賢く節税!欠損金繰越控除について分かりやすく解説

[取材/文責]山本麻衣

欠損金繰越控除により助けられている企業は多くあると思いますが、一方でどういった制度なのかご存じない方もいらっしゃると思います。そこで今回は、欠損金繰越控除について解説していきます。

欠損金繰越控除とは

欠損金とは、財務会計上の赤字のことを指します。ある年度の利益がマイナスになれば、それは欠損金が発生したといえます。欠損金繰越控除とは、この欠損金が発生した翌年度以降、繰越期限が切れる9年間(平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金は10年間)のうちに利益がプラスになった場合、マイナスとプラスを相殺できるという制度です。つまり、現在の赤字によって、将来の黒字を相殺できるということです。

現在、2008年4月1日より後に発生した欠損金のみ、9年間の期間で繰り越せます。それ以前の欠損金の繰越期間は7年間でした。また、欠損金繰越控除の控除限度額や繰越期間については近年改正が頻繁に起こっているので注意が必要です。

区分 内容 事業開始年度
平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度 平成30年度
大法人 控除限度額 所得×60% 所得×65% 所得×60% 所得×55% 所得×50%
繰越期間 9年 10年
中小法人等 控除限度額 所得×100%
繰越期間 9年 10年
※平成28年度改正

欠損金繰越控除を使うメリット

前述通り、欠損金繰越控除を適用させることによって、今年度生じた赤字を翌年度以降に繰り越すことが可能になり、黒字の年の利益を相殺することによって課税所得を減らし、法人税など納税額を減らすことができます。

具体的に例を見てみると、ある居酒屋の2015年度が200万円の赤字だったとします。この場合、課税所得は0円となり、赤字の200万円は繰越欠損金として、翌年度に繰り越します。
そして、同じ居酒屋の2016年度が300万円の黒字だった場合、2015年度の赤字と2016年度の黒字を相殺し、課税所得は

 300万円-200万円=100万円

になります。

ちなみに、欠損金繰越控除は最も古い事業年度のものから順次損金算入するというルールがあります。
 

  • 平成27年度 ▲50万円
  • 平成28年度 ▲150万円
  • 平成29年度 150万円

 

例えば上のように、平成27年度が50万円の赤字、平成28年度が150万円の赤字、平成29年度が150万円の黒字の場合、平成29年度分の課税所得は、平成27年度50万、平成28年度100万、計150万の欠損金繰越控除を適用し、課税所得は0年となります。
欠損金繰越控除は最も古い事業年度のものから順次損金算入するというルールがありますが、1年に1事業年度分しか使えない訳ではありません。

欠損金繰越控除の要件

欠損金繰越控除を適用できる企業は一定の要件を満たしている企業に限ります。以下にその要件を解説していきます。

法人の要件

(ア) 欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出している法人
(イ) その後の各事業年度も連続して確定申告書(青色申告書でなくとも良い)を提出している法人
(ウ) 帳簿書類等を保存している法人
以上の3つすべてを満たす必要があります。

欠損金の繰越期間

決算申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前9年以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、その各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されます。

平成28年度税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間は10年とされています。

※平成13年4月1日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額については5年、平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年、平成20年4月1日以後に終了した事業年度から平成30年4月1日前に開始する事業年度において生じた欠損金額については9年、平成30年4月1日以後に開始する各事業年度において生じた欠損金額については10年です。

繰越控除限度額

欠損金繰越控除限度額について、資本金額や事業年度よってその限度額が設けられています。

  ~平成27年3月31日 ~平成29年3月31日 平成29年4月1日~
資本金1億円超の大企業の控除限度 80% 65% 50%
資本金1億円以下の中小企業の控除限度 100% 100% 100%

この表から見て分かる通り、年々大企業が繰り越せる欠損金の控除限度額が減ってきている一方、中小企業は全額控除が可能です。大企業に比べて中小企業が相対的に優遇されていることがわかります。
もしかしたら大企業の場合、繰越控除の限度額は今後も縮小されていくかもしれません。

☆ヒント
  • 欠損金繰越控除を利用するには、
    • (ア)欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、
    • (イ)その後も決算申告書を提出し、
    • (ウ)帳簿書類を保管しておく必要があります。
  • 繰越できる期間は現行では9年間ですが、平成30年4月1日以後の事業年度で生じた欠損金は10年間繰り越せるようになるので知っておくと良いでしょう。
  • 中小企業であれば基本的に欠損金を全額繰り越せますが、大企業については年々その限度額が縮小されつつあります。会社規模が大きく成長している会社は確認しておくと良いでしょう。

欠損金繰越控除は基本的な節税方法のひとつなので、詳細な適用要件や具体的な方法などについては税理士と相談することをおすすめします。

過度な節税には注意

欠損金繰越控除の制度は、所得が少ない中小企業や起業したばかりの企業にとってみれば非常に嬉しい制度になっています。特に事業年度によって利益の浮き沈みが激しい零細企業や中小企業などは絶対に知っておくべき制度でしょう。
 

一方で、大企業については年々繰越限度額が縮小されており、厳しい対応となっていることもご理解いただけたと思います。
 

このような背景には、グレーな節税目的で利用している会社が少なからずあるということがあります。国税庁の「平成26年度分「会社標本調査」調査結果について」によると、平成26年度の繰越欠損金の総額は約64兆円にものぼり、その分の法人税などの税収の妨げになってしまっていることがわかります。
 

政府は成長志向に重点を置き、欠損金繰越控除に頼った現在の安定志向から脱却することを目的として税制改正を行っています。繰越欠損金控除を用いた節税は、短期的な資金繰りといった観点から見るととても効果的ですが、ずっと頼ってしまっては元も子もありませんので、適切な範囲内で節税を行うのが望ましいでしょう。具体的にどのような節税対策を行うかについては、税理士と相談することをおすすめします。

まとめ

欠損金繰越控除は中小企業にとってとてもありがたい制度で、節税対策の基本として広く知られています。しかし過度な節税には注意が必要です。税務調査もさることながら、毎年行われる税制改正も、適切な額の税金を徴収するために行われています。欠損金繰越控除に限らず、グレーな節税対策を行っている方は注意が必要です。
ビスカスでは、お客様のニーズを汲み取り、職種別に専門の税理士を数多く紹介しております。税理士の中には、節税に消極的な先生も多くいます。当然、過度な節税は行うべきではありませんが、適切な範囲内であってもきちんとしたアドバイスによって大幅に節税をすることも可能です。

東京大学卒。現、同大学院所属。
学生起業、海外企業のインターンなどの経験を経て、外資系のコンサルティング会社に内定。
自分の起業の経験などを踏まえてノウハウなどを解説していきます。

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