NISA、iDeCoを運用していた人が亡くなったその資産はどうなるのか?

[取材/文責]マネーイズム編集部

政府が「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、2024年からはNISA(少額投資非課税制度)が新制度に移行します。老後の資産形成を目的とした投資熱は高まっていますが、もしNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)で資産運用をしていた人が亡くなった場合、その資産はどうなるのでしょうか? それぞれについて解説します。

NISAを運用していた人が亡くなった場合=「課税口座」で引き継ぐ

NISAとは

株式や投資信託などの金融商品を購入し、運用することで得た利益や配当金には、通常約20%の税金がかかります。NISAは、「NISA口座」で金融商品を購入し運用することで、そこで得た利益は、一定期間、非課税にできるという国の制度です。

2014年から始まったNISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類があります(つみたてNISAは2018年1月、ジュニアNISAは2016年4月から開始)。

さらに利用を促すことを目的に、2024年1月から、現行の「一般NISA」に替わって「新しいNISA」が導入されるなど、新たな制度がスタートします。

新制度については、「2024年NISAの新制度スタート!現行との違いやメリデメを解説」をご覧ください。

NISAの相続に必要な手続き

人が亡くなると、相続が発生します。被相続人(亡くなった人)の財産を、遺言書で指定された人や法定相続人が受け継ぐわけですが、その財産には、被相続人の残した現預金や不動産などとともに、株式をはじめとする有価証券も含まれます。NISAは株式や投資信託などで運用しますから、相続の対象となる財産です。

ただし、被相続人の保有する株式などをそのまま売却・現金化することはできず、通常の証券口座と同様の相続手続きが必要となります。NISAで資産運用を行う人は、金融機関にNISA口座(非課税口座)を持っています。その人が亡くなった場合には、相続人はNISA口座のある金融機関に「非課税口座開設者死亡届」などの書類を提出したうえで必要に応じて新たな口座を開設し、資産を引き継ぐことになるのです。

「非課税」で引き継ぐことはできない

その際、注意すべきことがあります。

■「課税口座」で引き継ぐ

被相続人の資産を、そのまま「非課税」で引き継ぐことはできません。たとえ相続人がNISA口座を持っていたとしても、そこに組み入れることは“不可”です。相続人の課税口座(特定口座※または一般口座)で引き継ぐことになります。

■同じ金融機関の口座で引き継ぐ

また、その課税口座は、被相続人のNISA口座があった金融機関のものでなければなりません。もし、相続人がその金融機関に口座を持っていない場合には、新たに開設する必要があります。

※特定口座:上場株式等の譲渡益に対する所得税、住民税の納税を簡易な納税申告手続きで完了することができる制度。特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があり、源泉徴収ありを選択した場合には、金融機関が所得税・住民税を源泉徴収し、代行して納付するため、原則確定申告が不要となる。

これまでの利益、損失はどうなる?

相続が発生した時点で、いったん被相続人のNISA口座の資産はすべて払い出され、解約されたものとみなされます。相続人の取得価格は、相続発生日の時価(終値)となります。

被相続人の運用の結果、利益が出ていても、逆に損失を被っていても、この相続人の取得価格や課税関係に違いはありません。例えば、含み益があったとしても、引き継いだ相続人に課税されるということはないのです。

ただし、株式などを課税口座に移した後の運用益や配当・分配金については、通常通り課税対象となります。仮に、引き継いだ時点で含み損があったとしても、引き継いだ後の運用益が相殺されることはありません。NISA口座の損失は、「損益通算」(複数の口座の利益と損失を合算して課税所得を計算する)の対象外だからです。

相続税の対象になる

最初に述べたように、引き継いだNISAの資産は相続財産ですから、相続税を計算する際には、取得価格がそこに加算されます。

相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があります。相続人が3人ならば、基礎控除は4,800万円となり、この金額までは相続税は課税されません。他の財産と合計して、これを超える場合には、超えた分に相続税がかかってきます。

iDeCoを運用していた人が亡くなった場合=「死亡一時金」で受け取る

iDeCoとは

iDeCoとは厚生労働省が作った私的年金制度です。加入は任意で、掛け金を拠出し、商品を選んで運用していきます。運用成果に応じて、掛け金と運用益の両方を受け取ることができますが、基本的には60歳になるまで、受給はできません。

支払った掛金は全額所得控除される、運用益に対して約20%の税金がかからず非課税で再投資できる、といった税制上のメリットがあり、公的年金以外の資産形成の手段として注目を集めています。

iDeCoについては、「「iDeCo」を使って節税や老後の資金形成を考えてみませんか?」をご覧ください。

遺族が現金を受け取れる

iDeCoの加入者は、60歳になるまで給付金を受け取ることができないのですが、給付前に亡くなってしまった場合や、年金受給中に亡くなった場合には、口座内の資産はすべて売却・現金化され、「死亡一時金」として遺族に一括で支払いが行われます。

NISAとは違い、運用している商品ではなく、所定の日に売却した現金が一括で支払われます。年金の形で受け取ることはできません。

一時金の受け取りには「順位」がある

死亡一時金を受け取れる遺族は、本人が受取人指定をしていた場合は指定された人(親族)が最優先となり、指定していなかった場合は、法令に基づき以下の順位で受取人となります。

  • (1)配偶者(死亡の当時、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む)
  • (2)子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって、死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していた者
  • (3)(2)の者のほか、死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していた親族
  • (4)子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって、(2)に該当しない者

 

同順位内であれば、その並びの順番により順位が定められます。例えば、子と父母では、子が優先されます。また、例えば子が2人など、同順位者が2人以上いる場合は、死亡一時金はその人数によって等分して支給されます。

相続には「非課税枠」が使える

iDeCoの死亡一時金も「みなし相続財産」(民法上の相続財産ではないが、相続税法上、相続財産とみなして相続税を課税する財産)として、相続税の対象になります。ただし、NISAと違って、法定相続人1人につき500万円まで非課税で受け取ることができます。

5年という請求期限がある

一時金は自動的に振り込まれるわけではなく、遺族からの死亡一時金の裁定請求が必要になります。iDeCoの運営管理機関に「加入者等死亡届」を提出し、その後の手続きについては詳細を確認するのがいいでしょう。

注意したいのは、この請求には、原則として死亡日から5年以内という期限があることです。これを過ぎると、法務局に供託され、請求できなくなってしまいます。

「NISA、iDeCoの利用は家族に伝えておく」が原則

これらの運用は、老後の資金を確保するのが目的ですから、途中で自分が亡くなるようなことは想定していないのが普通です。しかし、NISAもiDeCoも運用は長期にわたりますから、「万が一」の可能性は否定できません。

説明したように、遺族がこれらの資産を受け取るためには、主体的な手続きが必要です。もし、故人がこれらの口座を開いて資産運用をしている事実を誰も知らなければ、最悪の場合、「掛け捨て」になってしまうこともあるわけです。家族には、これらを利用している事実、口座を開いている銀行などを伝えておくべきでしょう。

まとめ

NISAで運用していた人が亡くなった場合には、相続人の「課税口座」で引き継ぐことができ、iDeCoの場合には、「死亡一時金」を受け取ることができます。それぞれ手続きが必要ですから、故人が口座を開いていた金融機関に問い合わせるなどして、確実に進めるようにしましょう。

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