自分にもできる!?タックス・ヘイブンを使った節税スキーム

[取材/文責]千葉勇人

近年、タックス・ヘイブンが報道で話題となり、書籍も多く出版されています。しかし、「違法ではないらしい」「利用すると税金を払わなくてもいいらしい」という噂は耳にしても、詳しい事情や使い方をご存知の方は少ないのではないでしょうか?

この記事では、タックス・ヘイブンの概要と利用方法を確認してみます。

タックス・ヘイブンの概要

タックス・ヘイブンとは、一言で言うと無税、またはかなり低い税率の国・地域のことです。日本では、法人税率20%以下の国々をそのように呼ぶことが多いです。

 

誤解があるようですが、タックス・ヘイブンと言われる国に法人を設立することには全く違法性がありません。それどころか、法人の設立や株式上場を極めて有利に行えるような法整備が行われていたり、企業法と企業法専門の裁判所が整備されていたりといった、企業活動に極めて有利な制度が整備されていることが多いため、金融やITなどの業界ではタックス・ヘイブンが合法的に広く活用されています。

 

また、日本国内に法人を設立すると、代表者の住所・氏名などが登記簿に掲載され、公開されてしまいます。しかし、タックス・ヘイブンと呼ばれる国々は秘匿性が高いケースが多いため、そのような国々では会社代表者の住所・氏名を公開せずに事業を行うことができます。

 

最近はタックス・ヘイブンの弊害が指摘されることが多いようですが、一方では合法的な事業活動に有利であるという側面も高く評価されており、アメリカ国内でもデラウェア州がタックス・ヘイブンとして広く知られています。

 

なお、本記事の専門用語につき、財務省の解説を適宜参照しています。

タックス・ヘイブンを利用した法人税の節税

法人税節税の具体的なスキーム

タックス・ヘイブンを利用して節税する方法は、大きく分けると以下の二通りあります。しかし②の方法は、後述するタックス・ヘイブン対策税制により規制される恐れがありますので、実行に移す際には専門家との十分な検討が必要です。

① タックス・ヘイブンに法人を設立(移転)し、そこで事業を営む

タックス・ヘイブンに新しく法人を設立したり、既存の法人の本社をタックス・ヘイブンに移転したりするとともに、その会社の株主もタックス・ヘイブンに移住して、実際にタックス・ヘイブンの地域で事業を営む方法です。

 

この方法を採った場合、後述するタックス・ヘイブン対策税制の規制を受けることがありませんので、もっともリスクが少ない方法です。

 

しかし、タックス・ヘイブンに法人・個人ともに移転して、そこで事業を営むのは一般の方には困難ですし、タックス・ヘイブンで営むことが不可能な事業も多いようです。

②タックス・ヘイブンにペーパーカンパニーを設立する

まず、タックス・ヘイブンに新しく会社を設立し、その会社に著作権や特許権などの無体財産権や、船舶・航空機などを出資します。そして、日本にある会社は「著作権や特許権のライセンス料」「船舶・航空機のリース料」「コンサルティング料」の名目でタックス・ヘイブンにある会社に代金を支払います。

 

すると、日本にある会社ではその代金の金額が経費となり、同時にタックス・ヘイブンにある会社の売上となります。一見、2つの会社の利益を合計すると、金額は変わらないように見えます。しかし、タックス・ヘイブンの法人税率は無視できるほど低いので、事実上ライセンス料やリース料の金額に対応する税額を節税することができます。

 

以前はこの方法により法人税を大幅に節税することができましたが、タックス・ヘイブンを利用した節税スキームの横行による弊害が叫ばれることとなり、タックス・ヘイブン対策税制が創設されると共に改正が進められ、一定の規制がかけられることとなりました。

タックス・ヘイブン対策税制の規制内容

平成30年4月1日より、改正タックス・ヘイブン対策税制が施行されることとなりました。タックス・ヘイブン対策税制は、以下の2つの基準により規制対象かどうかを判断しています。手順として、まずは①に該当するかどうかの判定を行い、もし該当しなかった場合には②に該当するかどうかの判断を行います。

①ペーパーカンパニー等の認定による基準

ペーパーカンパニーとは、名目的に法人の登記だけを行っており、事務所などが存在しない形だけの法人のことです。

 

「ペーパーカンパニー等」には、ペーパーカンパニーの他、金融資産の保有のみを目的として事業を行わない法人や、租税に関する情報交換に非協力的な国としてブラックリストに掲載されている国に本店を置いている法人が挙げられます。

 

