどが一つの例です。また、直接顧客の声を集めるだけではなく、顧客の自宅を訪問して生活ぶりを記録するといったような方法もあります。しかし、方法によってはコストや労力が大きく変化してくるため、予算や割ける人材をあらかじめ決めてから、最適な方法を選択するとよいでしょう。
企業規模の大きさに関係なく、競争に勝ち残るためには必ず必要な思考プロセスですので、これを機に一度自社の分析を行ってみてはどうでしょう。
Competitorライバルの戦略を分析しよう
さて、顧客の分析ができたら次は競合相手の分析に入ります。競合、つまりライバルはどの企業にも存在します。このライバル企業を出し抜かなければ、自社の業績は伸びません。そこで、ライバルがどのような戦略を立てているのか、現状としてどの程度の売れ行きをあげているのか、何が強みで何が弱みなのかなど、徹底的に調査・分析する必要があります。そして、それらの分析結果を自社の戦略に活かしていくのです。
成果も過程も見逃さない
競合を分析するにあたり、競合相手がこれまでどのような戦略でどれだけ結果を出してきたのか、今ある課題は何なのか、といった部分に注目することが必要です。単に「自社よりも売れている」という調査だけでは何の役にも立ちません。なぜ売れているのか、誰をターゲットにし、どんな客層なのか、特別なサービスは行っているのかなどを分析する必要があります。
例えば、小売業の場合を考えてみましょう。現金値引きのみをモットーとし、ポイント制度を採用していない競合があったとします(過程)。その場で目に見えて価格が安くなるので、通りがかった客などはそちらに流れがちだという現状です(成果)。しかし、その競合店が「常連の顧客ができず、売り上げに振り幅がある」という欠点を持っているとしたら(課題)、「毎日利用する主婦などは現金値引きよりも、ポイントが累積でたまっていくポイント制度が好きなのだろう」という分析ができるはずです。そこで、自社ではポイント制度か現金値引きかをその場で選べる新しい制度を検討してみよう、というような議論につながります。
もちろん、競合相手の売り上げが落ち込んでいるようなら、自社が二の舞を踏まないようにその原因についても調べる必要があります。自社、競合関わらず、失敗から学べることはたくさんあるはずです。
ライバルは同業他社だけじゃない
競合相手として気にかけなければならないのは、なにも同じ業界の企業だけではありません。その商品に関りある全ての企業がライバルなのです。例えば、化粧品を扱う企業にとって、顧客が化粧品を買う目的は「綺麗になりたいから」というものだと考えられます。すると、競合として挙げられるのは他の化粧品メーカーだけでなく、健康商品を取り扱う企業やスポーツメーカーなども、場合によっては挙げられるかもしれません。
反対に数ある化粧品メーカーの中でも、大学生や若いOLなどをターゲットとしたプチプライスの化粧品を売っている企業と、お金に余裕のあるマダム層をターゲットとしている企業では、互いにターゲットとする顧客像が異なります。こういった場合は、競合とみなさなくてよいということです。
競合相手をそこまで広げるかですが、挙げ始めたらきりがありません。基準としては、ターゲットとしている顧客像が同じであれば、異なる業界の企業でも競合とみなしてよいでしょう。言い換えると、ターゲットとする顧客が、自社の商品を買う代わりに選んでしまう企業が競合としてとらえられます。
私たちビスカスはこれまでたくさんの中小企業の経営者の方とお会いしてきました。これまで培ってきた税理士紹介のノウハウが、新しいお客様の経営の役に立つかもしれません。
Company自社を見つめなおそう
KSF(成功要因)を探り当てよう
最後に顧客分析と競合分析の結果を踏まえて、自社が市場で勝てるポイントを分析していきます。この分析を通してKSF(Key Success Factor:成功の主要因)を導き出すことが、自社の成功につながります。
居酒屋経営を例に戻ると、成功要因として挙げられるのは、メニューの品ぞろえの良さなのか、駅からのアクセスの良さなのか、店員の雰囲気の良さなのか―色々と考えることができるでしょう。その中でも特に勝敗を分けるKSFを導き出すことが重要になってきます。そのためには、売上高、市場シェア、技術力、リソース、ブランド力、強みや弱みなどを徹底的に洗い出す必要があります。
また、自社の限界を知ることも大切です。競合がここまでやっているから、自社ではさらにもう一段階上のサービスを提供しようと意気込んでも、そのサービスを実際に提供できる技術力・人的資源・資金がなければ実現できません。無理にでも進めていけば、必ずどこかで綻びが出て総崩れをも招きかねません。どこまでならやれるか、境界線を見抜くためにも自社の現状を知ることは不可欠です。
では、どのように現状をみていけばいいのでしょうか。
おすすめの方法としては、一つの企業の中をバリューチェーンごとに細かく見ていくものがあります。バリューチェーンとは、企業の機能を各事業部に分けてプロセスごとに見ていくことです。
自社のバリューチェーンを競合と比較することで、自社の強み・弱みに気が付くこともできます。さらに、バリューチェーンごとにわける利点として各事業部単位でやるべきことが見えやすい、というものが挙げられます。3C分析後、いざ企業全体で「今より30%コストカットした商品を出そう」という戦略をたてたとしても、具体的に自分たちはどうすればよいのかはっきりしていないとうまく動けません。そこで各事業部に、「調達部は、同品質で今よりもっと安く仕入れられる原料・生産地を探して」「マーケティング部は新商品のどこを売り出していけばよいか考えて」「製造部は労力を減らす工夫ができないか検討して」などといった具体的な目標や指示を出すことで、どう動けばよいかが明確になります。
同時に自社の弱みをしっかり把握したうえで、どのように改善を加えるべきなのかを定量的に判断する必要もあることがわかりました。もしかしたら自社の弱みで「経理管理工数が大きくなってしまっている」ことや、「助成金や制度について把握しておらず、正しい援助や節税が行えていない」ことが挙げられるかもしれません。あるいは、自社の財務状況が理解できておらず、定量的な強みや弱みが洗い出せないかもしれません。いずれの場合においても、税理士と相談して戦略を練るヒントを一緒に見つけ出すとよいでしょう。
まとめ
以上、経営においてよく使われる3C分析の概要とそのやり方でした。3C分析は経営戦略を立てる際の基本のフレームワークでもあるので、使いこなせるようにしておくと良いでしょう。これを機に顧客・競合・自社の3点をじっくり調査、分析してみてはいかがでしょうか。
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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