中小企業の融資入門!融資の前に知っておくべき金融機関の特徴とは?

[取材/文責]岡田桃子

事業を大きくするには金融機関から融資を受けて積極的に投資を行うのは当然です。しかし、一口に融資と言っても銀行や融資金額、利率など頭を悩ますことは多いはず。この記事では銀行などの金融機関との付き合い方に戸惑っている方に、金融機関についての解説をします。

金融機関の種類と役割

企業活動とは切っても切り離せない関係にあるのが融資。事業拡大のために融資を受けたり、支払いのために銀行口座を利用したりと、企業と金融機関との関わり方は多岐にわたります。一口に「金融機関」と言ってもその種類や役割は様々です。

日本政策金融公庫(政府系金融機関)

日本政策金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法に基づいて2008年10月1日付で設立された財務省所管の特殊会社で、100%政府出資の政策金融機関です。前身は国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫であり、日本政策金融公庫はこれら3社が担っていた業務を引き継いでいます。
・国民生活事業
国民一般の資金調達支援
・中小企業事業
中小企業の出資調達支援
・農林水産事業
農林水産事業者の資金調達支援
・危機対応円滑化業務
金融秩序の混乱、大規模な災害などによる被害への対応

日本政策金融公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完することを旨としており、民間の金融機関から融資を受けることが困難な創業者に対しても融資をしてくれます。国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業のシナジー効果もあり、小企業や農林漁業者に対する経験と知見が豊富なことが特徴として挙げられ、固定金利、長期融資などさまざまなメリットがあります。

また、新たに事業を始める人や、事業を開始して間もない人に対して、無担保・無証人で利用できる新創業融資制度なども扱っており、全国152支店で専任の担当者が創業計画書の立て方や融資申し込みの流れ、融資内容等について相談を受け付けています。

都市銀行(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など)

都市銀行は支店網やATM網などを全国に張り巡らせて、全国で銀行サービスを行っています。三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など特に大きな銀行はメガバンクと呼ばれています。
その規模を活かし、巨額の融資や国際的な取引など高度なサービスを取り扱うことができます。また、証券会社や信託銀行をグループ内に有していて、銀行業務だけでなく様々な金融サービスを提供できるのが強みです。

一般的に取引の規模が大きく、大手企業相手の取引が中心となっており、中小企業への融資は縮小傾向にあります。しかし、支店などによっては、その地域性や独自のノウハウを活かしてベンチャー企業や中小企業に融資を行うこともあります。

地方銀行(コンコルディア(横浜・東日本)、ふくおかFG、千葉など)

全国地方銀行協会加盟銀行を地方銀行、第二地方銀行協会加盟銀行を第二地方銀行と区別しますが、サービス自体はほぼ違いがありません。
都市銀行は全国に幅広く支店網を広げて営業しているのに対して、地方銀行は特定の地域に深く密着した営業をしています。例えば、地方自治体や公立学校などの各種集金の自動引き落としを一手に引き受けるなど、その地域において盤石な基盤を持っていることが特徴です。そのため、地場の大手~中堅、中小企業との取引が中心に行われています。

地域密着型のスタイルなので、地域活性化を目的に、少額の保証協会保証付き融資から、高額なプロパー融資まで幅広く取り扱っていますが、金利や融資姿勢については銀行によってまちまちです。
最近では、地域を超えた取引が多くなるのに合わせ、横浜銀行と東日本銀行の経営統合など、地方銀行間で再編が進んでいます。

ネット銀行(ジャパンネット、ソニー、楽天など)

店舗を極力減らしてインターネット上の取引を中心とするので、他の銀行よりもコストを抑えられ、手数料を安くしたり預金金利を高くしたりしています。楽天など一部のネット銀行では中小企業向け融資に参入していて、その商品力の高さから注目が集まっています。

信用金庫・信用組合(朝日信用金庫、さわやか信用金庫、第一勧業信用組合など)

信用金庫・信用組合は市町村単位を中心に、広くても隣県までしか商圏を持たない小規模な金融機関です。
信用金庫は、地域の利用者がお互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした共同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人です。利益第一主義ではなく、地域社会の利益を優先させるという経営理念を掲げています。
一方で、信用組合は、信用金庫と同じ協同組織の金融機関ですが、根拠法や会員(組合員)資格が異なります。また、預金の受入れについても、信用組合は原則として組合員が対象ですが、信用金庫は制限がないなど業務の範囲も異なります。

・信用金庫・信用組合・銀行の違い

区分 信用金庫 信用組合 銀行
根拠法 信用金庫法 中小企業等協同組合法
協同組合による金融事業に関する法律(協金法)
銀行法
設立目的 国民大衆のために金融の円滑を図り、その貯蓄の増強に資する 組合員の相互扶助を目的とし、組合員の経済的地位の向上を図る 国民大衆のために金融の円滑を図る
組織 会員の出資による協同組織の非営利法人 組合員の出資による協同組織の非営利法人 株式会社組織の営利法人
会員(組合員)資格 (地区内において)
住所または居所を有する者
事業所を有する者
勤労に従事する者
事業所を有する者の役員
<事業者の場合>
従業員300人以下または資本金9億円以下の事業者
(地区内において)
住所または居所を有する者
事業を行う小規模の事業者
勤労に従事する者
事業を行う小規模の事業者の役員
<事業者の場合>
従業員300人以下または資本金3億円以下の事業者(卸売業は100人または1億円、小売業は50人または5千万円、サービス業は100人または5千万円)
なし
業務範囲
(預金・貸出金)
預金は制限なし
融資は原則として会員を対象とするが、制限つきで会員外貸出もできる(卒業生金融あり)
預金は原則として組合員を対象とするが、総預金額の20%まで員外預金が認められる
融資は原則として組合員を対象とするが、制限つきで組合員でないものに貸出ができる(卒業生金融なし)
制限なし

いずれの場合も、融資を受ける場合は、基本的には保証協会保証付き融資となり、資金調達力が低いため金利は高めになる傾向があります。

担当者が全て?

