事業承継のハードル軽減?平成29年度税制見直しを解説

[取材/文責]細井山豊

会社の経営を後継者にバトンタッチする事業承継ですが、事業承継を支援するための税制が見直されることを知っていますか?
平成29年度からの税制改正の背景、改正ポイントについて解説していきます。

取引相場のない株式の評価方法に関する見直し

会社を事業承継する際、会社の株評価額をできる限り下げれば、発生する贈与税や相続税を軽減することが可能です。取引相場のない株式を持つ会社であれば、相続・贈与の際の株式の評価方法として類似業種比準方法を用いるのがおすすめです。この方法は、業種が類似した取引相場のある株価を基準として、その株式を評価するというものです。そのため、景気が下がる局面においては、取引相場のない株式の評価額も下がり、事業承継のチャンスとなります。

類似業種比準方式では、「配当」、「利益」、「簿価純資産」の3つの比準要素を比較します。その計算式は以下の通りでした。

しかしこの方法では、上場企業のグローバル連結経営の進展や株価の急激な変動に伴って、中小企業の評価額が大きく変動しまう問題が指摘されており、平成28年の税制改正において見直しのが検討がされていました。
それを受け、平成29年1月1日以降に取得した財産の評価において、以下の4つの改正ポイントが適用されることとなりました。

改正ポイント1 : 類似業種の株価

今まで類似業種の株価としては、1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、前年平均が用いられてきました。ここで上場企業の株価の急激な変動に備え、「前2年間平均」が追加され、選択可能となりました。これを選択することで、上場企業の株価変動が中小企業の評価に与える影響は小さくなります。

改正ポイント2 : 比準要素のウェイト

今までの配当、利益、簿価純資産は、1:3:1で計算されてきましたが、今回の改正で1:1:1に変更されることとなりました。この改正によって、利益が価額に与える影響は「5分の3」から「3分の1」に小さくなります。業績の良い企業の負担を軽減するとともに、簿価純資産の比率が大きくなることで、社歴が長く純資産を多く持つような会社は、評価が上がる可能性があります。

改正ポイント3 : 比準要素の数字見直し

昨今日本企業のグローバル展開が広がっており、海外子会社を含めたグループ全体の評価をすることが求められています。それを受け、算出に用いる比準要素について、企業グループ全体を含めた連結会計上の数字を用いるよう見直されました。

改正ポイント4 : 会社規模の判定

取引相場の株式の評価方法の1つに、類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式があります。これを採用する場合、以下の算定式によって株価が計算されます。

今回の改正により、評価会社の規模の判定において、大会社と中会社の範囲が拡大されることになりました。併用方式を採用している場合、より大きい会社と判定されLが大きくなることで、類似業種比準価額の割合が上昇し、株価が下がる可能性があります。

事業承継税制の見直し

事業承継税制とは、一定の条件を満たした非上場の中小企業が株式を相続・贈与した場合、相続税・贈与税の納税が猶予される制度のことをいいます。
中小企業経営者の高齢化が深刻化する中、事業承継を円滑化することは至上命題です。しかし、事業承継を支援するこの税制には、満たすべき要件などにおいて高いハードルがあることが課題でした。そこで、平成29年1月1日以降に相続・贈与により取得する財産への課税に対して、2つの改正ポイントが適用されることとなりました。

改正ポイント1 : 人手不足への対応

従来、納税猶予を受けるために満たすべき要件として、5年平均で雇用の8割を維持すべきとされてきました。しかし、特に小規模事業者にとって、深刻な人手不足の中、この要件を満たすことが困難となっていました。
そこで以下の2つのポイントにおいて、要件が緩和されることとなりました。

小規模事業者に対する緩和

特に人手不足の影響を受けやすい、従業員数5人以下の企業に対して適用されます。以前まで、雇用8割の計算を端数切り上げて行っていたことから、5人→4人となることは認められるものの、4人以下の場合は1人も欠かすことができませんでした。
今回の改正で、計算を端数切り捨てとしたことで、従業員数2〜5人全てにおいて、従業員数が1人減ることでも要件を満たすこととなりました。

セーフティーネット措置

以前までは、災害や取引先の倒産といった非常事態においても、雇用要件を満たさなければならかったことが税制利用の足かせとなっていました。
今回の改正で、災害による被害を受けた場合、雇用要件を免除、取引先倒産などによる売上高の減少に対しては、減少割合に応じた要件の緩和が適用されることとなりました。

改正ポイント2 : 生前贈与の促進

相続時精算課税制度との併用

贈与税の納税猶予を受けている際、途中で認定が取り消されると、相続税より高額な贈与税を負担しなければならないリスクがありました。
これに対して、相続時精算課税という制度と併用することで、認定取消時の贈与税を相続税と同額とすることができるようになりました。本来贈与税の税率は最大55%であったのに対し、相続時精算課税を適用すると2500万円以上の贈与には税率を一律20%とすることができます。

先代死亡時要件の廃止

以前まで、事業承継後5年経過した後も、先代死亡時に相続税の猶予へ切り替えるには、中小企業要件や非上場要件を課され、企業の成長を阻害するという課題がありました。
しかし今回の改正で、この2つの先代死亡時の切り替え要件が廃止されることとなりました。

☆ヒント
事業承継は多くの中小企業で課題とされています。しかし今回の税制改正を受けて、中小企業が事業承継を行うハードルが下がることとなりました。
事業承継のタイミングをどうしようか悩んでいる経営者の方も多かれ少なかれいらっしゃると思いますが、事業承継は時間のかかる一大プロジェクトですので、きちんと準備して行うべきでしょう。特に事業承継のボトルネックになっていた相続税・贈与税についても今こそ向き合うべきです。今回の税制改正を機に税理士に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

事業承継は、どの会社にもいずれ必ずやってくるものです。今回のような税制の緩和措置が取られたチャンスを利用して、会社の未来を考えてみませんか。

東京大学卒。現、同大学院所属。
ベンチャー企業の経営やビジネスを学んでおり、経営に役立つ様々な知識やノウハウを習得中。

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