他人ごとではない自然災害被災したとき、税金はどうなるの?
2019年9月、10月と立て続けに関東、甲信越、東北などを襲った大型台風。その被害は甚大でしたが、日本に住む以上、地震や火山の噴火なども含めた自然災害は、他人ごとではありません。ところで、不幸にも被災した場合、「納税」はどうなるのでしょうか? 頼りになる損害保険の保険金には、課税されるのか? いざという時のために、知っておきたい「災害と税」についてまとめました。
損害保険金には課税されない
自然災害で住んでいる家屋、家財が損壊などの被害を受けた場合、頼りになるのが火災保険、地震保険です。まず、こうした損害保険の扱いからみていきましょう。
火災保険にはさまざまな商品、契約オプションがありますが、今回のような台風による風の被害、水害にも対応するつくりになっています(補償の対象は「火事」だけではありません)。その火災保険、地震保険の保険金には、基本的に課税はされません。公的な支援金なども含めて、あくまでも災害を復旧し生活再建を図るのが目的で、利益は発生しないため、非課税なのです。
事業者の税金は、どうなる?
一方、事業に関わる建物などが被害を受けた場合には、損害保険の課税関係はどうなるのか? それには、保険料を支払っているのが個人か法人かで、次のような違いがあります。
個人が支払っていたら、やはり受け取る保険金には、課税されません。従って、この部分に関する税務申告も不要です。ただし、例えば事業用の建物の修繕にかかったコストが、もらった保険金の範囲内だった場合、それを修繕費として計上する(税金の控除を受ける)ことはできません。保険金を上回るお金がかかったときにのみ、その超えた分を経費として処理することが可能です。
それに対して、法人が保険料を負担していた場合には、受け取った保険金は、いったん法人の収入になります。そのうえで、修繕などのコストを経費として計上し、もらった保険金と相殺していくかたちで処理していくわけです。もし、そのコストが保険金の範囲内であれば、「余った保険金」=収入には、課税されることになります。
ちなみに、地震保険の補償は、居住用の家屋、家財限定です。法人が契約することも可能ですが、その場合でも事業専用の建物や設備などには、保険金はおりません。
ところで、被害が甚大だった場合、「とても納税どころではない」といった状況もありえるでしょう。税務申告や納税には、そうした災害などの際に、期限の猶予や納税額の減額が認められる制度があります。被災したうえに、あとから税金の「滞納」などが問題にされたのでは、目も当てられません。必要な場合には、そうした制度の利用も検討すべきです。
保険金では賄えない、大きな被害を受けたら
話を「一般家庭」に戻すと、保険金はもらったけれど、それではとても損害に届かない、あるいはそもそも損害保険に未加入だった、という場合には、もうそれ以上できることはないのでしょうか? 実は、そうしたケースで使える所得税減免ないし軽減の仕組みがあります。所特税法上の「雑損控除」と、税法とは異なる「災害減免法」の適用――の2つで、どちらか有利な方を選択することができるのです。
雑損控除は、自然災害のほか、火災、害虫被害、盗難などで資産の損害を受けたときに、税金計算のベースとなる所得から一定金額を差し引く(控除する)ことにより、所得税を減額することができます。対象となるのは、生活に必要な住宅や家財、自動車などで、事業用資産や生活に通常必要ではない別荘、ゴルフ会員権といった資産には適用されません。
雑損控除額の計算は、対象となる住宅や家財の損失額に、災害関連支出(※)の金額を加え、そこから、受け取った損害保険の保険金を差し引いた「差し引き損失額」がベースになります。具体的には、①差し引き損失額-所得金額の10分の1、②差し引き損失額のうち災害関連支出の金額-5万円――のいずれか多いほうが適用されるのです。加えて、その年の所得金額から引ききれないほど損失が大きなときには、3年間にわたって損失額を繰り越すことが可能です。
大変ありがたい仕組みではありますが、この控除を受けるためには、納税者本人が確定申告をする必要があります。サラリーマンの年末調整で控除することはできませんから、注意してください。
もう1つの災害減免法の適用は、その名の通り損失の原因が自然災害に限られており、所得1000万円以下の人が対象です。差し引き損失額が住宅や家財の時価の50%以上であることなども、要件になっています。
所得税の減免額は、
- ①所得金額の合計額が500万円→全額免除
- ②同じく500万円超750万円以下→50%免除
- ③同じく750万円超1000万円以下→25%免除
と定められています。
この災害減免法を利用するためにも、やはり確定申告が必要になります。また、雑損控除のように、損失額を翌年以降に繰り越すことはできません。
雑損控除と災害減免法のどちらの方が有利なのかは、損失の状況、所得水準などによって、ケースバイケースと言えます。例えば、後者は一気に所得税を免除してもらえる可能性がありますし、年間所得額を上回る損失を受けた場合には、損失を繰り越せる前者のほうを選ぶべきかもしれません。被災して大変な状況にあったとしても、後々のことを考えて、冷静に検討すべきでしょう。
災害の止んだ日から1年以内に支払った原状回復費用や損壊住宅・家財・土砂などの除去費用、その後の損壊・被害拡大を防止するための費用。
まとめ
誰にでも可能性がある自然災害による被害。1日も早く生活や事業を立て直すためにも、関連する税金のことを知っておくことは大事です。ただし、緊急時であればなおさら、素人判断は命取り。躊躇せず、税務署や税に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
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