夫婦で住宅を共有名義で購入するときに注意すべき「持分割合」とは割合の変更時にも税金がかかる!?

[取材/文責]マネーイズム編集部

夫婦で住宅を購入するときに、それぞれが資金を出し合って共有名義にすることは、珍しくありません。ただ、その際、気をつけたいのが不動産の「持分割合」です。「正しく」登記されていないと、贈与税が課税される可能性があることをご存知でしょうか。そもそも持分割合とはどういうものか、またそれを変更する場合の注意点なども含めて解説します。

不動産の共有とは

不動産を取得したら「登記」が必要

住宅(土地・建物)を購入したら、法務局で土地・建物それぞれの「登記」をする必要があります。登記簿に記載されることによって、その不動産に対する所有権が“公認”されるのです。

その際、不動産の名義は、「単独」でも「共有」でもかまいません。原則として、購入資金を1人が負担する場合はその人の「単独名義」、夫婦の両方が拠出して購入するようなときには2人の「共有名義」となります。

このうち持分割合が問題となる不動産の共有について、最初に説明しておきましょう。

共有のメリット

住宅を夫婦の共有名義で取得する(双方がお金を出し合って購入する)ことには、次のようなメリットがあります。

(1)購入資金に余裕が生まれる

住宅の購入資金をそれぞれが拠出して合算することで、より条件のいい物件を取得できる可能性が広がります。夫婦それぞれが住宅ローンを組む「ペアローン」を利用すれば、同じ効果が期待できます。

(2)要件を満たせば「住宅ローン控除」をダブルで受けられる

共働きの夫婦が住宅ローンを利用している場合、一定の要件を満たせば、2人とも「住宅ローン控除」の対象となります。

住宅ローン控除は、ローンの年末残高の一定割合が、所得税及び住民税から控除される(差し引かれる)制度です。ただ、2022年税制改正で、24年以降入居の新築住宅についての最大控除額が引き下げられるなど、控除の条件は厳しくなる方向にあります。

(3)住宅を売却する際の特別控除額が増える

不動産を売って得た利益は、所得税の課税対象です。しかし、「住んでいた家を売る」など一定の要件を満たせば、売却益のうち3,000万円までは、非課税となる制度があります(「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)。この特例は、所有者ごとに適用されるので、夫婦の共有ならば、合わせて6,000万円まで非課税とすることができます。

共有のデメリット

他方、不動産の共有にはデメリットもあります。

(1)売却には他の共有者全員の承諾が必要

共有の不動産は、他の所有者の承諾なしに勝手に売却することはできません。不動産を売却するときには、共有名義になっている名義人全員の署名・捺印が必要になります。

なお、この不動産の共有で特に気をつけなくてはならないのは、親から複数の子への相続です。相続で不動産が兄弟の共有になった場合、そのうちの誰かが亡くなれば、共有部分はその子どもが相続することになります。そうやって、共有者が増えるだけでなく、お互い同士が疎遠になっていき、不動産がどんどん「動かしにくく」なるリスクがあるのです。

(2)離婚すると処理が大変になる

夫婦に話を戻すと、共有名義の不動産を持った状態で離婚した場合には、難しい問題に直面する可能性があります。住宅にどちらが住み続けるのか(あるいはどちらも住まないのか)、住宅ローンの残高がある場合、その支払いはどちらがするのか、といった点に答えを出さなくてはならないわけです。

さきほどのペアローンを利用していた場合には、2人で支払い続ける、売却してローン返済に充てる、といった方法から選択する必要があります。前者の場合は、ローンを完済しても、共有の状態は解消されません。後者では、売却額がローン残高を下回るなどのデメリットを被る可能性があります。

共有名義の持分割合とは

ここからは、説明したような共有名義で自宅を購入した場合の持分割合について考えていきます。

持分割合の原則

自宅の登記の際に、夫婦の双方が購入資金を負担して共有名義にする場合には、名義人を2人にするだけでなく、その持分を決める必要があります。この持分は、ローンも含めた住宅購入資金の負担額の割合に応じて登記するのが原則です。

