10月から税務署による金融機関への預貯金の照会がオンライン化されました
各地の税務署や国税局が行う税務調査においては、当局が調査対象者の預貯金の中身を、本人の同意なく調べることができるのをご存知でしょうか? しかも、従来は「紙のやり取り」を通じて行われていた照会業務が、2021年10月からオンライン化されました。税務署にとっては「大幅な業務改善」ですが、納税者の側には、何か影響があるのでしょうか? 今回は、「税務調査と預貯金」についてまとめました。
税務署は預貯金の状態を把握できる
10年分の「資金移動」が調べられる
例えば親の相続の際、こんなふうに考える人がいるかもしれません。「亡くなった父親は3つの銀行口座に預金を残したけれど、1つぐらい申告しなくても、税務署にはバレないだろう」「母のタンス預金は、自分名義の口座に移したから、万が一税務調査(※)になっても見つかるまい」――。
しかし、これらは大いなる誤解です。税務調査を行う税務署や国税局には、被相続人(財産を渡す人)だけでなく、相続人が開設するすべての金融機関の口座を調べることが、法律で認められているのです。今の例で言えば、口座を隠すのは不可能。また、一度に高額の入金など不自然な資金の移動があれば、「これは何ですか?」と追及されることになるでしょう。
口座の調査は、10年遡って行うことが可能です。金融機関には、取引履歴を10年間保管する義務があるからです。
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
国税関係は、年間600万件
こうした調査は、金融機関に対して調査対象者に関係する預貯金についての照会を行い、回答を得る、という形で行われます。実は国税庁以外にもこの権限を持つ行政機関はあって、金融機関への照会・回答の総数は、年間およそ6,000万件に及ぶそう。国税関係は、そのうち約1割の600万件となっています。
また、照会先である金融機関別には、割合の高い方から銀行などが約7割強、生命保険会社が約3割弱、次いで損害保険会社、証券会社といった順番です。
照会業務のオンライン化とは?
煩雑だった「紙」の作業
従来、税務調査におけるこの預貯金の照会・回答は、次のような業務フローで実行されていました。
■税務署側
対象者の選定
→照会文書の作成/決済/官印押捺
→封入/宛先確認/発送
⇒金融機関へ
■金融機関側
開封・仕分け
→受付管理簿に記載
→口座の検索・取引明細の確認
→回答書の作成/決済/社印押捺
→封入/宛先確認/発送
⇒税務署へ
■税務署側
開封・仕分け→システム入力
なお、照会文書や回答書は、紙の原本を保管することになっていました。
一目でわかるように、1件の照会にかかる作業は煩雑で、行政側、金融機関側双方にとって、大きな負担になるだけでなく、回答に時間がかかって調査に支障をきたす可能性も指摘されていました。
デジタル化で回答時間は大幅短縮
こうした状況を打開するために10月からスタートしたのが、照会業務のオンライン化です。調査対象の預貯金情報を、税務署と金融機関を結ぶ専用回線を通じてやり取りするというもので、双方が行っていた文書の封入作業や、回答文書をもらった税務署がしていたシステムへの入力作業などの必要がなくなり、仕事は一気に「楽」になりました。
実は国税庁は、2020年の10月から12月にかけて、東京、仙台の両国税局と神奈川県内の10税務署、福島県内の18税務署を対象に、4つの金融機関とこのオンライン化の実証実験を行いました。その結果、従来は「概ね2週間以内」(国税庁)だった回答にかかる日数は、大幅に短縮されることが確かめられています。
納税者への影響はある?
システムが変わっても「やるべきこと」は同じ
税務署の預貯金照会業務が効率化され、スピード感も増したということは、納税者にとっては、「預貯金が調べられやすくなった」ことを意味します。とはいえ、基本的に業務をデジタル化、オンライン化したという手法の変更で、調査内容が変わるわけではありません。正しい申告や納税を行っていれば、新たな問題が発生したりはしないはずです。
相続で目をつけられる預貯金
税務に関して個人の預貯金が問題になるのが、さきほども触れた相続です。実際、国税庁調べによる2019事務年度(19年7月~20年6月)の「申告漏れ相続財産」(合計3,002億円)のうち、預貯金は最も多い993億円を占め、土地(373億円)や有価証券(323億円)などを大きく引き離しているのです。ですから、当然、税務調査で「狙われる」ことになります。
相続人の預貯金でよく問題になるのが、「名義預金」です。例えば、専業主婦が夫の給料から貯めていた「へそくり」や、被相続人が本人たちには知らせずに、子どもや孫名義で作った口座に積み立てていたお金などが、これに当たります。いずれも、名義は相続人などの口座であっても、そこに入っている現金の「出所」は被相続人です。この場合は、被相続人の財産にカウントし、申告しなくてはなりません。
また、相続税対策として生前贈与を行う際には、きちんとした契約書を作成し、「子どもに渡した」「親からもらった」という証拠を残すようにしましょう。
「反面調査」もやりやすく?
もちろん、こうした金融機関への預貯金の照会が行われるのは、相続に限りません。法人も含め、多くの税務調査で活用されています。
「正しい申告をしていれば問題ない」と言いましたが、一方で「正しくない申告」が行われた場合に、それが捕捉される可能性が高まるのを、否定することもできないでしょう。単純に金融機関への紹介件数が増えるかどうかはわかりませんが、少なくともその素地は整ったからです。
従来は、調査官の受けた心証などから照会には至らなかったようなケースでも、これからは「とりあえず調べよう」ということになるのかもしれません。オンライン化により、調査対象の取引先などに対して行われる「反面調査」のハードルも下がるのではないか、という指摘もあります。
当面、どのような運用が行われるのか、注目していきたいと思います。
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まとめ
税務署などが金融機関に対して行う、調査対象者の預貯金の照会業務がオンライン化されました。とはいえ、調べられるのは税務署に疑問を抱かれた場合に限られます。間違いのない申告・納税を行っていれば、問題は起こりません。
【関連記事】:「税務調査」はいつ来るのか? どんな場合に「狙われ」やすい?
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