コロナ不況による不良債権は損金?個人事業主と法人の貸倒れの税金

[取材/文責]阿部正仁

コロナ不況で得意先の業績が悪化して、売掛金が不良債権化する可能性があります。しかし、貸倒れとして必要経費・損金に計上するためのハードルは低くありません。しかも、貸倒れ処理をした不良債権は税務調査の争点になりやすい傾向にあります。そこで、この記事では貸倒れの税金とリスクヘッジについて解説します。

不良債権を必要経費・損金に計上する方法

不良債権とは、回収不能または回収困難な債権のことを指します。しかし、債権者によって現金化できる・できないの解釈が異なるため、課税の公平が損なわれないよう、税法上の不良債権には客観性が求められます。そのため、必要経費・損金に計上するためのハードルが高いといわれています。

貸倒損失として全額必要経費・損金に計上する

不良債権の全額を貸倒損失として必要経費・損金に計上できる条件は次の通りです。

 

  • 金銭債権が切り捨てられた場合の貸倒れ:法律上の貸倒れ
  • 回収不能の金銭債権の貸倒れ:事実上の貸倒れ
  • 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ:売掛債権に限定した貸倒れ

 

詳しい内容は後述します。

個別評価金銭債権による貸倒引当金を設定する

貸倒引当金とは、債権の回収不能額を見積計上した金額のことを指します。コロナの影響により次の不良債権が発生した場合、個別評価金銭債権として回収不能額を見積計上することができます。

  • (1) 債務者について生じた更生計画認可の決定などの事由に基づき、「弁済の猶予」または「賦払により弁済」される場合
    その事由が生じた日に属する年度の末日の翌日から5年を経過する日までに弁済される金額以外の金額が必要経費・損金に計上できます。言い換えれば、5年以内に済されない部分の金額が貸倒引当金の設定対象額になります。
  • (2) 債務者につき、「債務超過の状態が相当期間継続し」かつ「その営む事業に好転の見通しがないこと」等の事由が生じていることにより、不良債権の一部について回収の見込みがないと認められる場合
    上記(1)の場合を除いて、回収の見込みがないと認められる金額が貸倒引当金の設定対象額になります。
  • (3) 債務者につき「更生手続開始等の申立て」や「手形交換所よる取引停止処分(手形の不渡り)」等の事由が生じている場合
    上記(1)と(2)を除いて、不良債権の50%相当額が貸倒引当金の設定対象額になります。
  • (4) 外国の政府、中央銀行、地方公共団体に対する債権のうち、弁済を受けることが困難な場合
    不良債権の50%相当額が貸倒引当金の設定対象額になります。

一括評価金銭債権による貸倒引当金を設定する

貸倒損失や個別評価金銭債権の貸倒引当金に計上できない場合、一括評価金銭債権という正常な債権の回収不能額として見積計上することができます。貸倒引当金の計算方法は個人事業主と法人で異なります。

(1)個人事業主

青色申告者の事業所得に限り、売掛金や貸付金などの債権額の5.5%(金融業は3.3%)までが貸倒引当金の設定対象額になります。

(2)法人

法人は白色申告でも貸倒引当金の計上が可能です。過去3年間の貸倒損失額をベースに実績繰入率で計算するのが原則です。ただし、中小企業の場合、売掛金や貸付金などの債権額に業種ごとの法定繰入率を掛けて計算する特例が認められています。

法定繰入率

出典:国税庁

貸倒損失により必要経費・損金に計上する方法

貸倒損失として必要経費・損金に計上しても、税務調査で否認される可能性があります。そこで、貸倒損失の詳しい条件について見ていきましょう。

金銭債権が切り捨てられた場合の貸し倒れ

金銭債権が切り捨てられ、法律上において債権が消滅した場合、消滅した年度の必要経費・損金に計上します。具体的には次の通りです。

 

