経営者にも労働者にも“痛い”?22年度に「雇用保険料」引き上げの可能性

[取材/文責]マネーイズム編集部

厚生労働省が、労働者を雇う企業に加入が義務づけられている雇用保険の保険料率を、来年度から引き上げる方針だと報道されました。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う雇用調整助成金の給付が大幅に増加したことにより、財源がひっ迫しているのが理由ですが、企業経営者や労働者には、どのような影響が予想されるのでしょうか? 雇用保険の仕組みを含めて解説します。

雇用保険は政府が管掌する「強制保険」

2つの役割がある

最初に、雇用保険の概要をみておきましょう。この保険には、大きく分けて次の2つの事業があります。

 

  • (1) 失業した人や教育訓練を受け人などに「失業等給付」を支給する。
  • (2) 失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進などを目的とした2事業(雇用安定事業、能力開発事業)を行う。

 

会社で働く人にとっては、いざというときのセーフティネットともなる制度で、労働者を1人でも雇った会社は、健康保険や厚生年金保険などとともに、必ず加入しなくてはなりません。

保険料は労使双方が負担する

雇用保険の保険料も、健康保険など他の社会保険と同じく、会社と労働者の双方が支払います。一般の事業の現在の保険料率(収入に対する保険料の割合)は、次の通りです。

 

上記(1)については、0.6%で、会社と労働者が折半。
同じく(2)については、0.3%で、全額会社負担。

 

例えば、月収が30万円ならば、本人が(1)についての0.3%分=月900円を、会社が(1)と(2)を合わせた0.6%分=1,800円をそれぞれ負担することになります。

 

(1)、(2)の支給は、いずれもこうした保険料収入+余った保険料の積立金+一部国庫負担で賄われます。失業などに備えるのがメインなので、好況時に積立金を蓄え、不況時に備えるのが運営の基本。2017年度以降は、「歴史的低水準」と言われる保険料率をキープしてきました。

ここにもコロナ禍の影響が

雇用調整助成金の支給決定が4兆円超に

ところが、ここにきて保険料率引き上げが不可避な状況になりました。原因は、やはり新型コロナでした。

 

コロナによる業績悪化が解雇を生まないよう、政府は、企業が従業員に支払う休業手当の一部を補填する雇用調整助成金に特例(助成の日額上限額の約8,300円から1万5,000円への引き上げなど)を設け、中小企業をサポートしています。コロナ禍の長期化を踏まえて、特例の適用期間もたびたび延長され、現在は、要件を満たせば2021年末まで支給が受けられることになっています。

 

それは経営者にも労働者にもありがたいことなのですが、一方で支給のための支出も大きく膨らみました。厚生労働省は、昨年3月~今年7月23日の累計で、その支給決定が約400万件、支給決定額が4兆125億円になったことを明らかにしています。

雇用保険が原資の雇用調整助成金

実は、この雇用調整助成金は、雇用保険の(2)の「雇用安定事業」の1つに位置づけられています。ところが、支給額の急増により、それだけでは賄いきれず、(1)の積立金から約1兆7,000億円を、さらに国の一般会計からも、約1兆1,000億円を借り入れました。

 

この結果、コロナ前の19年度には約4兆5,000億円あった雇用保険の積立金は、21年度には約1,700億円にまで、急速かつ大幅な減少が見込まれる状況となっています。保険料率の引き上げは、財源の枯渇というピンチを逃れ、その健全化を図るのが目的なのです。

考えられる影響は?

引き上げ幅はどれくらいか

保険料率については、法律に明記されていて、現在の料率は「弾力運用」によって引き下げられているものです。本来の料率は、(1)が1.2%(労使折半)、(2)が0.35%(全額会社負担)となっていて、仮にこの水準まで戻すとすると、月収30万円の場合には、本人負担は、月1,800円と倍増。会社の負担も、月2,850円まで増える計算になります。

 

現在のところ、いつから、どのくらいの引き上げになるのかは、明確になっていませんが、新聞の紙面には「22年度にも」「大幅」の文字が躍ります。具体的には、労使の代表者と有識者でつくる労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論の後、その答申を踏まえて22年の通常国会で審議されることになりそうで、国庫負担のあり方などがポイントになるものとみられています。

会社への影響

 

保険料率が引き上げられれば、当然会社の支出は増えます。最低賃金が過去最高額の28円引き上げられ、全国平均で930円とすることが決まり、10月から適用されます。ただでさえコロナに苦しむ中小企業にとっては、厳しいダブルパンチとなるかもしれません。

 

ちなみに、雇用調整助成金の特例措置を21年末まで延長したのは、この最低賃金導入をサポートするのも大きな理由です。最低賃金がアップしても、それで労働者の解雇や雇用の手控えが起こったのでは、元も子もないからにほかなりません。ただ、企業からすれば、助成金をもらうのはいいけれど、その財源が枯渇しそうだから雇用保険料が値上げされるという、ちょっとやりきれないことになっているのも事実です。

労働者への影響

保険料率の引き上げは、そのぶん給料の天引きが増えるという形で、働く人たちの財布も直撃することになります。とはいえ、コロナの先が見通せない中で、セーフティネットとしての雇用保険の健全化を図ることは、重要です。まず、そのことを確認しておきましょう。

 

ただし、懸念もあります。今も述べたように、最低賃金上昇とのダブルパンチが経営に影響すれば、そのしわ寄せが、労働者に及ぶ可能性が否定できないのです。例えば、「合理化」や新規採用の中止により、1人当たりの仕事量が増える、といった事態が起こるかもしれません。保険料の引き上げに際しては、そうした労働条件面でのデメリットも念頭に置く必要がありそうです。

まとめ

22年度から、雇用保険の保険料率が引き上げられることになりそうです。具体的な内容は、これからの議論に委ねられますが、引き上げ幅が大きい場合には、会社経営に影響を与える可能性があります。

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