2023年からは中小企業も割増率アップ!残業時間にかかる割増賃金の回避方法
2023年より中小企業でも月60時間を超える残業時間には2割5分ではなく、5割の割増率が適用されます。割増率が上がる残業の多い労働者がいる会社では、何もしないでいると大幅なコストアップになるため注意しなければなりません。残業時間についての割増賃金の計算方法を確認し、対応策を考えましょう。
残業時間削減への取り組みは早めが正解!その理由は?
中小企業も2023年からは月60時間超の残業時間割増率が5割に!
2010年の労働基準法改正で、時間外労働のうち月60時間を超える時間の割増率が引き上げられました。今まで、時間外労働については一律2割5分の割増率が適用されていたのに対し、月60時間までは従来通りの2割5分、月60時間を超える時間に対しては、5割の割増率を適用して計算することに改正されたのです。
大企業ではすでに適用されていますが、中小企業は猶予期間が設けられました。しかし、2019年に働き方改革関連法案が施行されたことにより、猶予期間は2022年までとすることが決定しています。2023年からは中小企業でも月60時間を超える残業時間に対しては5割の割増率で計算した割増賃金を労働者に支払う必要があります。
たとえば、割増賃金の計算のもととなる時給が1,500円の労働者に支払う割増賃金は、割増率2割5分であれば時給1,875円であるのに対し、2023年以降について割増率が5割になると、時給は2,250円に跳ね上がります。割増率引き上げの対象となる残業を多くさせている中小企業では、コストアップが必至です。残業時間の削減を行わない限りは、残業時間にかかるコストは上昇することになるため、注意しなければなりません。
中小企業ほど残業時間削減に向けた取り組みはすぐに始めよう!
働き方の改善など、残業時間についてなにも対策を取らないでいると、残業にかかるコストアップは避けることができません。しかし中小企業は大企業に比べると働き方を変えるのが難しく、残業時間削減に対する取り組みが遅れている実情です。
中小企業は十分な余裕を持てないまま仕事を回していくことが多く、計画通りに進まなかったり突発的な問題が生じたりしたときの対応として労働者の残業を頼りにしがちです。場合によっては取引先との都合にあわせ、タイトなスケジュールで仕事を請け負うことも多いでしょう。
このような状況から中小企業が突然残業をはじめとする労働時間を短縮することは難しいので、時間をかけて取り組む必要があります。まだまだ先のことだからと安心するのではなく、2023年に間に合うよう、早めに残業時間削減の取り組みを開始しましょう。
残業のさせ方は合っている?手続き・給与計算をおさらい!
労働者に残業をさせるために必要な手続きは?
労働基準法では労働時間は1日に8時間、週に40時間までと定められていて、この時間を超えて労働者に仕事をさせることは基本的にできません。例外的に労働者とのあいだで取り決めをしておいた場合にのみ残業をさせることができるとしていて、労働者に残業をさせるためにはあらかじめ手続きをしておく必要があります。この必要な手続きは就業規則への記載と、36協定の締結・届出です。
法定労働時間を超えて残業させるためには、就業規則には法定労働時間を超えて労働させる場合があること、内容については36協定に定めることの記載が必要です。36協定では法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合の限度時間を、1日について、1日を超え3ヵ月以内の期間について、1年についてのそれぞれを定める必要があります。
36協定は本社などで一括して締結することはできません。事業場ごとに、労働組合や労働者全員を代表する者とおこなう必要があります。
また締結した36協定は、労働基準監督署への届出によって効力が発生します。締結しただけで届出を行っていない36協定をもとに法定労働時間を超えて残業させることはできません。
残業をさせたときの割増賃金の計算方法
労働基準法で定められている1日8時間、1週40時間を超えた労働時間については、割り増しした賃金を支払う必要があります。割増賃金を計算する際も、労働基準法に定められている割増率を使わなければなりません。
例えば「労働者それぞれの1時間あたりの賃金に2割5分の割増率を超えて計算した金額」が割増賃金で、1時間あたりの賃金が1,500円の場合は1,875円、2,000円の場合は2,500円になります。
割増賃金の支払いが必要になるのは労働基準法に定められている労働時間を超える残業時間についてで、割増の対象になるのは1日8時間、1週40時間を超える残業時間です。
つまり1日7時間労働の会社で3時間の残業をさせた場合は、法定労働時間の8時間までの1時間は割増なし、2時間は割増ありで残業代を計算して支払うことになります。
今のままでOK?中小企業の残業時間の問題点を整理しよう!
働き方改革で労働時間はどう変わる?
2019年から働き方改革が本格的にスタートしました。有給休暇の義務化や残業時間の上限規制(中小企業は2020年から)が始まり、欧米をはじめとする諸外国と比較して長いと言われ続けてきた日本の労働時間もいよいよ本格的に短縮され始めています。
大企業ではとくに社会に与える影響が強くイメージが重要であるため、施行された働き方改革関連法案に沿って、労働時間短縮が確実に進められています。
中小企業は、大企業に比べて労働時間短縮は進んでいない現状がありますが、人手不足が進んでいるなか、労働力を確保するためには労働環境や労働条件の改善をしないわけにはいきません。労働時間も短縮していく必要があります。
中小企業ならではの問題点とは?
大企業が積極的に労働時間短縮を進めることによって生じているのが、中小企業にしわ寄せがきているという問題です。
多くの中小企業が大企業の下請けとなってさまざまな業務を請け負っていて、大企業の影響を受けざるを得ない構造になっています。
大企業が働き方改革を推進する上で抱えきれなくなった業務を中小企業に丸投げしたり、納期を短縮させることで自社の時間的余裕の不足を中小企業に吸収させたりしている事例が多く発生しています。
このようなしわ寄せ問題の解決に向け、中小企業庁は厚生労働省、公正取引委員会とともに2019年6月26日、「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」(しわ寄せ防止総合対策)を策定しました。
対策では以下4つの項目が柱になっています。
- 関係法令等の周知広報
- 労働局・労基署等の窓口等における「しわ寄せ」情報の提供
- 労働局・労基署による「しわ寄せ」防止に向けた要請等・通報
- 公取委・中企庁による指導及び不当な行為事例の周知・広報
厚生労働省・中小企業庁・公正取引委員会はこれらの考え方をもとに、連携してしわ寄せ問題解決に向けての取り組みを実施するとしています。この対策により中小企業でも労働時間短縮が進むことが期待されます。
まとめ
2023年から中小企業でも月60時間超の残業時間について割増賃金の割増率が2割5分から5割に引き上げになります。中小企業は、大企業とは違い中小企業ならではの事情により残業時間の削減は簡単にはできません。コストの大幅アップとならないように、今から残業時間削減に取り組みましょう。
複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。
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