  • (1)会社更生法に基づく更生計画認可の決定による切り捨て額
  • (2)民事再生法に基づく再生計画認可の決定による切り捨て額
  • (3)会社法に基づく特別清算に係る協定の認可の決定による切り捨て額
  • (4)法令の規定による整理手続によらない、関係者の協議決定による次の切り捨て額
    • 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
    • 行政機関または金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が債権者集会の協議決定に準ずるもの
  • (5)債務超過の状態が相当期間継続し、債権の弁済を受けることができないと認められる債務者に対する書面による債務免除額

 

上記(5)の方法で貸倒損失に計上する場合には注意が必要です。債務免除をしても、必要経費・損金に計上できるケースは「回収不能なことを客観的に証明できる」や「回収可能な債権の債権放棄の場合は、子会社等を整理・再建するためなどの債権放棄に経済的合理性がある」などの場合に限られるからです。そのため、安易に債務免除をすると、債務免除額のほぼ全額が寄付金として課税対象になる可能性が高くなります。

回収不能の金銭債権の貸し倒れ

債務者の資産状況、支払能力などから債権の全額が回収できないことが明らかになった場合、明らかになった年度の必要経費・損金に計上します。回収不能とされる具体例は、債務者が「破産した場合」や「差し押さえが禁止されている財産程度しか持っていない場合」などです。

一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ

下記(1)または(2)の場合、売掛債権(貸付金は含まない)から1円以上の備忘価額を控除した残額を貸倒損失として必要経費・損金に計上できます。なお、法人の場合は損金経理という費用・損失の経理処理が損金計上の条件になります。

 

  • (1) 継続的な取引を行っていた得意先の資産状況、支払能力などの悪化により、「取引停止時」と「最後の弁済時」などのうち、最も遅い時から1年以上経過した場合(ただし、不動産取引や請負工事などの単発の取引にかかる売掛債権はこの貸倒損失の適用対象外)
  • (2) 同一地域の得意先に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

 

遠隔地の得意先に対する支払の督促にかかる旅費が売掛債権の総額よりも大きい場合はこの貸倒損失の適用対象になります。

コロナの影響による得意先の倒産に対するリスクヘッジ

コロナの影響により得意先が倒産し、不良債権となっても必要経費・損金に計上できるハードルは高いため、資金面でのリスクヘッジを検討する価値があります。

コロナ関連の特別融資を受ける

得意先が倒産し、不良債権になった場合の資金繰り対策として、通常の融資よりも優遇されるコロナ関連の特別融資で資金調達をする方法があります。日本政策金融公庫による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」や各都道府県などの制度融資により、実質無利子、無担保、据置期間は最大5年、保証料減免の融資が受けられます。コロナの影響により最近1ヵ月の売上高が5%以上減少している企業が特別融資の対象になります。

経営セーフティ共済に加入する

コロナの影響にかかわらず、得意先の倒産に備えるために経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)の加入する方法があります。1年以上掛けていることを条件に、得意先が次に当てはまる場合、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れができます。

 

  • 法的整理
  • 取引停止処分
  • でんさいネットの取引停止処分
  • 私的整理
  • 災害によるでんさいの支払不能
  • 災害による不渡り
  • 特定非常災害による支払不能

 

なお、得意先の夜逃げは掛金の最高10倍までの借入れの対象外です。

取引信用保険・保証ファクタリングを活用する

民間企業の取引信用保険・保証ファクタリングは不良債権となり、回収不能になった場合に資金調達できるのが特徴です。取引信用保険は法的整理事由の発生または履行遅滞の発生により売上債権が回収できない場合などに、回収不能額の一定部分について補償する企業向けの保険商品です。

 

一方、保証ファクタリングは未回収の状態になった場合、取引先ごとに設定された保証限度額を上限として保証金の支払いが受けられる債権保全商品です。

まとめ

得意先の倒産に対するリスクヘッジとして、コロナ関連の特別融資などの資金調達を検討することは大切です。一方、不良債権が発生した場合、①貸倒損失の計上②個別評価金銭債権の貸倒引当金の設定③一括評価金銭債権の貸倒引当金の設定と、節税効果の高い順で検討するのが基本になります。

 

最悪の事態に備えて、得意先が倒産しても冷静に対処できるようにしておきましょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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