5年連続で上昇も、新型コロナで減額修正か?今年の相続に影響しそうな土地の「路線価」って?

[取材/文責]マネーイズム編集部

さきごろ国税庁が、相続税や贈与税の算定基準となる2020年分の路線価(1月1日時点)を発表しました。それによると、全国平均では前年を1.6%上回り、5年連続の上昇となったそうです。ところで、そもそもこの「路線価」とは、どういうものなのでしょうか? 「今年は、新型コロナ感染症の影響で、今後価額が見直される可能性がある」とも報じられていますが、それが相続や贈与に与える影響は? わかりやすく解説します。

相続税や贈与税の土地の評価には、2つの方式がある

相続や贈与で土地などの不動産を譲られるとき、それがいくらでカウント(評価)されるのかは、大きな問題です。当然のことながら、高ければ高いほど、相続税や贈与税も高額になるからです。

 

こうした相続などにおける土地の評価について、税法では「時価」で評価することになっています。しかし、そもそも「時価」の概念が曖昧なうえ、土地の価格を納税者自らが調べるのは、簡単なことではありません。不動産鑑定士に依頼すれば、場合によっては数十万円の鑑定料を請求されることになるでしょう。

 

そこで、相続税などの申告の便宜及び課税の公平を図る観点から、国税局(所)によって毎年公開されているのが、全国の民有地の土地評価額の基準となる「路線価」及び「評価倍率」と呼ばれる指標です。相続や贈与の際の土地の評価額には、このどちらか(選択はできません)を当てはめればOK、ということになっているのです。

 

それぞれについて、簡単に説明しましょう。

◆路線価方式

その名の通り、「路線」=道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことです。路線ごとに決められ、実際の土地の評価額は、これに面積と補正率(例えば、同じ面積でも形がいびつで使い勝手の悪い土地は、割安になる)を掛けて算出されます。

 

路線価は、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格(※1)の80%程度をめどに算定され、7月1日に公表されることになっています。通常、実際の取引価格などよりも低く設定されることになります。

◆倍率方式

路線価の定められていない人口が少ない地域、田畑、山林、原野などの評価額は、その土地の固定資産税評価額に、一定の倍率を掛けて算出します。倍率は、宅地、田、畑といった土地の現況に応じて変わります。

 

※1公示価格 国土交通省が発表する1月1日時点の土地価格。都市計画区域のある標準的な土地について、不動産鑑定士の鑑定、最新の取引事例などを分析して評価し、算出された数値に調整を加えたもの。公共用地の取得や金融機関の担保評価などに活用される。

新型コロナで想定される「不都合」とは?

さて、例年通り7月1日に発表された今年の路線価は、全国平均で前年比1.6%アップとなりました。昨年の伸び率1.3%をも上回る勢いだったわけですが、この評価額は、今も説明したように今年1月1日時点のもの。社会、経済的には“Beforeコロナ”の時期でした。

 

こうした路線価アップの大きな理由が、インバウンドの増加などを背景にした景気の上昇だったことは、東京都内で上昇率の最も高かったのが台東区浅草の雷門通りだったことを見ても明らかでしょう。ところが、その後の新型コロナ感染症の世界的な拡大により、状況はガラリと変わってしまいました。その「負の影響」が、発表された路線価には反映されていません。

 

コロナ禍の顕在化以降、あらゆる経済指標が、かつてないほど悪化しました。上場企業などによる不動産売買額(公表ベース)も今年4月以降急減し、5月は約500億円と、前年同月比で87%減となりました(6月24日付「日本経済新聞電子版」)。当然想定されるのは、その結果、「地価」が大幅に下落する、というシナリオです。そうなった場合、土地が絡んだ今年の相続や贈与は、大きな不利を強いられる可能性があります。

 

路線価は、その年に亡くなった人の相続税、その年に贈与を受けた人の贈与税の計算のベースになります。“Beforeコロナ”の指標、すなわち直近のピーク時の価格を基に算定されると、実際には土地の価格が大きく下落しているにもかかわらず、結果的に割高な税金を支払わなくてはならなくなるからです。

秋以降、路線価「見直し」の可能性が そうなると相続税は?

さすがにそれでは、「税の公平性」に疑問符が付いてしまいます。そこで国税庁は、今年の路線価について、「今後、国土交通省が発表する都道府県地価調査(7月1日時点の地価を例年9月頃に公開)の状況などにより、広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合などには、納税者の皆様の申告の便宜を図る方法を幅広く検討いたします。」(「令和2年分の路線価等について」)という方針を明らかにしました。

 

「都道府県実地調査」は、地方自治体が調査主体となって7月1日時点の全国2万ヵ所以上の基準地を対象に行われ、ここで発表される数値は「基準地価」と呼ばれます。

 

各種報道などによれば、この基準地価が新型コロナの影響で、広範囲かつ大幅に下落した場合、その地域の路線価を減額修正できる措置の導入を検討しているとのこと。地価がどの程度下落したら減額修正の措置を取るのか、などの細部は、今後詰めていくということです。通常、その年の相続税などには、すべて同じ路線価が用いられますが、コロナの影響度合いを見極めたうえ、期間や地域を区切って補正を行うことなども検討されているもようです。

 

相続の場合、税の申告期限は、相続発生後10ヵ月以内とされています。今年の初めごろに亡くなった人に関しては、補正の方針が定まる前に申告期限を迎えることになるかもしれません。ただ、仮に申告後に路線価の減額が決定された場合にも、更正の請求(※2)などで対応できる、という見方が有力です。

 

とはいえ、コロナの今後の影響も含めて、状況はまだ流動的です。今年、土地の相続、贈与に関連した(その可能性がある)人は、9月に公表される基準地価をはじめ、今後の情報に注意してください。

 

※2更正の請求
税金を払い過ぎた場合、法定申告期限から5年以内ならば、税務署に対して還付請求ができる。

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まとめ

新型コロナの影響で、秋以降に路線価の減額修正が行われる可能性が出てきました。土地については、「平時」の相続や贈与でも問題が生じやすいのですが、今年はさらに気を配る必要がありそうです。今後の情報を注視するとともに、必要に応じて不動産に詳しい税理士などの専門家にアドバイスを仰ぐようにしましょう。

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