地域活性で企業にもメリットが!昨年度新しく創設された地域未来投資促進税制をご存知ですか?
中小企業を対象とする減税制度のひとつに、地域未来投資促進税制があります。これは平成29年の税制改正において、地域経済を牽引する企業を応援する目的で創設されたものです。今回は、地域未来投資促進税制の概要と対象事業者、活用方法について解説いたします。
地域未来投資促進税制のねらい
地域未来投資促進税制は、地域経済を牽引する事業者への支援策です。大都市圏以外の経済は、従来型の製造業等の設備投資がいまだリーマンショック前の水準に戻っていないなど多くの課題を抱えています。その背景には地域内における製造業以外のビジネスの発展の不十分さがあるという経済産業省の分析を基に、製造業のみに収まらない地域経済の好循環を生み出すために地域未来投資促進法が制定され、地域未来投資促進税制の創設をはじめとする様々な支援措置が設けられています。それらの措置により、今後3年で2,000社程度を支援し、1兆円の投資拡大、GDPを5兆円に押上げることを目指しています。
制度概要
この制度において優遇措置を受けたい事業者は、地域未来投資促進法に基づき作成した「地域経済牽引事業計画」を都道府県に申請します。その承認は、以下の要件に基づいて判断されます。
- 対象区域や目標、地域経済牽引事業計画の要件、活用する地域の特性などを定めた自治体(市町村・都道府県)が作成する基本計画に基づいていること(この基本計画には国の「同意」が不可欠ですが、自治体が主体的に策定したものなのでその内容は自治体ごとに異なります)
- 地域の特性を活用していること
- 付加価値を創出していること
- 地域への経済波及効果が認められること
この判断は、申請者が民間団体である場合は市町村の基本計画に基づいていたとしても都道府県が行います。申請者が民間団体ではなく、地方公共団体と民間事業者の共同での申請の場合は、官民連携型として国が事業を承認することとなります。
この計画の承認により、課税特例、金融支援、専門的アドバイス、規制特例などの支援メニューを受けることができますが、そのうちの課税特例が本稿の扱う「地域未来投資促進税制」となります。税制面での特例措置を受けるには、計画の承認に加えて、国からその事業が高い先進性を持つことについて確認を受ける必要があります。
課税の特例では、工場や店舗に機械などの導入によって投資を行った場合に特別償却や税額控除が認められ、この両者のどちらを選択するかは事業者が選択できます。特別償却を選択すれば、限度額まで償却費を計上しなかった場合、その償却不足額を翌事業年度に繰り越すことができるので、資金繰りの加減次第でうまく使いこなすといいでしょう。ただし、総投資額が最低でも 2,000 万円であることが必要です。優遇の内容は、具体的には以下のようになります。
- 機械装置や器具備品の場合、特別償却なら40%、税額控除なら4%の優遇
- 建物・建物附属設備・構築物の場合、特別償却なら20%、税額控除なら2%の優遇
上記のほかにも、特例を受けることのできる投資額について以下のような要件があります。
- 前年度の減価償却費の 10%を超える投資額であること(ただし、地方自治体が事業者として参画する場合を除きます)
- 対象資産の取得価額の合計額のうち、本税制の支援対象となる金額は 100 億円まで
- 税額控除を受けることのできる金額は、その事業年度の法人税額(法人ではない場合は所得税額)の 20%まで
また、事業者に直接関わることではありませんが、「地域経済牽引事業計画」を申請し承認された事業者に対して地方自治体が固定資産税を減免した場合、その減免した分の補填を国が自治体に行うことで、自治体が減免しやすいような仕組みになっています。
利用例
毎年の減価償却費控除前所得1億円の企業が、償却期間10年(定額法)の機械を2,000万円で購入したと仮定します。この企業が要件を満たして制度を利用すると、どれほどの節税効果が得られるのか、税額控除と特別償却のそれぞれの場合を計算してみましょう。
1年目の減価償却後の所得は、1億円-2,000万円×10%=9,800万円となり、法人税の実効税率が30%だとすると、通常であれば2,940万円が課税されることになります。税額控除を選択した場合は、2,000万円の4%の税額控除を受けられるので、ここから80万円の税が控除されます。特別償却を選択する場合、1年目には2,000万円×10%+2,000万円×40%=1,000万円を償却できます。これにより減価償却後の所得を9,000万円に抑えることができ、1年目の税金は2,700万円になるので、240万円税金を抑えることができます。
地域未来投資促進税制を利用するには
地域未来投資促進税制を利用するには、経済産業省のウェブサイトで公開されている「課税の特例確認申請書」を提出する必要があります。ただし、この申請書を提出するためには、事前に主務大臣を確定させる必要があるという点に注意が必要です。主務大臣は、地域未来投資促進法38条において、経済産業大臣、総務大臣、財務大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣および国土交通大臣のいずれかと定められています。期日までに主務大臣を確定させなければ申請は行えず、優遇税制を受けることはできません。
主務大臣を確定するには、まず事前の申請相談が必要です。申請の相談先は経済産業省の各地域での出先機関である経済産業局となります。主務大臣を確定するためにこの経済産業局と関係省庁との間のやり取りに時間がかかるので、経済産業省のウェブサイトに掲載されている、主務大臣の確認申請スケジュールの「主務大臣把握のための事前締め切り」の日付までには、事業内容等についての相談をしておかなければなりません。
実際に利用した例
経済産業省はこの制度の対象となる「新たな成長分野」にあたる事業について、以下を例示しています。
- 成長ものづくり(医療機器、航空機部品、新素材等)
- 農林水産、地域商社
- 第4次産業革命関連(IoT、AI、ビッグデータ活用)
- 観光・スポーツ・文化・まちづくり
- 環境・エネルギー
- ヘルスケア・教育サービス
すでに提出された事業計画の中からは、これらの「新たな成長分野」を組み合わせたものが多く承認されています。例えば静岡県の株式会社竹屋旅館は、従来型の飲食業や観光だけではなく、ITを活用した多言語観光ガイドシステムや食育プログラムなども組み合わせた「ヘルスツーリズムプログラムの創出」と銘打った事業計画を提出しました。2021年5月期において、ヘルスツーリズムプログラムの年間利用者3,000名の獲得と、付加価値額の1.3億円増加を目指すものとして、県からの承認を受けています。
まとめ
地域未来投資促進税制は国も自治体も関係するため、一般的な優遇税制と比べて手続きが煩雑になっていますが、きちんと準備して申請すれば、税制優遇の他にも様々な恩恵を受けることができます。地域に根ざす多くの事業者にとって、活用を検討する価値のある制度といえるでしょう。
東京大学卒。現、同大学院所属。
ベンチャー企業の経営やビジネスを学んでおり、経営に役立つ様々な知識やノウハウを習得中。
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