甘く見ていない?未払い残業代につく遅延利息や付加金で倒産の危機も!

残業代の未払いに関する訴訟は、近年では珍しくありません。未払いがあった場合、企業は未払い残業代に加え、遅延利息や付加金などを支払うことによって経営が立ち行かないほどのダメージを受けることもあります。企業が被るダメージを最小限とするためには未払い残業代について理解を深め、未払い防止に取組みましょう。

きちんと払っているつもりだった!身近で起きている残業代の未払い

残業代の未払いを発生させる主な要因

残業代の未払いには管理監督者に関する未払い、定額残業手当制や裁量労働制に関連したもの、あるいは労働時間を適正に把握していないことに由来して発生した未払いなどがあります。また、残業代に関する経営者の誤解や思い込みなどにより、思わぬ未払いが発生していたというケースもあるようです。認識不足による未払いを防ぐためには、残業代に関する正しい知識のもとに支給方法の点検や見直しを行い、適切な運用を心がけましょう。

*参考URL
厚生労働省:「割増賃金不払い」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/chingin/fubarai.html
 
独立行政法人労働政策研究・研修機構:「賃金不払残業」と「職場の管理・ 働き方」・「労働時間管理」 賃金不払残業発生のメカニズム、日本労働研究雑誌、No.596 p50-68、Feb.-Mar.2010
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/02-03/pdf/050-068.pdf

残業代の未払い問題の現状

残業代の未払いは以前から問題となっていますが、いまだになくなりません。厚生労働省が発表した2017年度の監督結果によると是正企業数と対象労働者数はむしろ増加し、過去10年間でもっとも多いことが明らかとなりました。また、監督指導を受けて支払った残業代(割増賃金)が合計100万円以上の企業における遡及支払額は、平均2,387万円に達しています。

*参考URL
厚生労働省:監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年度)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00831.html

未払い残業代につく遅延利息は年14.6%

残業代を未払いにしたときの金銭的なペナルティとしては遅延利息や遅延損害金、付加金などがあります。残業代の未払い分を退職後に請求された場合は遅延利息が発生し、年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律6条)の高利率です。在職中の場合は、年6%(商法514条)の遅延損害金が必要になります。遅延利息や遅延損害金に加え、裁判所は未払い賃金と同額の付加金を支払うよう企業に命じることができるので(労働基準法114条)、企業が受けるダメージは決して小さくありません。

 

さらに、労働基準法は残業代などの賃金に関する違反に対し、罰則規定を設けています。未払いを放置してなかなか支払わない、帳簿を改ざんしたなどの悪質なケースでは「6ヶ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられることもあります。

「管理監督者だから残業代は不要」という思い込みが未払いを引き起こす

労働時間等の規定が適用されない管理監督者

労働基準法でいう「管理監督者」に該当すると労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されません(労働基準法41条2号)。そのため、管理監督者の労働時間が、たとえ法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えていても残業代の支給は免除されます。ところが、労基法で定める管理監督者に該当しないにもかかわらず、残業代を払っていないケースが多いので注意が必要です。

 

管理監督者該当性を争点とした判例をみると、役職などの名称ではなく、実際の職務内容や権限、あるいは勤務態様、勤務時間の裁量、処遇などの点で判断しています。勤務の実態から管理監督者に該当しないと判断された場合は、残業代の支給が必要です。

管理監督者にも必要な深夜労働の割増賃金

管理監督者の場合、深夜労働(午後10時~翌朝5時)の割増賃金にも注意してください。労働時間や休日などの規定で管理監督者が例外として適用除外となり、支給が免除されるのは時間外労働(割増率25%以上)と休日労働(35%以上)の割増賃金だけです。そのため、管理監督者が深夜労働をしたときは労働時間を把握し、25%以上の割増賃金を支給しなければなりません。

 

なお、労働時間管理が必要なのは深夜労働に限ったことではなく、長時間労働による健康被害を予防する観点からも管理監督者に対する労働時間管理は重要といわれています。2019年4月1日施行予定の改正労働安全衛生法では、管理監督者も含めて労働時間の適正把握が義務となります(第66条の8の3)。見過ごされる傾向にあった管理監督者の労働時間も適正に把握し、残業代の未払いを防ぎましょう。

定額で払っているから大丈夫?押さえておきたい定額残業代の留意点

定額残業手当制のメリット、デメリット

残業代の支給方法としては毎月の給与に一定額の残業代を含めて支払う方法があり、定額(固定)残業手当制と呼ばれています。定額残業手当制は残業代の未払い防止の効果に加え、給与計算事務を簡略化することができ、人件費の予測もつきやすいなど多くのメリットがあります。

 

一方、デメリットは毎月支給する定額残業代が、実際の残業時間を用いて計算した残業代を上回る可能性があることです。また、経営者が「残業代は毎月払っているから問題はない。むしろ多めに払っているくらいだ」と考えてしまい、未払いに気づきにくいという傾向もみられます。

定額残業手当制を適法に導入するためのポイント

定額残業手当制は法律で定められた制度ではなく、多くの判例により導き出された一定の条件のもとに認められている制度です。そのため、定額残業手当制を導入する際は以下のような条件を満たす必要があります。

 

  • 定額残業代が労基法上の割増賃金と同額、または上回っている。
  • 基本給のうち残業代に相当する部分が明確に区別され、合意されている。
  • 定額残業代の時間数や金額が明確に示されている。
  • 予め設定した残業時間数を超えた場合、超過分を別に支払うことが合意されている。
  • 定額残業代について労働契約書や就業規則などに明示されている。

定額残業手当制で起こりやすい未払い残業代

定額残業手当制では、通常の賃金と残業代に当たる部分を明確に区別していないと残業代を計算するときに基礎となる時給(残業代単価)そのものが間違ってしまうことがあります。

 

たとえば、基本給(25万円)に定額残業代(5万円)を加え、30万円を支給したケースで考えてみると、適法であれば時給を求めるときに基礎とするのは25万円で済みます。しかし、区分が明確にされていないと、訴訟に持ち込まれた際に30万円を基礎として時給を算出する可能性があるのです。すると、時給が高くなり、支給すべき残業代が定額残業代を上回ってしまうことがあります。

まとめ

残業代の未払いは、中には単純な認識不足から発生することもあるので常に問題意識をもって臨む必要があります。2019年4月から労働時間の適正把握が使用者に義務づけられることにより、労働者は労働時間や残業代に対して一層、関心をもつようになるでしょう。すると、残業代の未払いに関する請求も増加する可能性があります。企業が労使トラブルや遅延利息などによるダメージを防ぐためにも不確かな認識のままで対処せず、専門家の支援などを受けながらより適切な方法で対処しましょう。

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