ふるさと納税制度による地方格差拡大について解説

[取材/文責]鈴木翔馬

寄付金に対して返礼品が貰えるふるさと納税制度は、その魅力で人気を集めています。一方で、ふるさと納税制度によって地方格差が拡大しているという事実もあります。

では、なぜふるさと納税制度が原因で地方格差拡大が起こるのでしょうか。また、地方格差が拡大することで具体的にどのような問題が発生するのでしょうか。本記事では、主にこれらの疑問について答えます。

ふるさと納税制度による地方格差拡大について

ふるさと納税制度によって、一部の自治体に税収が集中する傾向があるため、地方格差が拡大しています。では、このような問題はなぜ起きているのでしょうか。また、減収した地方自治体には具体的にどのような影響が及ぶのでしょうか。

地方格差は本来「地方交付税」によって改善される

ふるさと納税制度は、なぜ税収の地域格差が拡大すると問題視されているのでしょうか。

そもそも、税収の地域格差は「地方交付税」によって調整されます。地方交付税とは、国が国税として各地方団体から徴収したお金を、税収の少ない自治体に再分配する目的で設けられている制度です。

地方交付税自体は、地域格差の是正手段としてある程度機能しています。しかし、2008年に始まったふるさと納税制度によって、人気のある自治体に税収が偏ってしまうことで、地域間の格差は拡大してしまっています。

このように、本来地方交付税がもたらす効果を相殺してしまっているため、ふるさと納税制度は問題視されているのです。

東京都特別区はふるさと納税による税収減が深刻

ふるさと納税による税収減が深刻な自治体として、東京都特別区(23区、武蔵野市、三鷹市)の例を挙げます。

東京都特別区の従来の税収額は、地方交付税を合わせると全国平均と同水準でした。全国でもっとも人口が集中しているため、元々税収確保について大きな問題を抱えていたわけではありません。

しかし東京都特別区は、ふるさと納税制度によって、約2,000円億円もの減収が見込まれています。なぜなら、都内在住者が魅力のある他の地方自治体に納税することで、本来東京特別区が得られたはずの税収を確保できなくなってしまうためです。

東京都特別区には2,000円億円の減収によっておもに以下の影響が出る可能性が示唆されています。

  • 945所分の保育所を建てられなくなる
  • 146所分の特別養護老人ホームを建てられなくなる
  • 111校分の小学校を建て替えできなくなる
  • 2年3か月分のゴミを処理できなくなる

 

このように、東京都特別区は税収減少によって、インフラ整備や公共サービスの質が低下する恐れがあります。

ふるさと納税制度の仕組みに存在する3つの問題点

ふるさと納税制度の仕組みには、3つの問題点があります。以下の見出しでは、それぞれの問題点について解説します。

1.税収が減る自治体が出てくる

問題点の1つ目は、ふるさと納税制度の仕組みによって、一部の自治体の税収が減少することです。

ふるさと納税制度は、希望する自治体を自由に選んで寄付することで、その金額が居住地の自治体に本来納めるはずの税金から控除されるというものです。つまり、人気の高い自治体は税収が増える一方で、寄付者が少ない自治体は税収が減ってしまいます。特に地方交付税不交付団体は、ふるさと納税によるマイナスの影響をそのまま受けてしまいます。

先ほど挙げた東京都特別区の例も同様で、本来住民から得られたはずの税収が他の自治体へ行き渡ってしまうため、約2,000億円もの減収が見込まれているのです。自治体によっては、ふるさと納税制度によって税収が激減し、最悪の場合赤字になってしまうケースも考えられます。

2.地方交付税によって国の財源が圧迫される

問題点の2つ目は、ふるさと納税制度によって地方交付税の負担が増大し、国の財源が圧迫されてしまうことです。その理由は、2つあります。 

1つ目は、ふるさと納税制度によって減収した自治体のマイナス分を、地方交付税で補填しなければならないことです。その分、地方交付税額は増大し、国に負担が掛かってしまいます。本来不交付団体であった自治体の減収分まで賄う必要が出てくることも、国にとっては大きな問題です。

