会社の成長に繋がる?キャリアアップ助成金の3つのコース解説

[取材/文責]山本麻衣

キャリアアップ助成金とは、企業内でのキャリアアップを促進させるための制度で、社会貢献という側面で意義のあるものです。うまく利用すれば助成金をもらいつつ、自社の成長のきっかけとなる一石二鳥の制度なので知っておいて損はありません。今回は、平成29年1月時点の最新のキャリアアップ助成金について見ていきましょう。

キャリアアップ助成金とは

制度内容

キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣社員などの非正規労働者に対して、企業内でキャリアアップの促進を目的としての取り組みなどを行った事業主に対して助成をするというものです。

対象:全ての事業主

中小企業とそれ以外の企業では助成される金額が異なりますので、中小企業の定義を確認していきましょう。中小企業は以下の表を満たす会社です。

資本金の額、出資の総額 または 常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

必要書類

・キャリアアップ計画書
・訓練計画届(人材育成コースのみ)
・支給申請書
・その他の添付書類

受給までの流れ

まずは、キャリアアップ計画書を労働局・ハローワークの協力のもと作成し、労働局・ハローワークに提出します。人材育成コース以外は、この後すぐに取り組みを実施します。人材育成コースの場合は、訓練計画届を作成し、労働局・ハローワークに提出し、その後訓練を開始します。最終的に、取り組み・訓練が終了した後に助成金の支給申請をし、支給決定されるという流れになります。

コース紹介

まずは、キャリアアップ助成金制度内で使われる用語を確認していきます。
【有期契約労働者】:期間の定めのある労働契約を結ぶ労働者
【無期契約労働者】:期間の定めのある労働契約を結ぶ労働者のうち正社員以外の者
【多様な正社員】:勤務地限定正社員、勤務地限定正社員および短時間正社員

キャリアアップ助成金には3つのコースがあり、以下に概要を解説していきます。

正社員化コース

概要
有期契約労働者を正規雇用労働者、多様な正社員などに転換または直接雇用したときに助成されます。

助成金額  ()内は中小企業以外
有期契約労働者→正規雇用労働者:60万円(45万円)/人
有期契約労働者→多様な正社員:40万円(30万円)/人
有期契約労働者→無期契約労働者:30万円(22.5万円)/人
無期契約労働者→正規雇用労働者:30万円(22.5万円)/人
無期契約労働者→多様な正社員:10万円(7.5万円)/人
多様な正社員→正規雇用労働者:20万円(15万円)/人
※1年度1事業所15人まで

正社員化コースの特徴は、多様な正規雇用に対応した、きめ細かい助成金制度になっている点です。多様な働き方に対応しているので、状況に応じて柔軟に制度を適用することが可能です。また受給にあたっては、就業規則を変更した上で有期契約労働者を正規雇用化するだけで良いので、手間暇をかけることなく高額な助成金を受給することが可能な点が魅力的です。

人材育成コース

概要
有期契約労働者に次の訓練を行ったときに助成
Ⅰ 一般職業訓練
Ⅱ 有期実習型訓練
Ⅲ 中長期的キャリア形成訓練

助成金額 ()内は中小企業以外
賃金助成:一人800円(500円)/時間
経費助成:以下の通り

Ⅰ、Ⅱの訓練 Ⅲの訓練 Ⅱの後正規雇用に転用された場合
~100時間 10万円(7万円) 15万円(10万円) 15万円(10万円)
100時間~200時間 20万円(15万円) 30万円(20万円) 30万円(20万円)
200時間~ 30万円(20万円) 50万円(30万円) 50万円(30万円)

一般職業訓練とは、事業外の訓練であり、1コースあたりの訓練時間が20時間以上のものを指します。助成の対象となるのが最大1,200時間までなので、長期的な研修で従業員を強化し、戦力化したい場合には有効な方法です。
次に有期実習型訓練とは、Off-JTとOJTを組み合わせ、6ヶ月に換算したとき合計425時間以上になる訓練を指します。訓練時間の内、Off-JTの割合が1割以上9割未満に収まらなければならないなどの細かい指定や、訓練対象の有期契約等労働者は訓練実施前に登録キャリアコンサルタントによりジョブ・カードの交付を受ける必要があるなどの決まりがありますので、助成を受けるにあたってきちんと専門家に相談すると良いでしょう。
また、中長期キャリア形成訓練とは、厚生労働大臣が専門的・実践的な教育訓練として指定した講座(専門実践教育訓練)のことを指します。

処遇改善コース

処遇改善コースには3つの取り組みの種類があります。

賃金規定等改定

概要
有期契約労働者などの基本給の賃金規定を増額、昇給した際に助成

助成金額
▼「すべての有期契約労働者等の賃⾦規定等を2%以上増額改定した場合」
対象労働者数
1人〜3人:10万円(7.5万円)
4人〜6人:20万円(15万円)
7人〜10人:30万円(20万円)
11人〜100人:一人あたり3万円(2万円)

▼「⼀部の賃⾦規定等を2%以上増額改定した場合」
対象労働者数
1人~3人:5万円(3.5万円)
4人~6人:10万円(7.5万円)
7人~10人:15万円(10万円)
11人~100人:一人あたり1.5万円(1万円)

共通処遇推進制度

概要
正規雇用労働者との共通の処遇制度のを導入した際に助成

助成金額
(a)健康診断制度
有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上に実施した場合
1事業所あたり40万円(30万円)   ※1事業所あたり1回のみ

(b)賃金規定等共通化
有期契約労働者等に関して正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を作成し、適用した場合
1事業所あたり60万円(45万円)   ※1事業所あたり1回のみ

短時間労働者の労働時間延長

概要
短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した際に助成

助成金額
▼「短時間労働者の週労働時間を5時間以上延長し新たに社会保険を適用した場合」
20万円(15万円)/人

▼「処遇改善コースの賃金規定等改定とあわせて労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合」
延長時間:金額
1~2時間:4万円(3万円)/人
2~3時間:8万円(6万円)/人
3~4時間:12万円(9万円)/人
4~5時間:16万円(12万円)/人

処遇改善することによって、これまでよりも人を雇いやすくなり、会社を成長させる上で必要な人材を集めやすくなります。また、従業員のモチベーションをアップさせて、仕事が効率化する効果も期待できます。

☆ヒント
これまで紹介してきたキャリアアップ支援金ですが、まだ成長段階で、制度改正がとても多くなされている分野です。インターネットのサイトにも改正前の情報と改正後の情報が混在しているものも多く、正しい情報を日々追っていかないといけない状況です。
助成金を受け取るためにキャリアアップコースを実施するのは本末転倒ですが、会社の資金繰りや成長段階を俯瞰的に見ることができ、実施コスト・受けられる助成金などを総合的に判断してアドバイスをくれる税理士や社労士はとても重要な位置づけになってきます。

まとめ

社員のキャリアアップは会社の底上げに繋がり、会社の成長に直結するもので、さらにそれによって助成金ももらえるとは一挙両得なとてもおいしい話です。しかし、実施にあたって必要な準備や、実施コストなども同時に考えなければならず、資金繰りとの兼ね合いも重要なポイントです。そのため、税理士や社労士と相談をして計画性を持って検討するべきでしょう。

東京大学卒。現、同大学院所属。
学生起業、海外企業のインターンなどの経験を経て、外資系のコンサルティング会社に内定。
自分の起業の経験などを踏まえてノウハウなどを解説していきます。

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