「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる」税務行政の将来構想とは?

[取材/文責]マネーイズム編集部

確定申告に必要なデータを自動で取り込み、スマホを数回操作するだけで申告が完了――。例えば、そんな簡便な申告システムの実用化をはじめ、申告や税務に関する各種の申請・届出、「特例」の適用状況の確認などの「デジタル化」を推進し、納税者の利便性を抜本的に向上することなどを柱とする将来構想を、このほど国税庁が公表しました。そこに、どんな未来が描かれているのでしょうか? 概要をまとめました。

DXで税務行政を変革

国税庁は、2021年6月10日、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」を公表しました。デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、「進化するデジタルテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」という考え方で、ビジネスの世界では、新たな製品やサービス、ビジネスモデルの開発、創設に向けた重要な概念に位置付けられています。

 

この考え方を行政にも取り入れ、大幅な効率化を図ろうという動きも具体化してきました。コロナ禍は、日本の行政のIT化がいかに心もとないかをあらためて露呈させましたが、そうした現状の打開に向けて、今年9月にはデジタル庁が新設されることになっています。

 

「税務行政のDX」も、そうした動きに沿ったものです。キーワードは、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」で、その実現に向けた基本的な指針として、国税庁は次の3つを挙げています。

 

  • ①利用者目線の徹底
    デジタルに不慣れな人も含め、多様な利用者の意見に耳を傾けつつ、「すぐ使えて」、「簡単」で、「便利」な行政サービスを提供し、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる」社会を目指す。
  • ②万全なセキュリティの確保
    データの連携や分析に当たっては、納税情報を含む守秘性の高いデータを扱うことから、セキュリティの確保に万全を期す。
  • ③業務改革(BPR)の徹底
    既存の制度や業務を前提にそのデジタル化を図るのではなく、デジタル化の利点を生かしたBPRに取り組む。すべての業務のあり方や職員の働き方を不断に見直すとともに、データの活用により課税・徴収を効率化・高度化し、組織としてのパフォーマンスの最大化を目指す。

マイナンバーを活用

では、「納税者の利便性の向上」について、どのような将来像を持っているのか、みていきましょう。具体的には、次の5つの構想が示されています。

 

【構想1】税務署に行かずにできる「確定申告(納付・還付)」(申告の簡便化)

確定申告に必要なデータ(給与や年金の収入金額、医療費の支払額など)を申告データに自動で取り込むことにより、数回のクリック・タップで申告が完了する仕組みの実現を目指す。

 

〈現状〉

  • 申告に必要な情報を入手・整理(例えば源泉徴収票、生命保険料控除証明書=ほとんどが紙で交付)
  • 申告の相談に税務署へ
  • 申告データを作成するシステム(国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナー」)に必要な事項を個々に入力。還付金振込口座は毎年入力)
  • e-Tax(国税電子申告・納税システム)で申告データを送信

 

〈将来イメージ〉

  • ①マイナポータル(マイナンバーの個人向けサイト)からログインして「確定申告」を選択
  • ②「自動で計算」を選択
  • ③内容を確認し、申告

 

個々の項目や還付金振込口座の入力は不要で、振替納税を利用すれば、納付も自動に行われます。マイナポータルを窓口にしたシステムなので、そこで収集したデータを申告データとして自動的に取り込むことが必要。国税庁は、その仕組みの整備を進めている、としています。

 

【構想2】:税務署に行かずにできる「申請・届出」(申請などの簡便化)

ワンスオンリー(1度提出した情報は、2度提出することは不要とする)を徹底する観点から、申請や届出については、その要否を不断に見直す。そのうえで、必要なものについては、入力事項を最小限にし、数回のクリック・タップで手続が完了する仕組みの実現を目指す。

 

〈現状〉

  • 申請や届出は、個々の手続ごとに様式が定められている
  • オンライン(e-Tax)による場合も、基本的には書面様式を前提としたフォーマットへの入力が必要

 

〈将来イメージ〉

  • ①マイナポータルの「あなたの情報」またはe-Taxのアカウント画面から、必要な手続を選択
  • ②必要な項目をチェックのうえ、「届け出る」などを選択する

 

利用者目線に立ったサービスを提供するため、デジタル庁をはじめとする他省庁とも協働しながら、国税以外の行政手続も含めたワンストップ・サービスの実現を目指す、としています。

 

【構想3】税務署に行かずにできる「特例適用状況の確認等」(自己情報のオンライン確認)

特例適用(青色承認、消費税簡易課税など)や納税(未納税額がない旨など)の状況については、マイナポータルやe-Taxにより確認できる仕組みの実現を目指す。

 

〈現状:納税証明書の例〉
税務署へ→公布請求書を記入・提出→納税証明書の受領→金融機関などに対して証明書を提出(交付請求及び受領は、オンライン=e-Taxでもできる)

 

〈将来イメージ〉
マイナポータルの「あなたの情報」またはe-Taxのアカウント画面上で、過去に提出した申請・届出の状況や納税の状況を確認(e-Taxで送信した申告データは、現状でもその画面で確認可能)

 

【構想4】税務署に行かずにできる「相談」①(チャットボットの充実など)

税務手続に関する不明な点は、オンラインで調べればすぐに解決できるよう、チャットボット(質問内容を入力するとAIを活用して自動で回答を表示するサービス)やタックスアンサー(よくある質問に対する回答=国税庁ホームページに掲載)について、内容の充実や使い勝手の向上を図る。

 

〈現状〉

  • チャットボットは、サービスの運用を開始してから間もないため、対応項目が限定されている
  • タックスアンサーは、税目ごとに分類され、知りたい情報にたどり着きにくい

 

〈将来イメージ〉

  • ①チャットボットは、対応項目を順次拡大する
  • ②タックスアンサーは、現状の課題を踏まえ改善(2022年4月リリース予定)

 

【構想5】税務署に行かずにできる「相談」②(プッシュ型の情報配信)

マイナポータルやe-Taxの「お知らせ」を通じ、申告の要否や適用できる特例など、個々の納税者の状況に応じた情報(カスタマイズ情報)をプッシュ型で提供する仕組みの実現を目指す。

 

〈将来イメージ〉
例えば、国税庁のシステムで不動産売買に関する法定調書情報(※)を入手すると、売却した人に「不動産を売却した場合、所得税の確定申告が必要となる場合があります」という「お知らせ」が通知される→申告が必要かどうかのシミュレーションと連動

 

このほか、例えば地震などの災害があった場合に、「居住地域の税の申告期限が延長されている」「住宅などに損害を受けた場合は、所得税法の雑損控除または災害減免法の適用が受けられる」といった情報提供を行うことなども想定されています。

 

※不動産業者が、誰からどの不動産をいくらで購入したかを記載した調書を税務署に提出する制度がある。

まとめ

税に関する手続きが簡便化され、カスタマイズ情報まで提供される環境を嫌がる納税者はいないでしょう。ただし、デジタル化イコール節税というわけではありません。煩わしい仕事がなくなったぶん、専門家の知恵なども借りながら、より賢い納税ができるような未来を期待したいものです。

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