株の現物取引、信用取引とは?違いやメリット・デメリット・リスクを解説

[取材/文責]田中あさみ

「現物取引」「信用取引」という言葉を聞いたことがあるかたは多いのではないでしょうか。
自身の現金で株式(以下「株」と表記)を売買する現物取引と、株・現金を担保に取引をする信用取引にはさまざまな違いがあります。今回は、現物取引と信用取引の概要と違い、メリット・デメリット・リスクを解説していきます。

現物取引・信用取引とは?

現物取引とは

現物取引とは、自身の持つ現金で株などの有価証券を売買する方法です。
自己資金100万円の場合は、100万円分の株(売買コストを除く)を購入できます。
例えば100万円を運用し、株価が取得時の2分の1(50万円)となり売却した場合は、50万円損をすることになります。
現物取引は主に、株の配当金や購入時と売却時の差益(売却益)で利益を得る仕組みです。

信用取引とは

信用取引とは証券会社に現金・株を担保(保証金)として差し出し、お金を借りて保証金より多い額で取引ができます。

投資の世界では、投入した資本より大きい額のトレードを「レバレッジ(てこ)をかける」と表現します。信用取引はレバレッジをかけた取引であり、現物取引より高リスク・高リターンと言えるでしょう

信用取引では、証拠金に対して約3倍の価額の有価証券を購入できます。(倍数は証券会社によって異なります。)

例えば自己資金100万円を保証金として預けると、300万円程度の株の購入が可能です。
300万円分の株を運用し、株価が購入時の2分の1となった場合に損切りすると150万円程度損をします。損失も現物取引の3倍です。

現物取引は主に購入と売却の差額で利益を得ますが、信用取引は「売却」から入ることが可能です。株の「売り」から始まり、売却時より高い価額で購入し利益を得る取引ができます。

現物取引と信用取引の違い

現物取引と信用取引は、上記のような取引方法の他にも違いがあります。

取引期間

信用取引には「制度信用取引」と「無期限信用取引」があり、制度信用取引は一定の期間内のみ取引が可能です。
無期限信用取引は基本的に期限が無い取引です。ただし、取引銘柄の上場廃止・合併・株併合・株分割などが起きたときには期限が生じることがあります。

手数料

現物取引の手数料は売買コストのみですが、信用取引は他にも手数料がかかります。

手数料 買い 売り
金利 支払う
貸株料 支払う
信用管理費 支払う
名義書換料(権利処理手数料) 支払う
逆日歩(品貸料) 受け取れることがある 支払うことがある
配当金 配当金がある銘柄は受け取れる 配当金がある銘柄は支払う

株を購入する際には、証券会社からお金を借りるため金利がかかります。
また株主確定日を基準日とした「権利付き最終売買日」と権利落ち日をまたいで株を保有したときには「名義書換料」がかかります。名義書換料は「権利処理手数料」とも呼ばれます。

本決算の基準日・臨時株主総会の招集などの場面でも、名義書換料がかかります。

株の売却からスタートする取引では「貸株料」という借りた株に対する手数料がかかります。
信用取引で「売り」が盛んに行われた場合、逆日歩(品貸料)という手数料を支払うことがあります。

逆日歩とは信用の「売り残高」が「買い残高」を上回り、証券会社の貸し出す株が不足してしまった際に調達のためにかかる手数料です。逆に「買い」から入ると逆日歩を受け取ることができる可能性があります。

信用取引全般で、信用管理費という手数料も差し引かれます。

現物取引・信用取引のメリット・デメリット

現物取引のメリット・デメリット

現物取引のメリットは、信用取引と異なり手数料が売買コストのみという点が挙げられます。加えて銘柄が制限されず、上場するほとんどの株を購入できます。
信用取引のようにレバレッジがかかっていないため、投資した金額以上の損失が生じることはありません。

一方で取引に現金が必要で、「売り」からスタートする取引ができないというデメリットがあります。

信用取引のメリット・デメリット

信用取引は、保有している現金の約3倍まで取引ができるというメリットがあります。
売却からスタートできる点も魅力に感じるかたも多いでしょう。
ただし、上記のように信用取引のみに発生する手数料を支払わなければいけません。
損をしたときにも約3倍となってしまい「追証」「強制決済」のリスクが生じます。

信用取引は怖い?上級者向けと言われる理由

信用取引には「追証」「強制決済」がある

信用取引では一定の委託保証金維持率を下回ると、保証金を追加で支払います。
追加保証金は通称「追証(おいしょう)」と呼ばれています。

例えば100万円の保証金を証券会社に委託し、株を300万円分購入したとします。
株300万円分を運用し、証券会社の最低保証金率が20%の場合は株の価額が60万円(300万円×20%)を下回ると追加保証金が必要となります。
追証の期日までに保証金を入金しなかった場合は「強制決済」が行われます。

強制決済とは、買いから入った場合は売り、売りから入ったときには買いで強制的に成り行き注文が行われる仕組みです。

強制決済と似た仕組みに「ロスカット」がありますが、ロスカットは維持率を割り込んだ際に一定の期日を設けず強制的に成り行き注文するものです。

一定の維持率を下回っても今後上がる見込みがあり利益を得たい人は、強制決済を避けるために追加保証金を支払わなければいけません。

手元に現金が無い場合には強制決済が実行されてしまいます。

リスクコントロール・レバレッジの調整が必要

信用取引は保有資金の約3倍の取引が可能ですが、リスクが高くコントロールが必要となります。

含み損の銘柄を保有し続ける(塩漬け)状態では、信用取引の場合コストがかさんでしまいます。株価が下落すると追加保証金を支払い続ける可能性もあります。
「〇円まで下がったら損切り」など、リスクをコントロールできる人でなければ信用取引は難しいでしょう。

また信用取引はレバレッジをかけることができますが、最大約3倍の設定が可能です。
金融商品には特性上リスクが高いものがあり、レバレッジを最大までかけると危険な状態に陥る可能性があります。
金融商品や自身のリスク許容度に合わせたレバレッジの調整も必要で、上級者向けの取引と言えます。

まとめ

信用取引は保証金の約3倍の取引や「売り」から始めるトレードができます。ただし、リスクが高く追加保証金の支払いや強制決済の可能性があります。この記事で現物取引との違いやメリット・デメリットを知り参考にしていきましょう。

大学在学中に2級FP技能士を取得、会社員を経て金融ライターとして独立。金融・投資・税金・各種制度・法律・不動産など難しいことを分かりやすく解説いたします。米国株・ETFなどを中心に資産運用中。CFP(R)の相続・事業承継に科目合格、現在も資格取得に向けて勉強中。

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