日銀総裁の交代はいつ?新総裁の植田氏はどんな人物?円安・株価・金利・・・経済への影響

[取材/文責]田中あさみ

日本銀行の総裁が10年ぶりに交代します。現総裁の黒田氏から新総裁の植田氏に代わるのはいつでしょうか?中央銀行の総裁交代で政策・方針が変わり、私たちの生活に影響はあるのでしょうか?
日銀総裁の交代について、現総裁黒田氏の功績と新総裁植田氏の人物像や政策などを解説していきます。

日銀総裁の交代は4月9日。学者出身の植田氏起用は戦後初の「サプライズ人事」

黒田総裁の任期は4月8日まで。戦後初の学者出身の総裁誕生へ

日本銀行の新総裁が植田和男氏に決定しました。2013年の黒田東彦氏以来、10年ぶりの総裁交代となります。
植田氏は1951年生まれの71歳で、戦後初の学者出身の総裁となる予定です。
戦後、日本銀行の総裁に就任した人物の多くは日本銀行の元職員や旧大蔵省・財務省の元官僚でした。海外では学者が中央銀行の総裁を務める事例は珍しくないものの、植田氏の起用には市場関係者から「サブライズ人事」との声が出ました。

黒田総裁の実績とは?異次元金融緩和の恩恵と負の側面

日本銀行現総裁の黒田氏(2023年3月時点)は、2013年に総裁に就任しました。
黒田総裁の下で日本銀行はアベノミクスの一環「異次元金融措置」を展開していきます。
国債や上場投資信託(ETF)を大量に買い入れる事で市場に資金を供給する金融緩和を実施し、2016年1月にはマイナス金利政策(金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に▲0.1%のマイナス金利を適用)と大胆な金融緩和措置を主導しました。

黒田氏は「リフレ政策」をとっていました。
リフレとは物価が下がるデフレーションを脱却しながらもインフレーション(物価上昇)には至らない緩やかな上昇局面です。
不況下で生産・経済活動が停滞している間に、インフレーション(景気過熱)を避けつつ金利の引き下げ・財政支出の拡大によって市場を刺激し景気回復を目指す事を「リフレ政策」と呼びます。

2016年9月には、「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を導入します。イールドカーブ・コントロールとは、短期金利をマイナス1%に誘導する一方で、長期国債を買い入れ利回り(金利)0%に誘導する政策です。

日本銀行が公表した「金融緩和強化のための新しい枠組み」によると、イールドカーブ・コントロールは①2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、②量的・質的金融緩和の政策枠組みを強化する事を目的として導入されました。

上記のような金融緩和政策により円安、景気回復の支援、デフレ回避などの効果が生まれました。
一方で、円安による輸入コストの増加・金融市場機能の低下といったマイナス面が課題として次の総裁に引き継がれる事になりました。

新総裁・植田和男氏の人物像と政策とは

新総裁・植田和男氏はどのような人物なのか

新総裁の植田氏は一体どのような人物なのでしょうか?まずは経歴を見ていきましょう。
東京大学の理学部を卒業し大学院に進学、その後アメリカのマサチューセッツ工科大学の大学院に留学します。博士号を取得し、カナダのブリティッシュコロンビア大学の助教授、大阪大学・東京大学の助教授を務めます。
1993年には東京大学経済学部の教授となり、1998年には日本銀行の審議委員(政策を決定する委員会の一員)に就任しました。

2023年3月現在は、共立女子大学ビジネス学部の学部長としてマクロ経済学や金融論、国際金融論などを研究・教育しています。

「時間軸効果」の生みの親で、過去には量的緩和策の効果について否定的な見解も

植田氏は金融緩和の効果を高める「時間軸効果」の生みの親と言われています。
植田氏が日本銀行の審議委員をしていた2001年3月から開始した量的緩和政策において、日本銀行が「消費者物価指数の前年比が安定的に0%以上になるまで同政策を続ける」と約束した事で長期金利低下のプレッシャーを与え金融緩和の効果が高まったとされています。

