水商売で得た所得の確定申告は?税理士費用についても解説

[取材/文責]奥谷佳子

新型コロナウイルス感染症の影響による自粛風潮も一段落し、新年会や慰労会など徐々にではありますが夜の街も人出が増え、接客をするお店も活気を取り戻しつつあります。今回は、ホスト・ホステスやキャバクラなど、いわゆる「水商売」で収入を得ている方の確定申告について解説していきます。

水商売と確定申告について解説

儲けが出たら「所得税」がかかる

スナックやキャバクラなどをはじめ、接客業全般が新型コロナウイルス感染症の影響で、苦境におかれた時期が続きました。現在では「withコロナ」の認識も広がったこともあり、徐々に活気を取り戻しつつあります。

所得税法では、もうけが出たら所得税を納税しなければならないのが原則です。客足が戻って儲けが出るようになった場合に所得税を納める必要があるのは「水商売」も同じです。個人事業主であれ従業員であれ、生計を立てるために水商売に携わっている方が得る所得には「所得税」が課税されます。

水商売で得る所得の種類にはどのようなものがあるか?

「水商売」といっても、水商売によって収入を得る形態には様々なものがあります。自分の店舗を持ってホステスを雇って事業所得を得る個人事業主もいます。また、お店に雇用され店舗で接客することで給与所得を得るホステスもいます。また、フリーランスとして業務契約した複数の店舗で接客を行うような方もいるでしょう。事業形態や、時間的拘束、空間的拘束などの要素に応じて「事業所得」あるいは「給与所得」に区分されるのが水商売の所得です。必ずしも「水商売=事業所得」とならないということに注意する必要があります。

所得税法における水商売の所得区分

事業主と従業員では所得区分が異なる

水商売といっても、個人事業主として収入を得る場合と従業員として収入を得る場合では、所得の区分が異なります。

個人事業主として店舗を構え、従業員を雇用して収入を得ているケースであれば、得られた所得は「事業所得」になります。

「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい…」
(最高裁昭和56年4月24日判決)

お店のオーナーとして事業を行うことは、自己のリスクにおいて継続して収入を得る意思があると見られます。したがって、得られる所得は「事業所得」となるわけです。

これに対して、従業員として収入を得るケースでは、その就業形態に応じて所得区分が異なります。判断するポイントとしては、「時間的な拘束」「空間的な拘束」が挙げられます。
例えば、お店と雇用契約を交わし、勤務時間や勤務場所をオーナーから指示されて接客に従事するような場合には、得られる所得は「給与所得」になります。自身で衣装を用意し、顧客管理も自分で行っているホステスが得る報酬については「事業所得」ではないかという見解もあります。しかし、高裁平成29年1月11日判決をはじめ、ホステスの所得については時間的、空間的拘束の観点から「給与所得」と裁決されるケースが多いようです。

逆にいえば、自分の意思で勤務時間や勤務場所を選択し、出来高報酬のような形でホステスとして働いているようなケースであれば「事業所得」となる可能性が高いでしょう。

所得区分が異なれば課税所得の計算方法も異なる

同じ報酬でも「給与所得」と「事業所得」ではどのように違うのでしょうか。両者の違いは所得の計算方法にあります。

例えば事業所得の場合、収入を得るために直接要した「必要経費」を控除して所得を求めることができます。

所得金額 = 収 入 - 必要経費

必要経費が多ければ多いほど所得金額は少なくなりますし、収入より必要経費の方が多い場合には所得金額がマイナスになることもあります。衣装代やメイク代などを自分で負担しているホステスの場合、それらが全て必要経費として認められればその分、所得金額を抑えることができます。

これに対して給与所得の場合、収入から控除できるのは「給与所得控除」と呼ばれる金額だけです。

所得金額 = 収 入 - 給与所得控除

給与所得控除は国税庁が定めているもので、収入金額に対して一定割合の金額を控除することになります。給与収入を得るために要した必要経費を、支出した実額ではなく税務署が定めた割合で収入から控除するのです。したがって衣装代やメイク代、エステ費用などがいくらかかっても収入から控除することはできないということになります。自己負担の多いホステスという職制上、給与所得より事業所得とした方がメリットが大きいと考えられます。

確定申告と税理士の関係とは?

