【消費税改正】居住用賃貸建物を取得しても仕入税額控除されない?

[取材/文責]長谷川よう

消費税法は、毎年のように改正が行われています。令和2年度においても税制改正が行われました。その代表的なものに「居住用賃貸建物」に関するものがあります。この改正は、居住用賃貸建物を取得しても仕入税額控除がされないというものです。
ここでは、居住用賃貸建物に関する消費税の改正について、詳しく解説します。

居住用賃貸建物の取扱い

令和2年度の消費税の改正は、居住用賃貸建物を取得しても仕入税額控除がされないというものです。そこで問題になるのが、居住用賃貸建物とはどういうものかということです。

 

実は、居住用賃貸建物については「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するもの」と明記されています。高額特定資産とは、税抜きの取得価格が1千万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産のことです。調整対象自己建設高額資産とは、購入ではなく建設した資産で税抜きの建設価格が1千万円以上の資産のことをいいます。

 

以上のことをまとめると、居住用賃貸建物とは住宅貸付用の建物(目的が不明なものを含む)で、取得価格(購入価格や建築価格)が税抜きで1千万円以上の資産のことになります。事務所や工場、店舗など事業として使う賃貸建物は、居住用賃貸建物にはなりません。

改正前の居住用賃貸建物の取扱い

居住用賃貸建物に関する消費税の改正について見ていく前に、改正前の居住用賃貸建物の取扱いについて確認しましょう。

そもそもの仕入税額控除の仕組みとは

居住用賃貸建物に関する消費税の改正は、改正前にできていた仕入税額控除ができなくなるというものです。そこで、まずは、そもそもの仕入税額控除の仕組みについて見ていきましょう。

 

納める消費税額は、簡単に言うと、売上にかかる消費税額から仕入や経費にかかる消費税額を差し引いて求めます。この仕入や経費にかかる消費税額を、仕入税額控除額といいます。仕入税額控除の対象となる仕入や経費は、事業に関係する課税仕入のもののみです。例えば、給料など消費税のかからないものは、仕入税額控除の対象になりません。

 

仕入税額控除の対象になるものには、商品や原材料などの仕入、機械や建物などの固定資産、事務用品や消耗品などの経費があります。

2020年9月30日以前に取得する居住用賃貸建物について

では、改正前の居住用賃貸建物について見ていきましょう。今回の改正は、2020年(令和2年)10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入が対象になります。そのため、2020年(令和2年)9月30日以前に取得した居住用建物は、改正前の法律に従うことになります。

 

実は、原則、改正前に取得した居住用賃貸建物も、仕入税額控除はできません。それは、住宅の貸付けにより得た賃貸料は消費税が非課税だからです。消費税法では原則、非課税の売上に対する支出は、非課税と考えます。そのため、非課税の賃貸料を生み出す居住用賃貸建物を取得しても、仕入税額控除はできません。

 

ただし、規模の大きくない会社、厳密には課税売上割合95%以上かつ課税売上高5億円以下の場合は、非課税売上に対する支出を含めて消費税のかかるすべての支出が仕入税額控除の対象になります。そのため、居住用賃貸建物を取得した場合も、仕入税額控除の対象です。また、一括比例配分方式という消費税の計算方法を選択すれば、非課税売上に対する支出であっても、一定割合(課税売上割合)分を仕入税額控除の対象にできます。

 

このように、改正前では、少なからず居住用賃貸建物を仕入税額控除にできる方法がありました。建物は取得価格が大きいため、建物に対する消費税額も大きくなります。非課税売上に対する支出であるにも関わらず、仕入税額控除額が大きくなるため、消費税の節税効果も高いものとなっていました。