さて、もし仮にあなたが会社の営業担当であったら、営業に行く前に営業エリアや営業先を割り当てられるでしょう。銀行などの金融機関もそれと同じで各支店に営業部、支店のエリアに営業エリア、支店の各銀行員に営業先が割り当てられます。一般企業であったら営業先の担当者との付き合いは長期に渡るものが多いですが、銀行では金融商品を扱った不正を防ぐために数年で異動があるのが特徴的です。つまり、融資を受ける企業側からすると、銀行の融資担当者が頻繁に変わるのです。 例えば、銀行支店内では、融資審査を行う際にその担当者が稟議書を作成し、支店長が決裁するという流れを取っています。すなわち融資を受けるには、担当者が稟議書を積極的に作るか作らないかにかかっているのです。担当者も支店内では営業マンであって、融資件数・額が担当者自身の評価につながるので、稟議書を作成するからには良い稟議書を作りたいと思っています。ですから融資を受ける側は、融資担当者が質の高い稟議書を作成できるように、収益見通しや業界内情報など数多くの材料を準備しておくと良いでしょう。 これらは決して珍しい話ではないので、担当者が変わったら銀行が変わったぐらいの心持ちでいましょう。

融資姿勢は地域と業種によって異なる?

金融機関の支店が密集している地域としていない地域があります。密集地域では財務体質が優れ、取引規模が大きい企業が集まりやすいので、各支店の担当者が積極的な営業をしなかったり高いリスクを取らなかったりする傾向にあります。裏を返せば、積極的に営業をしたりリスクを取ったりする傾向にあるのは非密集地域ということです。この原因として、これらの地域では融資対象の企業数自体が少なかったり、地方銀行などある一行が独占したりしているので他行の参入が遅れていることが挙げられます。これらをエリアに持つ支店はノルマを達成するために積極的な融資姿勢を持っているでしょう。 また、地域のほかに業種によっても各支店間の融資姿勢は異なっています。例えば、東京都新宿区の支店では小型飲食店が多く、これらの飲食業界への融資案件を多数こなした経験から、他の支店よりも小型飲食店のリスク評価能力が高く、飲食業界に対して積極的に融資を行う傾向があります。同様に東京都渋谷区の支店ではITベンチャーへのリスク評価を得意としていて、比較的リスクの高いと言われているIT関連企業へも積極的に融資を行います。そのため、近年多くのITベンチャーが渋谷・青山エリアに集まってきています。この他にも、卸売業向けや水産農林業向けなど特定の業種について知見が広い支店では、他の支店とは異なる融資結果になることがあります。

融資の種類解説

企業が銀行から融資を受けようとする場合に、保証の有無によってその融資は2種類に分類されます。

保証付き融資(マル保)

設立間もないベンチャー企業や金融機関との取引が浅い中小企業が銀行から融資を受けようとすると「信用保証協会」という公的機関の保証を要求されることがあります。この保証付きの融資のことを「保証付き融資」と言います。 「信用保証協会」は、中小企業・小規模事業者が金融機関から「事業資金」を調達する際に、信用保証協会が保証人となって融資を受けやすくなるようサポートする公的機関です。 日本国内には約385万の中小企業がありますが、そのうち146万企業が利用しています。 その保証を得るには以下の条件があります。

・規模

業種 資本金 従業員数
製造業など(建設業・運送業・不動産業を含む) 3億円以下 300人以下
  ゴム製品製造業(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) 3億円以下 900人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業・飲食業 5千万円以下 50人以下
サービス業 5千万円以下 100人以下
   ソフトウェア業/情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5千万円以下 200人以下
医業を主たる事業とする法人 300人以下

 

・業種

ほとんどの商工業の業種が対象となっていますが、農林漁業や金融業などの一部の業種は保証対象外となります。 また、許認可・届出等を要する事業を営んでいる(または、営む)場合は、当該事業に係る許認可等を受けている(または、受ける)ことが必要です。

・区域・業歴

原則として、各信用保証協会の管轄区域で事業を営んでいる必要があります。申込先の信用保証協会が管轄する都道府県(市)において事業実態があることが条件となります。また、保証制度により要件として業歴が定められている場合があります。

プロパー融資

信用保証協会の保証を受けない融資のことを「プロパー融資」と言います。 信用保証協会への保証料がかからない、上限金額がない、数%程度の低金利など、メリットもありますが、自前で担保を用意する必要があります。特に、信用力の低いベンチャー企業などはほとんど融資を受けることができません。また、仮に審査に通ったとしても融資まで1か月ほどかかります。

ビジネスローン

プロパー融資とビジネスローンを分けることに議論がありますが、融資の簡便さという違いからここでは分けて分類します。ビジネスローンとは、信用保証協会の保証や担保を必要としないローンのことです。メリットとして短い審査期間や容易な審査が挙げられますが、デメリットとして10%台の高い金利が挙げられます。

まとめ

金融機関には様々な種類があって、支店や担当者によって融資姿勢が異なることを見てきました。いつか銀行から融資を受ける際には、銀行の種類や融資への積極性を把握して自社にとって最適な銀行を選びましょう。

東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。

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