法人事業税の分割基準とは?基礎から解説します!

[取材/文責]坂下慶太

法人事業税は都道府県に納める地方税です。2つの都道府県で活動する法人はそれぞれの都道府県に法人事業税を納めることになりますが、「分割基準」はこうした場合に各都道府県に納めるべき納税額を具体的に決定するためのルールです。今回は、法人事業税の仕組みを確認したうえで分割基準について解説します。

法人事業税とは

法人事業税は都道府県税

法人税は税務署に納めるにも関わらず、法人事業税は都道府県の税務課に納めます。この納付先の違いを疑問に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。税金は大きく国税と地方税に分かれ、地方税はさらに道府県税と市町村税に分かれます。東京23区は特別な行政区であるため法律的には都民税と道府県民税は別立てになっていますが、一般的には「都道府県税」と表します。

 

法人税は国税であるため国税を扱う税務署が管轄し、法人事業税は都道府県税なので都道府県の税務部門が管轄しています。法人事業税は、法人が事業活動を行うときにはそれぞれの都道府県の行税サービスを受けるため、必要な経費は各都道府県が分担するべきであるという考えで事業そのものに課される税金です。

法人事業税の税率

法人事業税は、法人の種類や資本金ごとに課税方式や税率が決まります。法人事業税の課税方式には、所得に課される「所得割」、付加価値に課される「付加価値割」、資本金などに課される「資本割」、収入に課される「収入割」があります。課税方式は法人の種類や資本金によって決まります。

 

  • 資本金1億円超の普通法人には、付加価値割・資本割・所得割が課されます。
  • 資本金1億円以下の普通法人・公益法人・投資法人などには所得割が課されます。
  • 電気供給業・ガス供給業・保険業などには収入割が課されます。
  • 電気小売業で資本金1億円超の普通法人などの場合、収入割・付加価値割・資本割が課されます。
  • 電気小売業で資本金1億円以下の普通法人などの場合、収入割と所得割が課されます。

 

法人は上記の仕組みで分類され、それぞれに対して、「標準税率」「超過税率」「軽減税率」が課されます。

 

  • 標準税
    上記の区分に従って設定される全国共通の税率です。「所得割」では収入の段階ごとに別々の税率が設定されています。
  • 超過税率
    都道府県が独自に設定する、標準税率をかさ上げする税率です。
  • 軽減税率
    資本金や出資額が小さい法人に適用される税率です。「標準税率」と「超過税率」のそれぞれに対し、規模の小さい法人のための税率である「軽減税率」が設定されることになります。

 

法人事業税の税率の決まり方は複雑ですが、一般的な中小企業には「所得割」、つまり所得課税が適用され、中でも規模が小さい場合は軽減税率が適用されると考えるとわかりやすいでしょう。

外形標準課税とは

外形標準課税は2003年度(平成15年度)の税制改正において創設された、法人事業税を課税するときの仕組みです。外形標準課税の導入には、

 

  • 事業規模に応じて薄く広く公平に課税すること
  • 受益に応じた負担を求めること
  • 税収を安定さて行政サービスを安定的に提供すること
  • 努力した企業、収益性が高い企業が報われること

 

といった狙いがあります。

 

外形標準課税の対象は、資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人です。制度導入当初は法人事業税のうち1/4が外形標準課税でしたが、次第に拡大され2016年度(平成28年度)には5/8に引き上げられました。

法人事業税の分割基準とは

1つの都道府県で活動する法人の場合、法人事業税は活動する都道府県に納めます。2つ以上の都道府県で活動する法人は、法人事業税の趣旨に従ってそれぞれの都道府県に分割して法人事業税を納めることになります。法人事業税の分割基準とは、2つ以上の都道府県にまたがって活動する法人が、それぞれの都道府県にいくらの法人事業税を納めるのかを決定するルールです。分割基準が適用される場合、都道府県ごとに定まる超過税率は適用されずに標準税率か軽減税率が適用されます。法人の区分に応じて分割の仕方はさまざまですが、多くの中小企業は事業所の数と従業員の数に応じて法人事業税が分割されそれぞれの都道府県に納付します。