仮に5,000万円の住宅を購入する際に、夫が頭金+住宅ローンで4,000万円、妻が頭金1,000万円を負担したとします。このケースでは、それぞれの持分割合は、夫が4/5、妻が1/5とする。これが原則です。

負担と持分割合がズレていると、贈与になる

ただし、これはあくまで原則で、手続きに従い、登録免許税などを支払って登記を行えば、持分割合の設定は基本的に「自由」です。夫と妻の負担額が違うのに、持分割合をそれぞれ1/2ずつにしたりしても、登記自体が無効になるわけではないのです。しかし、そのように負担額と持分割合が一致しない場合には、一方に贈与税が課税される可能性があることには、注意が必要です。

どういうことなのか、説明しましょう。今の5,000万円の住宅購入の例で、持分割合を夫も妻も1/2にしたとします。この場合、贈与税の課税対象になるのは妻です。税務署は、この登記によって、妻が金額に換算すると5,000万円×1/2=2,500万円の住宅を取得した、と解釈します。しかし、実際に負担しているのは1,000万円。ですから、差額の1,500万円(持分割合で2/5)については、「夫から妻への贈与」とみなされるのです。

ちなみに、基礎控除(※)なども踏まえてこのケースの贈与税を計算すると、450万5,000円になります。贈与額が1,000万円なら税金は231万円、500万円なら53万円です。

※贈与税には、年間110万円の基礎控除があり、その範囲の贈与については課税されない(暦年課税の場合)。

持分割合の変更なども贈与税の課税対象になる可能性が

一方、勤務先の持ち家補助制度を受けるため、あるいは相続税対策などとして、住宅に住み始めてから持分割合の変更を検討することも考えられます。そうした場合にも、持分の移転に伴って贈与税が発生することがあるのです。

(1)持分割合を変更した

持分割合の変更を行った場合は、持分の譲渡を受けた側に贈与税が発生します。仮に5,000万円の住宅の1/5の持分を譲渡された場合には、1,000万円の贈与を受けたものとして課税されることになります。

なお、どちらかが共有持分のすべてを相手に譲った場合には、共有は解消され、住宅は単独名義となります。

(2)単独名義の住宅を共有に

反対に単独名義だった住宅を共有名義に変更する場合にも、同様に譲渡を受ける側に贈与税が発生します。

(3)住宅ローンの残りを夫婦の一方が完済した

また、夫婦の一方が住宅ローンを完済したときにも注意が必要です。現金を贈与したのと同じとみなされ、相手方に贈与税が課される可能性があるからです。

ただし、支払った金額に合わせて持分割合を変更すれば、贈与ではなく「共有者間での売買」になります。この場合、課税されるのは贈与税ではなく、譲渡所得税です。

贈与税と譲渡所得税のどちらが有利なのかは、ケースバイケースで、単純比較はできません。多額のローンを返済する際には、税理士に相談してみることをお勧めします。

(4)リフォームや増改築費用を共有者の片一方が負担した

建物のリフォームや増改築費用も「不動産の取得費」になるため、夫婦の一方が費用を負担した場合は、その費用が相手側への贈与とみなされます。

課税を避けるためには、持分割合に応じて双方が費用を分担する、負担額に応じて持分割合を変更する、といった手立てが必要になります。

結婚して20年経っていれば、2,000万円まで非課税になる

ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦については、居住用不動産の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できる、という特例があります。

この控除は、共有持分の譲渡に関しても適用されます。つまり、結婚して20年経っていれば、2,110万円までの持分割合の変更については、贈与税がかかりません。なお、この配偶者控除の特例を受けるためには、贈与税の申告が必要ですから、忘れないようにしましょう。

まとめ

夫婦の共有で住宅を持つ場合、持分割合を軽視していると、想定外の贈与税を課されるかもしれません。将来的な持分割合の変更にも、課税の可能性があることを頭に入れておきましょう。不明な点は、税理士などの専門家に相談を。

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