個人事業主の方は転居時に注意?振替納税活用のコツ
振替納税とは、口座引落としによって国税を納付する方法です。自動的に行われるため便利ですが、個人事業主の方は転居等により再手続きが必要になる場合があり、注意が必要となります。この記事では、振替納税について詳しく説明していきます。
振替納税とは
振替納税とは、「振替」という言葉に混乱される方もいるかもしれませんが、特定の税金について、銀行などの金融機関の自分の口座から自動的に納税ができる仕組みのことです。つまり国税庁の表現を用いれば、電気代やガス代といった公共料金の自動振替と同様の制度と言えます。この方法を採ると、特定の税金の納期を遅らせられるという側面があり、また国税庁でも利用を呼び掛けていることもあって、現在積極的に導入する方が増えています。
概要
振替納税は、通常の現金での納付やオンラインでの納付と並ぶ国税の納税方法ですが、切り替え時には届出が必要です。ひと度切り替えれば、再度届け出ない限りは納期毎に自動的に税金が引き落とされ続けるため、納税の度に手続きをする手間が省けることになります。なお、振替納税の利用にあたって手数料はかかりません。
そして先述のように、振替納税を利用すれば納期を遅らせることができ、延期の期間は税金の種類と年度により異なります。税金の納付期限を遅らせる方法には、この他にも延納の制度があります。これは、対象の税金について一定額以上を期限までに納付し、その残額は利子を払う代わりに納期を先送りする制度です。これに対して、振替納税による納期の延長には、延期期間が短いかわりに利子や前払いが必要ないという利点があります。
振替納税が利用できる税金の種類
振替納税ができる税金は、次の2種類に大別されます。
- 申告所得税および復興特別所得税
所得税は区分によって申告所得税と源泉所得税があり、一般に所得税と呼ばれるものは申告所得税を指します。またこれに加えて、2037年度までは復興特別所得税が自動的に加算されます。申告所得税は、稼ぎのある個人がその年の所得を基に算出して申告するもので、源泉所得税は、個人に対して給与等の金銭を支払う側(源泉)が、支払う際に所得税分を差し引き(源泉徴収)、本人に代わって納税するものです。
振替納税による納付が可能なのは、本人が申告を行う申告所得税および復興特別所得税で、期限内に申告された確定申告(3期)分、延納分、予定納税(1、2期)分に限られます。 - 消費税および地方消費税
実は地方消費税は消費税の一部であり、あらかじめ消費税に含まれています。現在消費税は8%ですが、この内3%が国税として扱われ、残りの1.7%が地方消費税とされています。期限内に申告された確定申告分と中間申告分について、振替納税による納付が可能です。
転居に注意!
ひと度届け出を提出すれば以後は手続きが不要な振替納税ですが、転居の際には注意が必要です。
振替納税の前提
- 納税地は基本的に住所地になる
振替納税の際、基本として納税先は住所のある場所を管轄する税務署長になります。これは確定申告書の納税地に基づいています。 - 国内に住所地が無い場合は国内の居住地が納税地になる
居住地とは、住所地ほどは結びつきが強くなく生活の本拠とまでは言えないものの、相当期間に渡って居住している場所を指します。 - 納税地の特例がある
税務署に届け出を提出すれば、国内に住所地と居住地がある場合は居住地の所在地に、あるいは、国内に住所地と居住地のどちらかがあり、それとは別に事務所等もある場合は事務所等の所在地に、それぞれ納税地を変更することができます。
必要になる手続き
転居に際して納税地を変更するには、消費税と所得税のどちらについても、「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を、転居前の納税地を管轄する税務署に遅滞なく提出します。加えて、場合によっては都道府県税事務所、社会保険事務所、労働基準監督署等にも届け出が必要になるため、各行政機関に問い合わせる必要があります。
この際、転居後も引き続き振替納税を希望する場合は、転居後の納税地を管轄する税務署に「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」を提出し、振替納税の手続きをやり直さなければなりません。上記の納税地の変更は転居前の税務署に届け出るのに対して、振替納税の手続きは転居後の税務署で行うという点に注意が必要です。前述のように、振替納税は届出の後は自動的に税金が引き落とされるようになりますので、手続きを済ませてしまえば意識に上ることはあまりありません。転居の前後はどうしても慌ただしくなりますので、納税地の変更だけでなく、振替納税の再手続きも忘れずに行いましょう。
申請を怠った場合
もし振替納税の再手続きを忘れるとどうなるのでしょうか。転居前と同じように税金が自動的に引き落とされると思っていても、再び届出をしなければ申告した税金が納付されません。したがってこの場合は延滞とみなされ、納税の期限の翌日から延滞税が発生してしまいます。
延滞税の税額は、完納までの日数に応じて、以下の2種類の計算式を用いて求めます。なお、式中にある特例基準割合とは、その年の前々年の10月から前年の9月までの各月について、銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を1/12した値に、年1%の割合を加算した割合をいいます。
- 納期限までと納期限の翌日から2ヶ月目まで
延滞税額は、「納付すべき本税の額(10,000円未満端数切り捨て)」に「延滞税の割合(「年3%」と「特例基準割合+1%」いずれか低い方の割合)」を掛け、さらに「延滞日数/365」を掛けた額となります。
なお参考までに、2017年1月1日から12月31日まで適用される延滞税の割合は2.7%、2018年1月1日から12月31日までは2.6%です。 - 納期限から2ヶ月を超えた翌日から
延滞税額は、上記の式で求めた2か月目までの分の額と、「納付すべき本税の額(10,000円未満端数切り捨て)」に「延滞税の割合(「年6%」と「特例基準割合+7.3%」いずれか低い方の割合)」を掛け、さらに「2か月を超えた翌日から完納までの日数/365」を掛けた額との合算になります。
なお参考までに、2017年1月1日から年12月31日までに適用される延滞税の割合は9.0%、平成30年1月1日から平成30年12月31日までは8.9%です。
その他の注意すべき点
- 利用できない金融機関がある
インターネット専用銀行等やインターネット支店等の一部の金融機関では、振替納税を取り扱っていない店舗があります。 - 領収書が発行されない
平成29年度1月から領収書の発行が取りやめられました。もし必要な場合は、金融機関か税務署の窓口で現金で納付することになります。 - 口座の残高確認をしておく必要がある
引き落としは自動で行われるため、残高が納税金額に足りなければ、それと気づかないうちに延滞税がかかってしまうことになります。納付期限の前には忘れずにチェックしておく必要があります。
まとめ
振替納税は、個人事業主の方にとっては利用するメリットが非常に大きい制度であると言えます。必要に応じて専門の税理士に相談しつつ、うまく活用して納税に要する手間をうまく省いていきましょう。
慶應大学卒。現、同大学院所属。
大学4年時に公認会計士試験に突破。
自分の知識の定着も兼ねて、会計・財務などに関する知識を解説していきます。
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