損害賠償金を法人が支払った場合に、税金に与える影響とは

[取材/文責]長谷川よう

会社を経営して事業を行っていると、争い事や事故などの当事者になってしまうことがあります。解決のために、損害賠償金を支払う場合もあるでしょう。では、損害賠償金は経費にすることができ、税金が安くなるのでしょうか。それとも経費にならないのでしょうか。ここでは、法人が損害賠償金を支払った場合の処理について解説します。

損害賠償金には経費にできるものとできないものがある

損害賠償金を経費にできる場合の処理方法

実は、損害賠償金には、経費にできるものとできないものがあります。それぞれのケースについて見ていきましょう。

 

まずは、損害賠償金が経費にできる場合です。損害賠償金が経費にできる場合は、法人の業務遂行に関連するものに限られます。例えば、従業員が業務中に事故を起こして、損害賠償金の支払いが発生した場合は経費にすることができます。ただし、損害賠償金の支払いが法人の業務遂行に確実に関連することを、証明できるようにしておく必要があるでしょう。経費にできる損害賠償金を支払った場合は「雑損失」などの勘定科目で処理するのが一般的です。

例)

従業員が取引先との商談に向かう途中、車両事故を起こしたため、損害賠償金200万円を小切手で支払った。この事故は法人の業務遂行に関連するもので、故意ではないことが認められる。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
雑損失 200万円 当座預金 200万円 損害賠償金の支払い

損害賠償金を経費にできない場合の処理方法

損害賠償金が経費にできる場合は、法人の業務遂行に関連するものに限られます。ただし、法人の業務遂行に関連するものでも、経費にできない損害賠償金があります。それがその事故などに故意や重大な過失がある場合です。この場合の損害賠償金は、事故などを起こした本人(役員や従業員)が本来負担するものと考えられるので、法人が負担しても経費にすることはできません。同様に業務遂行に関連しない、例えばプライベートで起こした事故などの損害賠償金も、事故などを起こした本人が本来負担するものと考えられるので、法人が負担しても経費にすることはできません。

 

では、経費にできない損害賠償金を法人が支払った場合は、どのように処理するのでしょうか。この場合は、その事故などを起こした役員や従業員への債権と考えます。役員や従業員が支払うお金を代わりに法人が支払ったので、後でお金を返してもらう、いわば役員や従業員への「貸付金」として処理をします。

 

例)

従業員が、プライベートで車両事故を起こしたため、損害賠償金200万円を小切手で支払った。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
貸付金 200万円 当座預金 200万円 損害賠償金の支払い

損害賠償金を経費にできる時期

損害賠償金には経費にできる時期が決まっている

損害賠償金を支払うような重大な事故などを起こした場合は、その決着までに時間がかかる場合があります。では、損害賠償金はいつ経費にできるのでしょうか。

原則は、損害賠償金が支払われることが確定した時点です。損害賠償金が支払われることが確定した時点とは、一般的には支払額などが双方で合意した時点になります。

「賠償すべき額が確定しない場合は、いつまでたっても経費にできないのか」というと、そうではありません。例外として、相手に損害賠償金としていくら支払うと通知した金額を未払い計上した場合は、その金額で経費にしても良いことになっています。

 

例)

損害賠償金200万円を支払う旨を相手先に通知した。まだ支払いについて確定していないが、決算が来たので未払い計上する。なお、この損害賠償金は経費になるものである。

翌年度になり200万円の支払いで双方合意し、損害賠償金200万円を小切手で支払った。

決算日の仕訳
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
雑損失 200万円 未払金 200万円 損害賠償金
翌年度の仕訳
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
未払金 200万円 当座預金 200万円 損害賠償金の支払い

損害賠償金に係る債権の処理方法

経費にできない損害賠償金は、役員や従業員への債権(貸付金など)になります。そのため、法人は役員や従業員から、損害賠償金の金額を弁済してもらう必要があります。しかし、損害賠償金の金額は大きくなることも考えられるため、全額を役員や従業員から回収できるとは限りません。では、回収できない場合はどうするのでしょうか。この場合は、貸倒れ処理を行うことになります。順序としては、次のようになります。

 

①損害賠償金の金額を、役員や従業員への債権として処理する

②回収の可能性を慎重に検討する

③回収の可能性を慎重に検討した結果、回収できないと考えられる部分については、貸倒処理をし、経費(損金)にする

 

回収できないと考えられる部分は、最終的に経費(損金)にできるので、この判断は慎重にする必要があります。貸倒処理した中に、回収可能と判断できる部分があった場合は、その部分については、役員や従業員への給与とされるので注意が必要です。

損害賠償金の注意点と処理方法

損害賠償金と消費税の関係

ここまでは、損害賠償金を支払った場合の処理方法について見てきました。ここからは、損害賠償金の注意点などを見ていきましょう。

 

法人税法上、損害賠償金には経費になるものとならないものがあります。では、損害賠償金を支払った場合の消費税は、どうなるのでしょうか。

 

損害賠償金は、何かをしてもらったから支払ったという対価性がないものです。そのため原則、消費税は関係しませんし(消費税の経費にならない)、消費税の計算にも影響を与えません。しかし、例外的に次の損害賠償金は対価性があると考え、消費税の課税対象(消費税の経費)となるので注意しましょう。

 

①損害を受けた棚卸資産である製品が加害者に対して引き渡される場合で、軽微な修理を加えることによって使用することができる場合の損害賠償金

②特許権や商標権などの無体財産権の侵害を受けた場合の損害賠償金

③事務所の明渡しが遅れた場合に賃貸人が収受する損害賠償金

損害賠償金を受け取った場合は?

今度は、法人が他者から損害賠償金を受け取った場合について見ていきましょう。

他者から損害賠償金を受け取った場合は、支払ったときのように故意か故意でないかなどで処理が変わることはありません。原則、すべて法人の収益(益金)になります。

収益(益金)にする時期は、原則、損害賠償金が支払われることが確定した時点ですが、受け取った時に収益(益金)にしてもよいことになっています。処理方法としては「雑収入」などの勘定科目を使います。

 

例)

他の会社の従業員に車両事故を起こされたため、損害賠償金200万円を受け取り、当座預金に預け入れた

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
当座預金 200万円 雑収入 200万円 損害賠償金の受取

 

受け取った損害賠償金についても、支払った損害賠償金と同じように、原則、消費税は関係しません。ただし、上述した対価性があると考えられる3つの場合において、損害賠償金を受け取ったときは、消費税の課税対象となるので注意しましょう。

まとめ

今回は、損害賠償金の一般的な処理方法について解説しました、損害賠償金の処理方法は複雑です。状況によって、今回ご紹介した方法以外の処理になるケースもあります。損害賠償金の処理で不明点がある場合は、必ず、税理士などの専門家に相談するようにしてください。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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