企業で導入が始まった「インフレ手当」とは?税金はかかる?
電気代や食料品、生活必需品を中心に急激な価格上昇(インフレ)が進み、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。こうした中、従業員の不安を取り除くことなどを目的に「インフレ手当」の支給を始めた企業があります。具体的には、どのような中身なのでしょうか? 支給を受ける場合の注意点なども併せて解説します。
今後も続く物価上昇
2022年に入り、国内の物価の上昇が加速し、収まる気配がありません。今後、原材料価格が落ち着いたとしても、物価高そのものは継続すると言われています。その主な原因は、3つあります。
1つは電気・ガス料金の激変緩和措置が2024年4月までで、5月の使用分については、激変緩和の幅を縮小することになります。また物価の押し下げ効果もだんだんと少なくなっており、消費者物価指数の上昇につながりやすいです。
2つ目には、人件費の上昇です。最低賃金も上昇し、人件費分を価格に転嫁する企業も増えてきました。そのためサービス価格が上昇しているわけです。
しかし企業によっては人件費の上昇も企業努力で吸収しようとする企業もあり、物価上昇の上げ幅は企業の判断とそれをどこまで消費者が受け入れるかにかかってきそうです。
2023年の消費者物価指数は、前年同月比で2.3%の上昇であり、伸び率は2カ月連続で前月から縮小しています。電気代や都市ガス代の低下は続いており、生鮮食品以外の食料品の価格も上昇に歯止めがかかっています。
「インフレ手当」とは?
支給の目的
「インフレ手当」は、こうした急激な物価上昇を背景に、今年に入って一部の企業が導入を決めた新しい制度です。従業員の不安を取り除き、仕事へのモチベーションを高める、などの狙いがあるものとみられます。
従業員にとってありがたい制度であることはもちろんですが、人手不足に悩む企業にとっても、人材採用、離職防止といった面でのメリットが期待できそうです。
制度の中身は?
では、実際にはどんな制度なのでしょうか? 多くのメディアに取り上げられ、すでに「インフレ特別手当」を支給した(22年7~8月間に1回)IT企業サイボウズの例をみることにします。
同社によれば、同社の給与改定は、一部の拠点を除き、基本的に毎年1月に実施されていますが、今回はインフレへの早急な対応が必要と判断し、特別一時金の形で支給されました。支給額は、「各種情報を参照したうえで、各国・地域のサイボウズの給与、インフレによる影響額、税金、社会保険負担等も加味して決定」したということです。
同社の発表資料(2022年7月13日)に基づく支給の具体的な内容は、次のようなものでした。
- 対象者:支給対象拠点に支給日に在籍かつ支給日以降に勤務する直接雇用メンバー(無期・有期雇用ともに)
- 支給時期:7〜8月間に1回(給与支給のタイミングにより、各拠点で決定)
- 支給額:月の就業時間に対し、以下の金額とする。
【日本】
- 128時間超/月(8時間/日で週4日超勤務): 15万円
- 96時間超128時間以下/月(8時間/日で週3日超勤務): 12万円
- 64時間超96時間以下/月(8時間/日で週2日超勤務): 9万円
- 64時間以下/月(8時間/日で週2日以下勤務): 6万円
()内は目安の勤務時間/日数
【その他の拠点】
各拠点で金額を決定し、支給。海外赴任メンバーは、駐在先または駐在元拠点の多いほうの支給額とする。
つまり、契約社員やアルバイトを含む従業員を対象に、最高15万円が「一時金」のかたちで支払われたわけです。
初めての試みということで、従業員からは様々な質問も寄せられ、それに答えるかたちで、同社は制度について次のように説明しています。
インフレ手当の支給方法
インフレ手当の支給方法としては一時金と月額手当のふたつがあります。
一時金
一時金として支払う場合、毎月の給与に一時的に上乗せするか、賞与に上乗せする方法があります。先ほどのサイボウズの例もそうですが、一時金として支払う企業が多いようです。通常の給与や賞与と合わせて支給することで、事務手続きの手間が増えません。
支給する金額については、前述したサイボウズの例のように勤務時間によって決める場合もあれば、一律で支給する場合や扶養家族の人数で決める場合などがあります。
一時金の場合、継続的に支給する必要がありませんが、キャッシュフローが悪化する可能性もあるので注意が必要です。
月額手当
月額手当の場合、毎月の給与に上乗せします。ベースアップによって物価高に対処するやり方です。しかし月額手当として支給する場合、就業規則の見直しが必要です。またベースアップとなれば、残業代の支給額もアップします。
月額手当にすることで、大きな負担にならないというメリットはありますが、就業規則の改定や場合によっては労働基準監督署への書類提出が必要になるというデメリットがあります。
他社の導入例は?
報道によれば、同社のほか次のような企業が、同様の手当や給与の底上げを実施、ないし予定しているそうです。
●ケンミン食品「インフレ手当」
7月8日の賞与支給にあわせて、今年1月までに入社した正社員と契約社員190人に支給。支給額は、在籍日数1年以上の正社員と契約社員170人には一律5万円、それ以外の20人には、在籍日数に応じて1万~3万円。物価上昇の推移を見ながら、追加の支給も検討。
●大都「インフレ特別手当」
全社員29人に、一律10万円を支給。
●ノジマ「物価上昇応援手当」
正社員と契約社員の計約3,000人を対象に、7月支給分の給与から毎月1万円を支給。
●トヨクモ
来年度、業績変動の影響を受けない固定賞与を1ヵ月分引き上げる。
「インフレ手当」の注意点
所得税は課税される
企業によって、一時金として支給されたり、継続的な「賃上げ」だったりしますが、いずれにしても、そのまま手取りになるわけではなく、所得税が課税されます。所得税は、所得が増えるほど段階的に税率が上がる仕組み(累進課税)になっていますから、手当をもらったために納税額が大きく増える、ということも可能性としてはあり得ます。
また、サイボウズ社の説明でも出てきた、扶養関係には気をつける必要があります。世帯主の扶養に入っている場合、給与所得が103万円を超えると、配偶者控除が受けられなくなります。一方、世帯主のほうも、所得が1,000万円を超えると、やはり控除は受けられません。支給額と控除額のバランスは、検討の要ありです。
継続的なサポートが必要
人件費を含んだ価格転嫁も進んでおり、ウクライナ紛争が終われば沈静化する、といった単純なものではなさそうです。生活水準の低下を防ぐためには、こうした取り組みを行う企業が増え、さらには継続的に従業員をサポートしていく制度を構築していくことが求められるでしょう。
まとめ
継続的な物価上昇を背景に、「インフレ手当」を創設する企業が出てきました。継続的な生活支援を行うことは、従業員にとってメリットがあるだけでなく、離職の防止などの面で、企業にとっても大きなプラスになる可能性があります。
▼参照サイト
中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。
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