中小企業は要注意?年末の資金繰りの注意点と対策

[取材/文責]山本麻衣

年末に近づくにつれて倒産する企業が増えると言われるほど、中小企業にとって年末の資金繰りは課題となっています。そこで本記事では、中小企業が年末の資金繰りに注意しなくてはならない理由や、資金繰りを悪化させないための対策などを紹介します。

なぜ年末に注意が必要?

年末に資金繰りが悪化する理由

なぜ、年末の資金繰りに注意が必要なのでしょうか。その理由は多数ありますが、代表的なものとして以下のようなものが挙げられます。
 

  • 取引量が増加する
    年末にはクリスマス需要や年末年始商戦によって一時的に取引量が増加します。資金繰りに余裕のない中小企業では、手形の割引や社長による企業への貸付などでなんとかやりくりしているというケースも多く、そのような状態で年末の繁忙期を迎えると資金不足に陥りやすくなります。
  • 年末特有の支出が存在する
    詳しくは次項以降でも触れますが、ボーナスや法人税・消費税等の仮払い、年末調整の還付金などで支出が増加します。これらの年末に特有の支出も、資金不足を引き起こす要因となります
  • 金融機関も多忙に
    年末は一般企業だけでなく、金融機関も多忙になります。通常であれば金融機関から融資を受けて対応することが可能なケースでも、年末になると急な融資の申し込みが間に合わなくなってしまう恐れがあります。

 
このように、特に中小企業の場合、年末には様々な要因によって資金繰りが悪化してしまう危険性が高まります。年末の資金繰りの悪化により倒産してしまう「年末倒産」という言葉もあるほどですので、年末に顕在化する様々なリスクに対する注意が必要です。

年末の資金繰りにおいて、特に注意すべき点

前項で挙げた年末に資金繰りが悪化しやすい3つの理由について、より掘り下げて見てみましょう。

取引量の増加

クリスマスでの商品需要の増加や消費者の購買行動が年末年始に盛んになることなどにより、年末にかけて一時的に取引量が増加することがあります。取引量が増加すること自体には問題はないのですが、それに伴って支払金額も増加しますので、売掛金の回収が遅れるなどした場合、資金が足りなくなってしまうことが考えられます。取引先の状況にも注意を払い、リスク要因をできる限り前もって特定しておくことが重要です。

年末特有の支出

年末特有の支出としてまず挙げられるのが、ボーナスの支払いです。12月に冬季の賞与が支払われる場合には、その分の資金が必要になります。
 

2点目に法人税等の仮払いがあります。法人税等は中間申告時に事業年度の前半6ヶ月分を支払う必要がありますが、その中間申告の時期は前半6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内と定められています。3月決算法人の場合、11月30日が中間納税分の支払い期限となりますので、その分の資金が必要になります。
 

そして3点目が、年末調整還付金です。年末調整の還付金を12月の給料に上乗せする、もしくは年内最後の出勤日に支払うなどする場合には、その分を企業が立て替えることになるため、さらに資金が必要となります。

融資対応の遅れ

金融機関は決算期である6月と3月が最も忙しくなりますが、年末の12月も同様に忙しい時期です。こうした時期には、融資の申し込みから実行まで最短でも2週間程度を要すというケースが多いため、万が一断られた時のことも考え、遅くとも11月中には借り入れの申し込みを行っておく必要があります。

黒字なのに資金がない?

黒字でも資金が不足してしまうことがある

一見矛盾しているようにも思えますが、例え黒字であっても資金がなくなってしまうことがあります。企業が成長するにつれて取引量や取引金額が増えていきますが、その過程で売上金額と一緒に仕入金額も増えていきます。現金商売ではなく売掛金や買掛金などの掛取引を行っている場合は、売掛金の回収の遅れなどが原因となって、黒字でも資金が不足する可能性があります。
 

また、損益計算書では売れ残った在庫分の支出は計上されないため、過剰に在庫を抱えることで資金が滞留してしまうという可能性も考えられます。

黒字でありながら資金不足となった事例

黒字でありながら資金不足により倒産してしまった事例としてよく引き合いに出されるのが、株式会社アーバン・コーポレイションです。同社の倒産原因も、資金繰りの失敗にあります。同社は販売が行き詰まっている状況であるにもかかわらず仕入を続けたため、損益計算書上では黒字なものの、負債が膨らんで倒産へと至りました。

中小企業が行うべき対策

年末に向けて行うべき対策

第一に、あらかじめ必要となる金額を算出し、支出の増加に対応できるようにしておくことが必要です。先述の通り、年末には臨時の支出が発生することが予想されるため、それらを見込んでおくことで急な支出にも慌てずに済みます。
 

次いで重要なのが、日頃から売掛金の回収に注意しておくことです。掛取引を行う場合、売掛金の回収が予定通りに行われないことは資金不足の原因となり得ます。資金が足りなくなってから催促するのではなく、普段から約束通りに入金が行われない場合にはすぐに払ってもらうよう連絡することを徹底しましょう。

中小企業庁による支援制度

中小企業庁による支援制度を利用することも有効な手段のひとつです。中小企業庁では、年末にかけて資金需要が増加する中小企業や小規模事業者への対応策として、政策金融および信用保証の制度を設けることで資金繰りを支援しています。具体的な制度としては以下の2つが挙げられます。
 

  • 政府系金融機関による資金繰り支援
    この制度では、セーフティネット貸付等(経営環境変化対応資金)の拡充、および、中小企業等経営強化法関連融資の創設により支援を行っています。前者は、経営環境の変化により一時的に業績が悪化している企業に対し、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫によるセーフティネット貸付等を拡大するものです。他方の後者は、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けた事業者が行う設備投資に対して、日本政策金融公庫が特別利率で融資を行うというものです。
  • 信用保証協会による資金繰り支援
    この制度は、経営者に事業改善の意欲はあるものの前向きな金融支援を受けることが困難になった中小企業・小規模事業者等を対象に、既往の保証付融資の一本化・借り換えを支援するというものです。返済ペースの見直しにより月々の負担が軽減するとともに、計画的に資金繰りを正常化していくことを目的としています。

 

☆ヒント
中小企業にとって、年末の資金繰りの悪化は何としてでも回避しなければならないものです。これを未然に防ぐためには、ここまで解説したように様々な観点から適切な対策を行うことが必要ですが、自社だけではなかなか難しいというケースも多いのではないでしょうか。各種税制や助成制度に精通した税理士であれば、個々の企業の特徴に合わせ、適切なアドバイスで資金繰りをサポートすることができます。

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個人事業主や中小企業は要注意?年末の資金繰りの注意点と対策,3分でわかる税金

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まとめ

今回は、中小企業が年末の資金繰りに注意しなくてはならない理由や、資金繰りを悪化させないための対策などについて解説してきました。この機会に、自社の資金繰りについてもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

東京大学卒。現、同大学院所属。
学生起業、海外企業のインターンなどの経験を経て、外資系のコンサルティング会社に内定。
自分の起業の経験などを踏まえてノウハウなどを解説していきます。

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