平成31年度税制改正!研究開発税制の改正内容と留意点を解説
平成31年度の税制改正で研究開発税制が改正されました。研究開発投資の量と質を増加させることが目的とされています。そこで、改正内容とそれに伴う変化や留意点を解説します。
研究開発税制とは
研究開発税制とは、研究開発を行っている企業において、試験研究費の額のうちの一定の割合を法人税額から控除することができるという制度です。すぐにリターンが得られにくい研究開発の費用を国が一部負担することによって、イノベーション創出につながる革新的な研究開発に対して、企業が安心して中長期的に投資できるようになります。このような支援は諸外国でも積極的に行われており、日本の産業の国際競争力を強化するために、分野や業種、規模や時期にかかわらず、幅広く継続的に支援していくことが目指されます。
研究開発税制には、大きく分けて3つの種類があります。
総額型
試験研究費の総額の一定割合を、法人税額から控除することができます。控除上限は、法人税額の25%です。ただし、設立10年以内で欠損金の翌期繰越額があるベンチャー企業は40%になります。
控除額は、「試験研究費の額×控除率(6~14%)」で計算されます。控除率は、条件ごとに以下の通り算出されます。
- 増減試験研究費割合が8%超の場合
9%+(増減試験研究費割合-8%)×0.3(最大14%) - 増減試験研究費割合が約-14%以上8%以下の場合
9%-(8%-増減試験研究費割合)×0.175 - 増減試験研究費割合が約-14%未満の場合
一律6%
中小企業技術基盤強化税制
中小企業に対して、試験研究費の総額の一定割合を法人税額から控除することができます。こちらも控除上限は、法人税額の25%になります。ただし、平均売上金額に占める試験研究費の割合が10%超の場合には、控除上限を最大10%上乗せすることができます。また、中小企業で増減試験研究費割合が8%超の場合には、控除上限を10%上乗せすることができます。
控除額は、「試験研究費の額×控除率(12~17%)」で計算されます。控除率は、以下のように求められます。
- 増減試験研究費割合が8%超の場合
12%+(増減試験研究費割合-8%)×3(最大17%) - 増減試験研究費割合が8%以下の場合
一律12%
オープンイノベーション型
特別研究機関や大学などと共同で行う試験研究に必要な費用や、これらの機関に委託して行う試験研究に必要な費用、または、中小企業に支払う知的財産権の使用料がある場合、その企業が負担した特別試験研究費の一定割合を法人税額から控除することができます。この制度を適用する場合、契約書等に一定の事項を記載することや、相手方による認定・確認等の手続きが必要になります。
控除上限額は、法人税額の10%になります。控除額は、「特別試験研究費の額×各控除率」で計算されます。控除率は、以下のように対象となる相手先によって異なります。
- 共同試験研究・委託試験研究の場合
特別研究機関等や大学等:30%
新事業開拓事業者等:25%
中小企業、他の民間企業等、技術研究組合:20% - 中小企業に対して支払う知的財産権の使用料の場合
一律20%
平成31年度の改正による変化
平成31年度の改正は、企業の研究開発投資の「量」と「質」の向上を目的として行われました。
「量」の向上のために
全種を組み合わせた際の控除上限が、法人税額の40%から45%に引き上げられました。ベンチャー企業の場合は最大60%にまで上ります。特に総額型では、改正前はどのような企業でも控除上限は法人税額の25%でしたが、改正後はベンチャー企業であれば控除上限が法人税額の40%に引き上げられています。
「質」の向上のために
オープンイノベーションや研究開発型ベンチャー企業の成長をより促す制度となりました。オープンイノベーション型において、控除上限が法人税額の5%から10%に引き上げられました。また、その対象も拡大し、研究開発型ベンチャー企業との共同研究の場合は控除率が20%から25%になった他、大企業等への委託研究が新たに対象に加わって、その控除額は20%となっています。
中小企業への特例
中小企業のための特例として、法人住民税の課税標準額が、大企業に比べて小さくなるという措置が取られます。地方税である法人住民税は、国税である法人税額を基に算出されますが、この際、通常は各種税額控除が差し引かれる前の額が用いられます。研究開発税制の控除を受けた場合も、大企業では原則通り、控除前の法人税額が法人住民税の課税標準額となります。これに対し、中小企業であれば、研究開発に係る税額控除を差し引いた法人税額に対して法人住民税が課されます。
留意点
対象となる製品、技術
各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される「製品の製造」または「技術の改良、考案若しくは発明」にかかる試験研究のために要する費用のうち、
- その試験研究を行うために必要な原材料費、人件費(ただし、専門的知識を持っており、その試験研究の業務に従事する者に関する費用に限定)、経費
- 試験研究を委託する時に、その委託を請け負う人に対して支払う費用
- 技術研究組合に対する費用
が対象になります。ただし、受託研究の対価や補助金など、他から試験研究のために支払われた金額は試験研究費の額からは除外されます。
なお、この対象となる製品や技術の範囲は、工学的・自然科学的な基礎研究、応用研究、また開発・工業化等に関わるものに限られます。必ずしも新製品や新技術に限定されるものではなく、生産中の製品の製造や既存の技術の改良などのための試験研究も対象となります。ただし、人文・社会科学関係の研究は対象となりません。
対象となるサービス
各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される、「対価を得て提供する新たな役務の開発」で所定のプロセスを経て行われるものに係る試験研究のために要する費用のうち、
- その試験研究を行うのに必要な原材料費、人件費(ただし、専門的知識を持っており、その試験研究の業務に従事する者に関する費用に限定)、経費(ただし、外注費については、外注先での原材料費、人件費、外注費以外の経費に相当する部分のみ)
- 試験研究を委託する時に、その委託を請け負う人に対して支払う費用(ただし、上記項目に相当する部分のみ)
が対象になります。
なお、サービス開発に係る人件費については、情報の解析に必要な確率論および統計学に関する知識ならびに情報処理に関して必要な知識を有すると認められる情報解析専門家であり、その専門的な知識を使ってサービス開発の試験研究業務に従事する者を対象としています。
適用対象となるサービス開発の事例として、以下のようなものがあります。
- 地域を自然災害から守るサービスの開発
ドローンを使って収集した画像データや気象データなどを組み合わせて分析することで、より精緻でリアルタイムな自然災害予測を知らせてくれるサービスの開発 - 農業を支援するサービス
センサーで収集した農作物、土壌、気象などに関するデータを分析し、最適な農作業を支援する情報を農家に対して配信するサービスの開発
その他利用にあたっての注意点
その事業年度または前3年以内に開始した各事業年度に組織再編(合併、分割、現物出資、現物分配)があった場合、比較試験研究費の額を計算する時に、前3年以内に開始した各事業年度において損金に算入された試験研究費の額に調整が必要となる場合があります。
まとめ
研究開発の量や質を高めることで日本企業の国際競争力を強化するために、平成31年度に研究開発税制が改正されました。研究開発に力を入れている企業は、この制度をうまく活用し、改正後の変化に注意しながら効果的に節税を行いましょう。
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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