分割基準の決まり方

ここでは、多くの中小企業に適用される、事業所の数と従業員の数で定まる分割基準の決まり方を解説します。この方式では、課税総額の半分に事業所等の数に応じた分割が、残りの半分に従業者の数に応じた分割が適用されます。

事業所等の数

事業所を実際に所有しているか否かに関わらず、事業のために人的・物的設備が継続的に行われる場所を事業所として数えます。2~3か月程度の一時的に用いられる場合は事業所として数えません。その他事業所等の数え方について細かい規則が設定されており、事業年度に属する各月の末日現在の事業所数を合計した数を基に分割します。

従業者の数

従業者とは、俸給・給料・賃金・手当・賞与などなんらかの給与の支払いを受けるはずである者のことを指します。ここでいう従業者には、経営者や経営者の家族で働いている人、役員、アルバイト、パート、派遣社員、無給の非常勤役員も含まれます。

 

従業者の数は、事業年度の終了日に事業所ごとに数えます。新設したり廃止したりした場合は月数で按分し、従業者の数が年度内に大きく変動した場合は各月の平均をとります。

課税額の計算例

それでは具体的に、軽減税率が適用される小売業の場合について分割基準のシミュレーションを行ってみましょう。細かい部分は省きますが、基本的には以下のステップで計算します。

 

  • 課税所得金額を税率の段階区分に振り分ける
  • 振り分けられた金額を半分ずつに分ける
  • 半分に分けられた金額を、それぞれ事業所等の数と従業者の数で按分する
  • 按分された金額を合算して各都道府県に納付するべき法人事業税を算出する

 

各ステップで端数が生じたときには1,000円未満を切り捨てます。

 

なお東京都のサイトには、36,173,000円の所得に対して分割基準と軽減税率を適用することで、1つの県に843,200円の法人事業税を納めることになったという計算例が掲載されています。

分割基準の手続き

法人事業税は都道府県に申告して納付します。法人事業税を確定申告するときに、「課税標準の分割に関する明細書」を添付して分割基準に従った申告を行います。

法人住民税の分割基準

法人に課される地方税は法人事業税だけではありません。法人は法人住民税も納める必要があり、法人住民税には都道府県税と市町村税があります。法人事業税が事業そのものに課される税金であるのに対して、法人住民税はその地域に住民として存在していることに対して課される税金です。

 

法人住民税は、資本金等と従業者数だけから決まる「均等割」と法人税に税率を掛けて定まる「法人税割」を合計して算出します。複数の都道府県にまたがって事業を営む企業の場合、「均等割」は事業所がある都道府県・市町村ごとに課されるので分割基準は必要ありません。「法人税割」部分は法人税を従業員数に従って都道府県・市町村ごとに按分し、その金額に対して都道府県・市町村が定めた税率を乗じて計算します。

 

☆ヒント
法人事業税の仕組みや分割基準は複雑です。これまで自分で法人事業税の申告を行ってきた方々も、複数の都道府県で事業を営むようになった段階で税理士に依頼することをおすすめします。法人関係の税務の煩雑さを引き受けるだけではなく、節税や経営改善といった「攻めの税務」ができる税理士を選びましょう。

まとめ

複数の都道府県で事業を行う場合、都道府県税である法人事業税は分割して納めることになります。各都道府県に納める法人事業税を具体的に決定するルールが、法人事業税の分割基準です。法人事業税や分割基準の仕組みはかなり複雑なので、申告は税理士に任せた方がいいでしょう。この記事によって分割基準の理解が深まれば幸いです。

東京大学卒。米国大学院に進学予定。東証一部上場企業にて経理業務を担当。経理業務で体得したスキルや知識を中心に解説していきます。

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