札幌市への本店移転で法人の税金が得する?地方拠点強化税制について解説

[取材/文責]阿部正仁

政府は札幌市への本店移転をバックアップする政策を採り、税制面では地方拠点強化税制が該当します。一人当たり雇用者が増加すると最大90万円の税額控除が受けられます。しかし、事前手続きが必要です。そこで、地方拠点強化税制を中心に札幌市へ本店移転をするケースについて解説します。

地方拠点強化税制のアウトライン

地方拠点強化税制の適用を受けると、節税効果は抜群です。それでは、詳しく見ていきましょう。

優遇税制の概要

地方拠点強化税制の優遇税制はオフィス減税雇用促進税制に大別できます。

(1)オフィス減税

特定業務施設に該当する建物・建物附属設備・構築物を取得した場合に次の優遇税制のいずれかを選択し、適用することができます。なお、優遇税制の対象設備の金額は中小企業者なら取得価額1,000万円以上、大企業など中小企業者以外なら取得価額2,000万円以上になります。

1.特別償却

特別償却とは経費を前倒しで計上する制度であり、償却割合は次の通りです。

  • 拡充型(本社機能の拡充):取得価額×15%
  • 移転型(東京23区からの本店移転):取得価額×25%
2.税額控除

税額控除とは法人税から直接控除する制度であり、控除割合は次の通りです。

  • 拡充型:取得価額×4%
  • 移転型:取得価額×7%

 

中小企業者とは、「資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人」または「資本または出資を有しない法人(一般社団法人など)のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人」のことを指します。

(2)雇用促進税制

特定業務施設において雇用者数を2人以上(有期雇用またはパートタイムの新規雇用者を除く)増加させた場合に税額控除が適用できる制度です。雇用者増加数に対する税額控除額は次の金額の合計額になります。

1.拡充型
  一人当たりの税額控除額
法人全体の雇用者増加率が8%以上 法人全体の雇用者増加率が8%未満
フルタイムの正規雇用者(無期雇用) 60万円 30万円
新規雇用者のうち有期雇用またはフルタイム以外の非正規雇用者(特定業務施設における新規雇用者数の4割が上限 ) 50万円 20万円

 

特定業務施設における雇用者増加数から新規雇用者数を差し引いた人数 50万円 20万円
2.移転型
  一人当たりの税額控除額
移転1年目 移転2年目 移転3年目
上記1の拡充型と同じ支援措置 最大60万円
移転型の上乗せ部分(東京23区からの

移転者を含む、特定業務施設における増加雇用者)

30万円 30万円 30万円

 

たとえば、東京23区から移転して3年以上継続すれば、一人当たりの税額控除額は「拡充型60万円+移転1年目30万円+移転2年目30万円+移転3年目30万円=最大150万円」になります。

 

また、北海道の優遇税制は次の通りです。

(3)不動産取得税

拡充型は10分の1に減税、移転型は非課税です。

(4)事業税・固定資産税

  事業税 固定資産税
拡充型 移転型 拡充型 移転型
1年目 2分の1に減税 10分の1に減税 非課税
2年目 4分の3に減税 3分の1に減税 4分の1に減税
3年目 8分の7に減税 3分の2に減税 2分の1に減税

地方拠点強化税制の適用事例

地方拠点強化税制の適用事例について紹介します。

(1)拡充型

  • 札幌市など地方に本社を置く企業の本社の増築
  • 地方の主力工場に研究所を併設する

(2)移転型

  • 東京23区の本社から地方に新社屋などを建設する
  • 東京の主力工と研究所を地方に移転する

拡充型と移転型の適用要件

地方拠点強化税制の特定業務施設とは本社機能を指し、必ずしも登記上の本店である必要はなく、拡充型と移転型の適用要件は次の通りです。

(1)拡充型

対象地域に本社機能を拡大させることが適用要件になります。

(2)移転型

東京23区から対象地域に本社機能を移転させることが適用要件になります。

対象地域とは、次の地区以外の地域のことを指します。

(出典:立地.net)

 

また、本社機能とは、次の機能のことを指します。

  • 事務所:調査企画部門、情報管理部門など全社的または複数の事業者に対する管理業務部門
  • 研究所:研究開発において重要な役割を担うもの
  • 研修所:人材育成において重要な役割を担うもの

オフィス減税と雇用促進税制の手続き方法は?

