国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直し【平成29年度税制改正】
平成29年度の税制改正において、租税回避の抑制のため、特に外国に財産を所有している場合の相続税・贈与税の課税範囲に変更があり、平成29年4月1日より適用されました。
これによって従来用いられてきた、海外に移住することでの相続税の節税が困難になるため、この機会に制度を再確認する必要があります。
今回の記事では、税制改正の概要、またその他の相続税の節税対策まで解説していきます。
制度改正の概要
日本国籍を持っている場合
・改正前
海外に居住していて日本に住所がない人は、基本的に日本国内にある財産のみが課税対象でした。一方、相続人または被相続人が被相続人の死亡日前5年以内に日本の住所を持っていると、日本国外にある財産も対象となっていました。
・改正後
今回の税制改正により、5年間の範囲が10年間に延長されました。5年から10年に変わったことで、昨年までは非課税であった海外の財産も今年からは相続税の課税対象となる場合があります。
短期滞在の外国人の場合
・改正前
一定の在留資格を有し一時的に日本の住所を持つ外国人同士の相続は、国内外財産がともに課税対象でした。
また、これまでは日本に住所も国籍も持たない外国人が国内に住所を持たない者から相続を受けた場合、国内財産のみが課税の対象とみなされていました。
・改正後
過去15年の間に、国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の外国人を短期滞在の外国人と定め、彼ら同士の相続における課税対象を国内財産のみに変更しました。
また、相続人または被相続人が相続開始前10年以内に国内に住所を有している者であった場合には、国内外財産が課税対象となりました。
制度改正のねらい
課税の強化
従来の税制においては、5年間以上海外に移住することで、日本国外に持ち出した財産にかかる相続税を節税することが可能でしたが、本税制改正によって、この期間が5年から10年に変更され、節税のハードルが引き上げられ、租税回避を抑制させる効果が期待されます。
また外国人に関して、相続開始前10年以内に国内に住所を有していた被相続人からの相続等を受けた場合について、国内外財産を課税対象にすることによって、納税義務の範囲を強化する狙いが見受けられます。
課税対象緩和による、外国人受け入れ体制の強化
これまでは短期滞在を考える外国人にとって、日本における相続の際に自国の財産までも課税対象となっていたため、有能な外国人の働き手が日本で働くことを敬遠する傾向がありました。
しかし今回の制度改正によってその点が緩和されたため、経済のグローバル化に伴って増加する外国人就労者が働きやすい体制を構築し、相続税を理由に外国人就労者が流出してしまう可能性を防ぐ効果が期待されます。
要約すると、短期滞在外国人の納税義務を緩和し日本における外国人就労数を増やす一方で、海外に在住する日本人の納税義務をより強化する形となりました。
相続税の節税対策を講じる必要のある人は、詳しく見直す必要があるでしょう。
そもそも相続税の節税とは
相続税の節税を見直すにあたって、いくつかある節税方法の特徴をそれぞれ把握する必要があります。海外に移住する方法もそのうちの1つでしたが、その他の方法にも注意点があるので主なものを紹介していきます。
アパート購入
財産をそのまま現金として所有しているよりも、賃家として所有している場合の方が、相続税評価額は約3割減少し、相続税額もそれに応じて少なくなるという方法があります。
養子縁組の利用
相続人が1人増えると、相続税のうち減額される部分にあたる基礎控除額が拡大し、総額として600万円の節税効果があります。しかし被相続人に実の子どもがいる場合養子の数は1人まで、実の子どもがいない場合も2人までと定められているので、知っておく必要があります。
また、過度な相続税対策は家族内のトラブルに発展する可能性もあるため、税理士や家族ときちんと話し合って対策を進めることが重要となってきます。
住宅取得資金贈与を利用
住宅を購入する資金を子や孫に贈与する場合、最大1,200万円まで非課税になります。
適用要件は、平成33年12月31日までに契約した住宅取得に限られ、また対象の住宅は範囲が細かいことから、税理士や不動産会社と話し合って慎重に進める必要があります。
生命保険の利用
相続の際に保険金を受け取ると、税法上は相続財産とみなされ課税対象となります。しかし「法定相続人の人数×500万円」は非課税です。
生命保険には「終身保険」や「養老保険」など、支払った保険料のうちほぼ100%戻ってくるものもあります。支払った保険料がそのまま戻ってきて、かつ節税になるので、貯蓄型の生命保険は非常にお得になります。
このような事態に陥らないためにも、税制や節税対策に精通した税理士を相談し、適切な節税対策を考えていく必要があるでしょう。
まとめ
今回は国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直しについてと、相続税の節税について紹介しました。制度の改正によりもう一度相続に関して見直す必要が生じてきました。
その際、税のプロである税理士に気軽に相談できると無駄なくスムーズに対応することが可能です。今一度この機会に相続税について見直してみてはいかがでしょうか。
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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