このように、将来の金融政策の方向性を現時点でコミットメント(公約)する事で将来の期待に対して時間軸に沿って生まれる効果を「時間軸効果」と呼ぶようになりました。

また、植田氏は2016年の論文「マイナス金利政策の採用とその功罪」で、資金の「量」を目標に金融緩和を進める「量的緩和策」に否定的な見解を示しています。
黒田氏のように積極的な金融緩和を推し進める「リフレ派」ではありません。植田氏が総裁に就任した際には、日本銀行の政策委員会のメンバーも代わりリフレ派が減る予定です。
一方で、衆議院の所信聴取では「金融緩和政策を続けていく」という発言がありました。

「現状では金融緩和の継続が必要」との発言

2023年2月の衆議院における所信表明で、植田氏は「日銀が行っている金融政策は適切。金融緩和を継続し、企業が賃上げできる環境を整える」と発言しました。日本銀行が目標とする2%の物価上昇については「持続的・安定的に達成するには時間がかかる」と述べました。

国債購入については「最大の目的は持続的・安定的な(物価上昇率)2%目標の達成」との事で、2%目標を達成した際には「大量の国債購入は止める判断になると考える」という見解を示しました。

日本銀行総裁就任については「発言や行動が市場や国民生活などに大きなインパクトを及ぼしうることを十分認識し、職責を果たしたい」「積年の課題だった物価安定の達成というミッションの総仕上げをする5年間としたい」と述べています。

日銀総裁の交代で、円安・株価・金利・・・どのような影響がある?

植田氏は市場関係者から「学者らしくデータに基づいた運営をするのでは」「バランスがとれている」などと評価されています。私たちの生活に影響を及ぼす円安や株価、金利については今後どうなるのでしょうか?

注目ポイント①:10年続いたリフレ政策から転換?

黒田総裁は大規模な金融緩和で市場を刺激し、緩やかな物価上昇と景気回復を目指す「リフレ派」でした。しかし植田氏はリフレ派とはやや距離を置いている立場と言えます。
金融緩和は続けていくものの、物価上昇率2%目標を達成すると「大量の国債購入は止める判断になると考える」という発言もあります。今後の市場の動向によっては、10年続いた黒田氏のリフレ政策から転換する可能性があります。
これまでの路線から転換した場合、円安や低金利は変化が生じる可能性が高いと言えます。
円や金利に対する影響は、株価への波及も予測されます。

注目ポイント②:イールドカーブ・コントロールは見直し?

植田氏は過去の論文などで長期金利の決定が困難であり問題点がある事を述べています。
イールドカーブ・コントロールは、以前から長期金利の金利が予想以上に上昇し市場に混乱を招くリスクが指摘されていました。
よって、長期・短期の金利を操作するイールドカーブ・コントロールを変更・廃止する事があるかもしれません。

4月下旬の金融政策決定会合に注目

植田氏は4月9日から5年間、日本銀行総裁を務める予定です。

決定会合は4月27・28日の金融政策決定会合が初めてとなります。金融政策決定会合は「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を改訂する会合で、物価の見通しや消費者物価指数などが注目されています。
まずは4月下旬の金融政策決定会合に注目していきましょう。

まとめ

日銀総裁の交代により、リフレ政策からの転換やイールドカーブ・コントロールの見直しが予測されます。路線を転換した場合、円や金利、株価にも影響を及ぼすでしょう。まずは4月下旬の金融政策決定会合に注目していきましょう。

大学在学中に2級FP技能士を取得、会社員を経て金融ライターとして独立。金融・投資・税金・各種制度・法律・不動産など難しいことを分かりやすく解説いたします。米国株・ETFなどを中心に資産運用中。CFP(R)の相続・事業承継に科目合格、現在も資格取得に向けて勉強中。

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