支払いを受けた慰謝料に税金はかかる?かかるとしたらどういう場合?

[取材/文責]橋本玲子

何らかの被害を受けた人が加害者側から受け取ることができるお金の一つに「慰謝料」があります。この慰謝料として受け取ったお金は課税対象となるのでしょうか。
まずは慰謝料が何のために支払われるかを理解することです。そうすれば自ずと答えは見えてくるでしょう。

慰謝料ってそもそもどういうお金?

慰謝料という言葉は新聞や雑誌などでよく見かけますが、その本質やいわゆる「相場」については意外と曖昧な方もいるかと思います。本項では慰謝料の意義について詳しく説明します。

慰謝料は「精神的苦痛」に対する賠償

慰謝料は、法的には「不法行為を起こした者が「財産以外の損害」を賠償するために支払うお金の総称(民法第709・710条、以下同)」と定義づけられています。 
不法行為とは故意過失に関わらず他人の権利や保護されるべき利益を侵害することですが、その際侵害された側(被害者)は、自身の利益を失うだけでなく精神的な苦痛を伴うことが少なくありません。財産的損失は損害賠償金を得れば一応の決着を見ますが、精神的な苦痛は元に戻す手立てがありません。そこで「財産以外の損害」の対価=慰謝料として金銭に換算するしかないのです。

不法行為のうち、一般的によく見聞きする慰謝料が発生するケースとしては、

  • 離婚の際の慰謝料
  • 不倫相手に求める慰謝料
  • 交通事故の加害者に求める慰謝料
  • 名誉毀損をした相手へ求める慰謝料

 

などがあります。

離婚すること自体は不法行為ではありませんが、夫婦のいずれかの行為(DVや不倫、生活費を入れないなど)が離婚原因であった場合、夫婦の協力や扶助に対する義務(同752条)に違反して相手方の配偶者としての権利を害したといえ、不法行為が成立し、慰謝料支払い義務が発生するのです。

では、それぞれのケースでの慰謝料の相場はいくらくらいなのか見ていきましょう。
まず離婚の場合、目安となるのが離婚裁判(調停含む)時に裁判所が判断する額です。決まっているわけではありませんが、だいたい300万円くらいまで、多くても500万円までとなっているようです。
もちろん養育費や財産分与とは別に請求できます。
次に不倫相手の場合、その結果離婚に至るか至らないかでも変わってきますが、裁判上の目安は多くても300万円までのようです。余談ですが、離婚に至らなかった場合、慰謝料を不倫相手にだけ請求しても、配偶者も共同不法行為者(同719条)として連帯責任を負うため、配偶者は不倫相手から求償される可能性があります。
交通事故の場合、死亡、後遺障害、入通院それぞれに慰謝料を請求できます。相場は死亡や重度の後遺障害の場合2000~3000万円となっています。もちろん逸失利益や休業損害については別計算です。
最後に名誉毀損の慰謝料は、個人の場合せいぜい数十万円程度です。被害者としては裁判においてあくまでも「名誉毀損の事実があった」ことの認定が主目的であることが多いからという理由が推定されます。

慰謝料は損害の補填だから税金はかからない

そもそも税金とは、所得や相続などでその年に新たに「増えた」各人の財産(利益)に対して掛けられるものです。
しかし損害賠償金は、相手の行為により失った財産、すなわち損害を補填するために支払われます。つまり損害賠償金を受け取ってもそれは利益と言えないので、自身の財産が増えることにはなりません。したがって税金の対象とはならないのです。
そして慰謝料も損害賠償金の一種であり、精神的な苦しみや傷つきを(実際にそれで補えるかどうかはさておき)補填するために手にするお金であることから、同様に課税対象にはなりません。

では、被害者側が求めていないのに加害者がせめてものお詫びの気持ちとして慰謝料を支払った場合、贈与税の対象となり得るのでしょうか。
加害者は不法行為を行った時点で、被害者が求めると求めないに係らず前述の民法第710条による慰謝料支払義務を負います。一方贈与は、何ら義務を負わない者が相手に対し無償で財産を与える行為(同549条)であり、全く性質が異なります。したがって贈与税の課税対象にもなりません。

慰謝料に税金がかかる場合とは?

慰謝料の意味が分かればそこに税金が発生するものではないことも理解できます。しかし原則には必ず「例外」があるもの。慰謝料に税金がかかる場合も少なからずあるのです。

一般的な慰謝料の額よりはるかに多い場合

実際には慰謝料の額に上限の決まりはありません。要は当事者同士が話し合い、お互い納得ずくであれば、原則額がいくらであっても問題はないのです。有名人が離婚して億単位の慰謝料を支払うことも時たま見かけますね。
しかし一般的には、社会通念から想定される慰謝料の額より極端に多い額を受け取った場合、相当であるとされる額を超えた部分が贈与であると判断され、贈与税の対象となる可能性があることに注意が必要です。「相当であるとされる額」は不法行為の程度や両当事者の収入などからの総合的判断となります。

慰謝料を受け取る前に本人が亡くなった場合

交通事故などの被害者が加害者から慰謝料を受け取ることが決まった後、実際に受け取る前に亡くなってしまった場合、被害者の相続人が当該慰謝料の請求権を相続することになります(昭和42年11月1日判例による)。つまり「慰謝料請求権」は相続財産であると解釈されるのです。したがって、慰謝料を含む相続財産の総額から控除される額を除いた残額に相続税がかかることになるのです。
一方、被害者が事故などで亡くなった後、相続人である遺族が加害者に慰謝料を請求した場合に相続税は問題になりません。被害者の死により遺族自身が負った精神的苦痛への損害賠償であり、元々遺族に慰謝料請求権があるからです。

実質「収入」とみなされた場合

例えば商品を運ぶトラックが事故に遭い、商売用の商品が破損したとして、その代金を加害者に弁償してもらった場合を考えてみましょう。
一見「損害」の「賠償」といえそうですが、本来商品は市場で取引されるためのものです。代金の弁償を受けたということは、その商品は(たとえ壊れて商品としての価値がなくなったとしても)市場で取引され、対価を得た場合と同じだと考えられます。したがって、仮に名目が「慰謝料」であったとしても、原則として所得税の対象になるのです。
もちろん運搬していたトラックは商品でなく財産ですから、破損した場合の損害賠償、そして運転手がケガをした場合の慰謝料は別途請求でき、課税対象となりません。
 

まとめ

慰謝料は、他人からの不法行為で被害者側が負った精神的ダメージを損害と考え、その損失を金銭に換算して支払うことで補填するためのお金ですから原則非課税となります。ただし精神的損害は目に見える損失ではないため、その額については他の似たような事案から推し量るしかありません。そのため、同様の事案で通常想定される額より極端に高額の慰謝料を受け取った場合には慰謝料と言えども課税対象になり得ることがあるのです。

行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。

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