円安は訪日観光客にどのような影響を与えたのか解説

[取材/文責]長谷川よう

円相場は常に変動し、様々な分野に影響を与えています。訪日観光客の存在が大きい観光業にとっても、円相場の動きは重要です。

現在の円相場は円安が進み、それにより海外から日本に来る観光客が増えていると考えられますが、実際のところはどうなのでしょうか。

ここでは、円安が訪日観光客に与えた影響について解説します。

今の円相場はどうなっている?

円安が訪日観光客にどのような影響を与えたのかを見ていく前に、まずは今の円相場から確認しておきましょう。

そもそも円安とは、ある時点と今を比べて、日本の通貨円がアメリカのドルなど他国の通貨よりも価値が下がっている状況のことを指します。

例えば、1ドル=110円の時があったとします。この場合、110円で1ドルと交換できます。
その後、1ドル=130円になった場合、これまでは110円で1ドルと交換できていたのが、130円出さないと1ドルと交換できません。

円を余計に出さないと、ドルと交換できない。つまり、円の価値が下がっている状況になっています。これが円安です。

2023年に入って、ドル円相場は、1ドル=130円〜140円前後で推移しています。2023年1月における月間平均相場(仲値)は1ドル=130.68円だったのに対して、2023年5月における月間平均相場(仲値)では、1ドル=137.51円と円安が進んでいます。
過去の同月を比較すると、次のようになっています。

2019年5月:1ドル=110.25円
2020年5月:1ドル=107.32円
2021年5月:1ドル=109.21円
2022年5月:1ドル=128.88円

 

2021年までは、1ドル=110円前後で推移していたものが、2022年、2023年と急激に円安が進んでいることがわかります。

円安は訪日観光客にどのような影響を与えた?

2022年ごろから、急激に円安が進んでいます。では、円安は訪日観光客にどのような影響を与えたのでしょうか。

ここでは、円安が訪日観光客に与えた影響について見ていきましょう。

観光客数と旅行消費額が増加

円安が訪日観光客に与える影響で大きいものといえば「観光客数」と、訪日観光客がどれだけその旅行でお金を使ったかを示す「旅行消費額」の2つです。円安がそれぞれに与えた影響は、次のようになっています。

・観光客数

JNTO(日本政府観光局)は、5月に訪日外客数(2023年4月推計値)を公表しています。それによると、2023年4月の訪日観光客数は1,949,100人となっており、200万人に迫る勢いです。

これは、新型コロナウイルスの影響で中止されていた個人旅行が、2022年10月に再開されてから、一番多い訪日観光客数となっています。また、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年4月(2,926,685人)と比べても、66.6%にまで回復しています。

このことからも、円安は訪日観光客数の増加に一定の影響を与えたものと考えられます。

・旅行消費額

次に、訪日観光客がどれだけその旅行でお金を使ったかを示す「旅行消費額」を見ていきましょう。

観光庁が公表した、2023年4月に2023年1~3月期の「訪日外国人消費動向調査」によると、2023年1~3月期の訪日外国人旅行消費額は1兆146億円となっています。

新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年1~3月期と比べると、11.9%減にまで回復しています。しかも、その内容を詳しく見ていくと、国の政策で訪日が少なかった中国では、2019年1~3月期比で-74.8%と下落していますが、例えば、韓国で同比+30.3%となるなど、中国以外のほとんどの国では旅行消費額が増加しており、今後さらに旅行消費額が増加すると考えられます。

これらのことからも、円安は訪日外国人の旅行消費額の増加に一定の影響を与えたものと考えられます。

円安だけが観光客増の原因とはいえない

円安が進むとともに、訪日観光客数が増加し、訪日外国人の旅行消費額も増加してきています。このことから、円安が観光客数と旅行消費額に影響を与えていると考えられますが、果たして、円安だけが観光客が増加している直接の原因となっているのでしょうか。

マーケティングリサーチ会社の株式会社アスマークでは、訪日外国人の調査を行っています。2023年4月に公表した、20~40代のアメリカ人男女に行ったアンケート調査によると「円安が訪日へのきっかけになっているのか」との問いには、約4割半ばの人が「なっている」と答えています。

しかし、裏を返すと、5割強の人が円安は訪日のきっかけになっていないと答えていることになります。また、このアンケートでは、日本の文化や食、観光に興味を持つ人も多いというアンケート結果が示されています。

もちろん、円安が訪日観光客の増加の原因のひとつであることには、間違いがありません。しかし、それだけが原因と結論づけることもできないのではないでしょうか。

今後の円安・訪日観光客はどうなる?

円安が、訪日観光客数と旅行消費額の増加に一定の影響を与えているのは、間違いありません。そのため、円安が続けば、訪日観光客がさらに増える可能性は高いといえるでしょう。
では、今後、円安や訪日観光客は、どのようになっていくのでしょうか。

・円安

まず、今の円安状態ですが、これはどこまで続くのかは未定です。あまりに円安が加速するのであれば、日本政府やアメリカ政府の間で、何らかの対策が取られる可能性があります。

また、政府による対策以外にも、諸外国の経済混乱などが影響して円安が止まる可能性もあります。有識者の中には、円安の進行にブレーキがかかる可能性が強まっているという意見も出てきています。

・訪日観光客数

次に、訪日観光客数ですが、円安状態が収まれば、訪日観光客数が直ちに減少するのかというと、そうでない可能性もあります。なぜなら、円安だけが現在の訪日観光客数増加の要因ではないと考えられるからです。

新型コロナウイルスの影響が収まったことにより、これまで抑えられてきた観光需要が高まってきていることは間違いがありません。その中で、観光先を決める際に、円安で日本を選んだ旅行者も少なくないでしょう。

しかし、上述したアンケート調査では、円安が訪日へのきっかけになっているのかとの問いに「なっている」と答えた人は、約4割程度のみです。それ以外の人は、円安以外の魅力から、日本への観光を決めています。例えば、日本の文化や食、風景などに興味を覚えて、日本に観光に来ているのです。そこに日本の強みがあります。

今後、円安の解消によって訪日観光客が減らないように、日本の良さを今まで以上に高めたり、文化や食などの日本の魅力を発信したりしていくことも重要となるでしょう。

まとめ

円安とは、ある時点と今を比べて、日本の通貨円がアメリカのドルなど他国の通貨よりも価値が下がっている状況のことです。

最近のドル円相場は、2023年に入って、1ドル=130円~140円前後で推移しています。
2021年までは、1ドル=110円前後で推移していたことを考えると、今は、強い円安状態にあるといえます。

円安状態が進むと同時に、訪日観光客数や日本での旅行消費額も増加しています。そのため、円安は訪日観光客に一定の影響を与えていると考えられます。

一方で、多くの訪日観光客が円安以外の、例えば、文化や食などの日本の魅力にひかれて訪日しているという調査結果もあります。今後、円安状態がどこまで続くかは不透明ですが、日本の魅力をさらに高め、海外に発信していくことで、訪日観光客数を増加させることは可能となるでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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