オフィス減税と雇用促進税制を受けるためには次の事前手続きが必要です。

(1)オフィス減税

地方活力向上地域特定業務施設整備計画(以下、特定業務施設整備計画)を申請し、認定を受けることが必要です。

(2)雇用促進税制

特定業務施設整備後の認定を受けた後、2ヵ月以内に、雇用促進計画を作成する必要があります。

地方拠点強化税制の手続き方法について解説

地方拠点強化税制の手続きについて解説します。

特定業務施設整備計画

特定業務施設整備計画の申請・認定の流れは次の通りです。

(1)該当する都道府県の知事に申請する

札幌市に本社機能を拡大・移転する場合は北海道知事に申請します。その際、次の添付書類が必要です。
 

  • 定款および登記事項証明書
  • 貸借対照表、損益計算書および財産目録
  • 常時雇用する従業員数を証する書類 など

(2)都道府県知事から認定を受ける

(3)整備計画の実施状況を都道府県知事に報告する

雇用促進計画

雇用促進計画を作成し、確定申告書に添付するまでの流れは次の通りです。

  • 事前に都道府県知事から特定業務施設整備計画の認定を受ける
  • 上記1.の認定後、2ヵ月以内に雇用促進計画を作成し、ハローワークに提出する
  • 適用年度終了後2ヵ月以内(通常は確定申告書の提出期限)に雇用促進計画の達成状況の確認をハローワークに求める
  • 上記3.で確認を受けた雇用促進計画の写しを確定申告書に添付し、税務署に申告する

日本政策金融公庫から低金利で融資が受けられる

地方に本店移転を実施すると、日本政策金融公庫から低金利で融資が受けられる「地域活性化・雇用促進資金」という制度が存在します。

低金利の条件

地域活性化・雇用促進資金の受付窓口は「国民生活事業」「中小企業事業」があり、それぞれの条件は次の通りです。

(1)国民生活事業

融資後おおむね1年以内に、次の条件を満たす法人が対象になります。
 

  • 本社を東京23区から地方に移転する
  • 店舗・事務所、工場などを地方に新設または増設する

 
ただし、融資の対象企業は地方で35歳未満の従業員を次の人数以上、新規雇用する場合に限ります。
 

  • 従業員10名以下の法人:1名以上
  • 従業員11名以上20名以下の法人2名以上
  • 従業員21名以上の法人:3名以上

 
なお、地方とは、「仙台市、東京(23区)、名古屋市、大阪市および福岡市」以外の地域のことを指します。

(2)中小企業事業

特定業務施設整備計画の認定を受けた法人のうち、特定業務施設において増加見込みの従業員数が5人以上に限ります。

適用利率

「国民生活事業」と「中小企業事業」で優遇される利率は次の通りです。

(1)国民生活事業

最も高利率である基準利率の代わりに特別利率Aが適用されます。たとえば、担保不要の融資の場合、基準利率は「年2.06%~2.45%」に対し、特別利率Aは「年1.66%~2.05%」です。

(2)中小企業事業

2億7,000万円までの設備資金(設備投資に対する融資)の利率は基準利率の代わりに特別利率③が適用されます。たとえば、返済期間が5年以内の場合、基準利率は「年1.11%」に対し、特別利率③は「年0.30%」です。

札幌市・北海道で受けられる補助金

札幌市に本社機能を移転すると、市内および北海道から補助金が受けられます。

札幌市,本社機能移転促進補助金

札幌市に本社機能を移転した場合、次の金額の本社機能移転促進補助金が受けられます。

(1)人件費

  • 新規雇用または異動の正社員:1人当たり50万円/年度
  • 新規雇用をした無期雇用の契約社員、派遣社員、パートなど:1人当たり10万円/年度(障がい者は50万円)

(2)開設費

  • 工事費、事務機器購入費、採用費の2分の1

札幌市,コールセンター・バックオフィス立地促進補助金

本社機能移転促進補助金に該当しなくも、札幌市内に「受信業務を行うインバウンド・コールセンター」「事務管理業務などの内部事務などを行う事業所(バックオフィス)」「特例子会社」を新設・増設した場合、次の金額のコールセンター・バックオフィス立地促進補助金が受けられます。

(1)新設

  • 新規雇用の正社員:1人当たり50万円/年度
  • 新規雇用をした無期雇用の契約社員、派遣社員、パートなど:1人当たり10万円/年度(障がい者は50万円)

(2)増設

  • 新規雇用の正社員:1人当たり25万円/年度
  • 新規雇用をした無期雇用の契約社員、派遣社員、パートなどの障がい者:1人当たり25万円/年度

北海道,本社機能等移転促進事業費補助金

札幌市に本社機能を移転させると、「1年間の賃料×2分の1」の本社機能等移転促進事業費補助金が受けられます。

まとめ

今回は札幌市に本社機能を移転させたケースを例に地方拠点強化税制など優遇税制や他の優遇措置について見てきました。他の地方都市に本社機能の移転を検討するときは、事前に地方拠点強化税制や他の優遇措置について調べることをおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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