2つ目は、地方交付税の総額が増えてしまうことです。その理由は、地方交付税額の算定にふるさと納税による増収分が考慮されていないためです。そのため、ふるさと納税によって住民税減収を解消した自治体であっても、地方交付税は交付される可能性があります。

これらの要因により、地方交付税の総額は増えることになり、国の負担が大きくなってしまうのです。

3.地方自治体に国の負担が及ぶ

問題点の3つ目は、2つ目とは反対に、国の負担が地方自治体に対して及んでしまう側面もあることです。地方自治体の負担が大きくなってしまう要因として「ワンストップ特例制度」があります。

ワンストップ特例制度とは、一定の要件を満たす場合に、確定申告をしなくても寄付金控除を受けられる制度のことです。寄付者にとっては便利な制度ですが、ワンストップ特例制度が適用される際に控除される所得税相当分は、自治体が住民税控除によって負担することになっています。

しかし、この控除分は本来国が負担するものです。とはいえ、実際にはこのようにワンストップ制度によって、国の負担を地方自治体が背負う形になってしまっています。

ふるさと納税制度による自治体の増収額・減収額ランキング

ふるさと納税制度によって困っている自治体のなかでも、その深刻さの度合いは異なります。また一方で、ふるさと納税制度の恩恵を受けて増収に成功している自治体もあります。そこで、どのような自治体がどのくらい増収もしくは減収しているのか、一覧としてわかりやすいようランキング形式で見てみましょう。

■ふるさと納税制度による増収額ランキング(2021年度)

1位 北海道紋別市 152億9,700万円
2位 宮崎県都城市 146億1,600万円
3位 北海道根室市 146億500万円
4位 北海道白糠町 125億2,200万円
5位 大阪府泉佐野市 113億4,700万円

 

■ふるさと納税制度による減収額ランキング(2021年度)

1位 神奈川県横浜市 230億900万円
2位 愛知県名古屋市 143億1,500万円
3位 大阪府大阪市 146億500万円
4位 神奈川県川崎市 102億9,100万円
5位 東京都世田谷区 83億9,600万円

 

増収額ランキングを見ると、紋別市の海産物や都城市のブランド牛などのように、魅力的な返礼品を持つ自治体が上位に多く見られます。一方減収額ランキングは、比較的人口の多い自治体が上位を占めています。

ふるさと納税に関するFAQ

最後に、ふるさと納税に関してよくある質問へ回答します。

地元の税収が減るのは本当?

ふるさと納税によって、地元の税収が減る可能性はあり得ます。実際に多くの自治体がふるさと納税によって減収している以上、たまたま自身の居住地の税収が減ることも十分にありえるでしょう。特に地方税不交付団体や、魅力的な返礼品を用意できていない自治体は、ふるさと納税によるマイナスの影響を受ける可能性が高いです。

ふるさと納税がおかしいといわれる理由は?

ふるさと納税がおかしいといわれるのは、本来は「自身の生まれ育った故郷を助けたい人」に向けて設けられた制度であるにもかかわらず、実際はどの自治体に対しても寄付できることです。このことが原因で、税収の地域格差が拡大しているため、ふるさと納税制度を問題視する意見も一定数存在するのです。

ふるさと納税で赤字の自治体が出るのはなぜ?

ふるさと納税で赤字の自治体が出る理由は、寄付者の多い自治体に税収が集中することで、その分寄付者が少ない自治体の税収が減ってしまうためです。特に富裕層が多い自治体ほど、居住地以外に寄付する住民は増えて、赤字になりやすい傾向があります。

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まとめ

ふるさと納税制度には、地域間の税収格差を拡大し、地方交付税財源や自治体財政に影響を及ぼす問題が存在します。そのため、減収している各自治体は解決策を検討する必要があります。財政の健全化のためにも、まずはふるさと納税制度によって起きている問題について、現状を明確に把握するよう努めましょう。

フリーランスライター。学習塾勤務時代のブログ運営を通じてライティングやSEOについて学び、これらのスキルを活かして2021年に独立。専門ジャンルは金融・不動産。保有資格は宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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