改正後の居住用賃貸建物の取扱い

ここからは、税制改正後の居住用賃貸建物の取扱いについて見ていきましょう。

居住用賃貸建物についての改正内容

税制改正後の居住用賃貸建物の取扱いはシンプルです。居住用賃貸建物の取得にかかる消費税額については、仕入税額控除の対象外になりました。改正前のように、課税売上割合95%以上かつ課税売上高5億円以下の場合や一括比例配分方式の場合であっても、仕入税額控除の対象にはなりません。そのため、居住用賃貸建物の取得による消費税の節税効果はなくなりました。

 

ただし、2020年(令和2年)10月1日以後に取得した居住用賃貸建物であっても、2020年(令和2年)3月31日までに売買契約などの契約を締結しているものについては、改正前の法律が適用されます。

 

では、改正前と改正後の消費税額を具体例で比べてみましょう。

 

例)売上が課税売上1億円のみ、支出が居住用賃貸建物の取得費5千万円の場合

※計算を分かりやすくするために、その他の経費はないものとする。金額は税抜価格

・改正前
課税売上割合95%以上かつ課税売上高5億円以下であるので、居住用賃貸建物の取得費5千万円は、仕入税額控除の対象になります。

  • ①売上にかかる消費税額
    1億円×10%=1,000万円
  • ②仕入税額控除
    5千万円×10%=500万円
  • ③納付額
    1,000万円-500万円=500万円

 

・改正後
課税売上割合95%以上かつ課税売上高5億円以下であっても、居住用賃貸建物の取得費5千万円は、仕入税額控除の対象になりません。

  • ①売上にかかる消費税額
    1億円×10%=1,000万円
  • ②仕入税額控除
    なし
  • ③納付額
    1,000万円

 

この例の場合は、改正前に比べて改正後は消費税の納税額が500万円高くなります。

その後の課税期間において控除を受けられる場合もある

改正後に居住用賃貸建物を取得し、仕入税額控除を受けられない場合でも、一定のケースでは、その後の課税期間において控除を受けられる場合もあります。

 

それは、居住用賃貸建物を事業用として賃貸した場合や売却した場合です。取得してから3年以内に、居住用賃貸建物を事業用として賃貸した場合は取得してから3年目の課税期間に、売却した場合は売却年度に、一定金額を仕入控除額に加算調整を行います。

 

居住用賃貸建物を事業用として賃貸した場合を例に、仕入税額控除の加算調整を見ていきましょう。居住用賃貸建物を事業用として賃貸した場合の加算調整は、次の計算式で行います。

 

加算調整額=居住用賃貸建物にかかった消費税額 × 課税賃貸割合

 

課税賃貸割合とは、その期間の居住用賃貸建物に対する全体の賃貸料のなかに、消費税が課税される賃貸料、いわゆる事業用の賃貸料がいくらあったかを示す割合のことです。

 

例えば、居住用賃貸建物を取得してから3年目に、事業用賃貸に転用したとします。1年目、2年目の居住用賃貸建物時の賃貸料が2年間で1,200万円、3年目事業用賃貸に転用した1年間の賃貸料が800万円の場合の課税賃貸割合は、次のようになります。

 

課税賃貸割合=800万円÷(1,200万円+800万円)=40%

 

仮に居住用賃貸建物にかかる消費税額が500万円だった場合は、500万円×課税賃貸割合40%=200万円が、3年目の事業用賃貸に転用した都市の仕入税額控除額に加算されます。

 

3年以内に居住用賃貸建物を売却した場合も、事業用賃貸として賃貸した場合と同じような考え方ですが、少し複雑になります。決算などで、実際に調整額を計算する必要がある場合には、必ず税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

まとめ

令和2年度における居住用賃貸建物の仕入税額控除の改正は、消費税の節税スキームを抑えるためのものです。これまでも、さまざまな消費税の節税スキーム対策による税制改正が行われてきましたが、今後もこの流れは変わりません。
税制改正により数百万単位で、納める消費税額が変わる場合もあります。税制改正があったら、その内容について把握しておくことがますます重要になります。

【関連記事】:消費税の「仕入税額控除」とは何か?計算の仕組みや対象取引について解説

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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