SDGsにも掲げられた「食品ロス」の削減。「ロス」は税金も無駄遣いしているって本当?

[取材/文責]マネーイズム編集部

生産されたにもかかわらず、食べられずに捨てられてしまう「食品ロス」。日本では毎年、クリスマスケーキや恵方巻の大量廃棄なども問題になるのですが、そのように売れ残ったり家庭で食べ残したりして捨てられる食品が、「税金の浪費」につながっていることをご存知でしょうか?“もったいない”だけでは済まない現実について、考えてみましょう。

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食品ロスの現状

世界では食べ物の1/3が捨てられている!

食品ロスの問題が叫ばれて久しいのですが、実際にどのくらいの食べ物が“無駄”になっているのかを正確に知っている方は、少ないのではないでしょうか。FAO(国際連合食糧農業機関)によると、世界で毎年廃棄される食品は、およそ13億トン。なんと世界の食糧生産量の1/3近くが、消費されずに捨てられているのだそうです。

こうした現実に懸念の声が高まり、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも、「2030年までに、小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食品廃棄物を半減させる」という目標が掲げられました。

日本では毎日茶碗1杯分が

一方、日本国内では、最新の統計で年間570万トンの食品ロスが発生しています(農林水産省による2019年度の推計値)。これも数字を聞いただけではピンときませんが、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量(2020年で年間約420万トン)の1.4倍、国民1人当たりに換算すると、毎日茶碗1杯分(124グラム)の食べ物が捨てられていることになるといいます(消費者庁「食品ロスについて知る・学ぶ」より)。

食品ロスは、今の話にもあるように「食料の不均衡(食糧を捨てるほど飽食が許される人々がいる一方で、飢餓に苦しむ人たちが存在する)」や、生産地の確保、廃棄物の焼却処理などに伴う環境負荷の問題として語られます。もちろん、「冷蔵庫に入れておいた料理が傷んで、もったいないことをした」という当事者の経済的な損失もあります。ただ、私たちは、食品ロスによりそれとは別の“隠れた損失”を被っているのです。

廃棄食品の処理費用は、いったい誰が負担しているのか?

食品ロスの出どころは2つある

ひとくちに食品ロスと言っても、その発生場所は大きく2つあります。1つは、スーパーやコンビニなど小売店での売れ残りや返品、飲食店での食べ残し、売り物にならない規格外品の廃棄といった「事業系食品ロス」。もう1つは、家での料理の作り過ぎによる食べ残し、買ったのに使わずに捨てられてしまうなどの「家庭系食品ロス」です。農水省の推計では、前者がおよそ5.4:後者が4.6という比率になっています(2017年度推計)。

家庭の食品ロスは税金で処理している

これらのロスは、ごく一部が家畜の餌などとして再利用されているのを除き、廃棄物(ゴミ)になります。家庭から出る食品ロスは、大半が生ゴミになり、紙ゴミなどと一緒に「燃えるゴミ」として居住地の自治体によって収集、焼却されます。

では、その一連の処理にかかる費用はどこから出ているのでしょうか?言うまでもなく、ゴミを出す住民の税金、つまり住民税です。家庭での食べ残しや食材の廃棄は、その購入費用が無駄になるだけでなく、納めた税金の「無駄づかい」も招いていることになるのです。

では「売れ残り」の処理費用は?

本題はここからです。自分たちで出したロスの処理を税金で負担するというのは、ある意味で自業自得かもしれません。でも、例えば「毎年節分の後に大量に廃棄される恵方巻の処理費用にも、私たちの税金が投入されている」と聞いたら、どんな感想を持つでしょうか?“隠れた経済損失”というのは、このことです。

この問題を追及している食品ロス問題ジャーナリストの井出留美氏の取材記事(「YAHOO!ニュース」2019年2月14日 「恵方巻きやバレンタインの売れ残りに税金8000億円近く投入」食品企業社員すら気づいていない真実とは)によれば、先ほど説明した「事業系食品ロス」の多くも、自治体の施設で(税金を使って)焼却処理が行われているのです。

事業所から出るゴミは、「事業系ゴミ」として、一般とは区別されているのではないかと思われるかもしれません。確かに食品ロスについても、流通に回る前に、食品工場などで発生したものについては、「産業廃棄物」として全額事業者が負担して処理されています。
ところが、いったん販売店などに並ぶと、たとえ同じ物であっても、法律上「一般廃棄物」の扱いになるところに、この問題のカラクリがあります。

整理すると、先述の「事業系食品ロス」のうち、製造段階で出るものは「産業廃棄物」とされ、流通段階で売れ残って捨てられるゴミは「事業系一般廃棄物」とされます。そして後者は「家庭系一般廃棄物」と同様に処理される、ということです。

実際には、スーパーやコンビニから出るゴミが、自治体のゴミ収集車で収集されるわけではありません。事業系一般廃棄物の処理には、事業者も一定のコスト負担をします。しかし、その処理に税金が使われているのは、確かなようです。

ゴミ処理にかかる費用は?

どこにコストがかかるのか?

先ほど焼却処理と言いましたが、ゴミは燃やせばなくなるわけではありません。残った灰や煤塵を廃棄物最終処分場に運んで捨てることで、やっと処理が完了するわけです。ゴミ処理の費用については、収集から焼却、残滓の廃棄までをトータルに考える必要があります。

焼却の際は、ゴミ自体が燃料になるのですが、着火などに重油を補助燃料として使います。有害なガスの発生を抑制し、熱を発電などに使ったりする施設が増えていますが、最新鋭の設備にはコストもかさみます。高熱が発生する設備ですので、丁寧なメンテナンスも欠かせないでしょう。

特に各自治体が頭を悩ませているのが「処分場」の問題です。コスト以前に、その確保自体が困難になっている自治体が少なくない状況は、ご存知の通りです。

食品ロスの処理に年8,000億円?

日本では、こうしたゴミの処理にどのくらいのお金がかかっているのでしょうか?
環境省の調査によれば、2019年度の一般廃棄物(事業系、家庭系)の処理事業経費は、2兆885億円に上りました。内訳としては、処理・処理施設の維持管理費が1兆5,518億円、施設の建設改良費が4,150億円などとなっています。

先ほどの記事では、自治体のデータなどを基に、処理費用全体に占める「食べ物ゴミ」の割合を40%と推計しています。それに従えば、年間約8,000億円もの税金が、販売店の売れ残りも含めた食品ロスの後始末に使われていることになるわけです。決して無視できる金額ではないでしょう。

まとめ

家庭での食べ残しや食材の廃棄だけでなく、販売店などで売れ残って捨てられる食品の処理にも、多額の税金が使われていました。食品ロスの削減については、このように納税者の視点から考えてみるのも、大事なことかもしれません。

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