本店所在地国の税率が30%未満の場合で、かつペーパーカンパニー等の認定を受けた法人の利益の全額が、その法人の実質的所有者の、日本での所得に合算されます。

②経済活動基準

経済活動基準とは、本店所在地国で実際に事業を営んでいるかどうかという基準です。以下の4基準により判定されます。

A 事業基準

主たる事業が株の保有やIPの提供、船舶・航空機のリース等の「どの国においても営める事業内容かどうか」という基準です。

B 実態基準

本店所在地国に、主たる事業に必要な事務所などがあるかどうか、という基準です。

C 管理支配基準

本店所在地国において、事業の管理などを自ら行っているかどうか、つまり「実際には日本から指示を出しているけれど、名目的に外国にある会社を本社と呼んでいるだけ」かどうかという基準です。

D 所在地国基準

主として本店所在地国で事業を行っているかどうか、つまり実際に本店所在地国で事業を営んでいるかどうか、という基準です。

 

本店所在地国の税率が20%未満で、かつA〜Dまでの全ての基準により、本店所在地国で事業を営んでいると認められる場合、タックス・ヘイブンの法人の利益のうち「受動的所得」つまり利子や株式の配当、無体財産権の利用料など「どの国においても営める事業」の利益が、その法人の実質的所有者の、日本での所得に合算されます。

 

また、本店所在地国の税率が20%未満で、かつA〜Dまでのいずれかの基準により、本店所在地国で事業を営んでいないと認められる場合、タックス・ヘイブンの法人の利益の全額が、その法人の実質的所有者の、日本での所得に合算されます。

タックス・ヘイブンを利用した相続税・贈与税の節税方法

一時所得を利用する方法

親がタックス・ヘイブンに法人を設立し、全財産を法人の所有にすれば相続税がかからないのではないかという誤解がありますが、事実ではありません。なぜなら、全財産の所有権が親から離れたとしても、その法人の株式や出資を子が相続することとなるからです。

 

したがって、タックス・ヘイブンを利用して相続税・贈与税を節税するためには、もう一工夫が必要となります。

 

それは、親がタックス・ヘイブンに会社を設立し、その会社に財産を贈与して、その会社から子や親族に財産を贈与するという方法です。この方法を用いることにより、贈与税を免れることができ、代わりに一時所得が発生します。

 

「贈与税を免れることができても、一時所得が発生するのであれば納税額が変わらないのではないか?」という疑問が生じるかもしれません。しかし、贈与税、一時所得共に最高税率が課税されるとすると、一時所得に係る納税額は贈与税の納税額の約半分となるのです。

 

現在、この方法は日本の税法には違反しません。しかし、違法ではなくても不当に税金を回避する「租税回避行為」であると税務署から指摘される可能性は否定できません。税務リスクを避けるため、この方法を採る場合には国際税務や相続税に詳しい税理士によく相談しましょう。

配当所得を利用する方法

一時所得を利用して相続税・贈与税を節税する方法の他に、もっと効率の良い配当所得を利用する方法があります。ただし、一時所得を利用する方法と比較して利用が困難であるという欠点があります。

 

この方法は、相続する子や親族がタックス・ヘイブンに法人を設立し、親、または親が持つ法人が子の法人に対して贈与やコンサルティング料などの支払いを行います。そして、タックス・ヘイブンにある法人が、子や親族に対してその利益を配当するのです。

 

配当所得にかかる税金は、金額にかかわらず一律20%ですので、通常の相続税や贈与税を支払う方法はもちろん、一時所得を利用する方法と比較しても大きな節税をすることが可能となります。

 

しかし、この方法も、一時所得を利用する方法と同様に「租税回避行為」であるという指摘を受けるリスクがありますので、専門家の助力を得ながらくれぐれも慎重に検討しましょう。

まとめ

このように、タックス・ヘイブンを利用して節税を図る方法にはバリエーションが多く、本記事では紹介しきれませんでした。これらの方法を組み合わせることで、より効率的な節税を図ることが可能です。特に資産をお持ちの、同族会社のオーナー社長が事業継承を考える際には、これらの方法を取り入れることで大幅な節税が可能となることがありますから、一度「国際税務・相続税」の専門家に相談してみてはいかがでしょうか?

 

早稲田大学商学部に在学しながら会計事務所に勤務、その後経営学修士を取得し、記帳代行業・海事代理士業を営む。
自分自身が個人事業主・同族企業の会社役員として法人税・所得税・消費税・相続税を「自分ごと」として日々取り扱っている経験をいかし、皆様にとって有意義な情報をご提供します。

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