税理士は「税の専門家」

確定申告は、一年間でご自身が得た収入をその区分に応じて集計して、税法が定めた計算方法によって所得税を計算し納税するものです。ひとことで集計といっても、自分が得た所得のどこからどこまでの期間を集計すればよいのか、それらがどの所得区分に該当するのかを判断しなければなりません。また、所得が事業所得や不動産所得に該当する場合には先に、収支内訳書や青色申告決算書を作成しなけばなりません。消費税の課税事業者であれば消費税の申告書も併せて作成しなければならないでしょう。これらの下準備をしたうえで確定申告書を作成していくのですが、所得控除や税額控除などの知識がなければ、計算の過程でうっかり控除を忘れて損をしてしまう、ということも起こり得ます。

このように複雑な確定申告をご自身ですることに不安を感じるようであれば、税理士に申告業務を依頼するのも一つの方法です。税理士はその名のとおり「税に関する専門家」です。複雑な確定申告であっても、申告に不備がないようしっかりサポートしてくれますので安心です。

税理士に申告を依頼した場合の費用はどれくらい?

税理士に確定申告業務を依頼した場合の費用について触れておきましょう。どの業種でもいえることですが、業界内で統一された「価格」というのはありません。税理士も例外ではなく、確定申告の報酬に明確な基準がないので、依頼する税理士によってかかる費用は様々です。では確定申告にかかる請求額を決める際の基準をいくつか挙げてみましょう。

1.一年間の取引数

事業所得や不動産所得のように、入出金ごとの一年間の取引数が多ければ多いほど、集計に手間がかかりますので請求額が高くなります。

2.申告の難易度

収入と必要経費だけを集計すればよい白色申告より、複式簿記により資産や負債も集計しなければならない青色申告の方が申告の難易度は上がりますので請求額が高くなります。また、消費税の課税事業であれば別途消費税計算を行わなけばなりませんので、さらに費用がかかります。

3.納税者自身の協力度

納税者自身が収支内訳書や消費税計算などを終えた状態で申告を依頼すれば、税理士の手間が省けますので費用を抑えることができます。逆に、全ての作業を丸投げしてしまうとそれだけ請求額は高くなります。

4.税額

税金を計算し、確定させる行為は税理士の「独占業務」です。それだけに、計算した税額について税理士は責任を負わなければなりません。税額が大きければそれだけ負う責任も大きくなりますので請求額も高くなる傾向にあります。

確定申告が自力で難しいと感じた時は

確定申告は自力で申告するだけでなく、税理士に確定申告代行を依頼することもできます。ただし、確定申告期間中は税理士側も多忙なため、新規の依頼を断るケースも少なくありません。税理士に依頼する場合は、なるべく早めに探し始めることをおすすめします。

・【2023年版】確定申告を税理士に依頼するには?費用・料金相場は?依頼するメリット・デメリットも解説(2023/01/06更新)

[2023/01/06更新]
個人事業主はもちろんのこと、サラリーマンでも、所得税の確定申告が必要になる場合があります。とはいえ、自分でやるのは面倒そうだ。そもそも帳簿を付ける時間がない。そんなときには、税理士に頼めると聞いたけど……。どんなメリット・デメリットがあるの?費用はどれくらいかかる?依頼するべきタイミングは?わかりやすく解説します。
確定申告、税理士に依頼or自分で申告 どちらがお得?それぞれのメリットとデメリットを解説

・確定申告、税理士に依頼or自分で申告 どちらがお得?それぞれのメリットとデメリットを解説(2023/01/19更新)

[2022/08/23更新]
個人事業主には、毎年の確定申告を自分でやっている人も多いと思います。自力でやるのは、なにより申告に際してお金のかからないのが魅力。安いコストで、使い勝手の良い会計ソフトを使う手もあります。
一方、「その道のプロ」である税理士に任せると、費用はかかるけれど、「自力では無理」なさまざまなメリットも。申告を自分でやるか、税理士に頼むのか? その“損得”を考えます。

まとめ

水商売の方の確定申告は、所得区分の判断が難しい部分があります。だからといって儲けを得た部分を申告しなければ脱税行為になってしまいますので、税務署に申告相談に行ったり税理士に依頼するなど、必ず確定申告をするようにしましょう。

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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