所得税(個人事業主)と法人税(法人)の計算の違いとは?

[取材/文責]岡和恵

所得税と法人税では税金計算についての考え方に多くの違いがみられます。それぞれの税金について、所得の計算方法や税率が異なっているからです。現在、個人事業主で、法人成りをしたらどうなるのかと考えている方向けに所得税と法人税の違いをいくつかご紹介します。

個人事業主の税金、法人の税金

個人事業主の税金計算

個人事業主は決算にあたって1月から12月までの所得を計算します。その所得に所得税がかかってきます。実際には、それだけではなく所得に応じて地方税もかかりますし、業種によっては事業税もかかります。売上高などによって消費税もかかってきます。

 

  • 所得税
  • 個人住民税(都道府県民税、市区町村民税)
  • 個人事業税(業種による)
  • 消費税
  • 固定資産税(償却資産税)

法人の税金計算

法人については定款により事業年度が決まっており、事業年度単位で所得計算をした額に法人税がかかってきます。
また、個人事業主同様、所得に応じた法人住民税や法人事業税もかかります。そして、消費税もかかります。

 

  • 法人税
  • 法人住民税(都道府県民税、市区町村民税)
  • 法人事業税
  • 消費税
  • 固定資産税(償却資産税)

 

消費税や固定資産税については、個人であっても法人であっても計算に大きな違いはありません。

しかし、個人の場合は所得税の計算を元に個人住民税や事業税が、法人の場合は法人税の計算を元に法人住民税や法人事業税の額が決定します。

所得とはなにか

所得税法や法人税法において、「所得」そのものを明確に定義している条文はありません。所得税と法人税の考え方の違いで、最初に挙げておきたいのはこの「所得」の考え方です。

 

所得税の考え方では、個人消費を含む経済活動全体から個人の所得を求めます。所得税において、所得の金額とは、「その年の収入金額からその収入を得るためにかかった必要経費や税法で定められている控除額を引いた残りの金額」をいいます。所得税法の所得は、「収入-必要経費や控除」で計算します。

 

また、所得税には10個の所得区分があり、それぞれの区分によって所得の計算方法が異なります。個人個人が税金を負担できる能力を「担税力(たんぜいりょく)」といい、一般に所得区分はそれぞれの個人の担税力の違いを考慮されているといわれています。

 

一方、法人税は営利追及を目的とする活動から利益を得ており、法人税法の所得は原則として「益金-損金」で計算します。それぞれの法人が定めた事業年度(1年間)単位で、益金から損金を差し引いて課税所得金額を求めます。法人税においては、所得区分という考え方はありません。

 

それでは、それぞれの所得に対する考え方の違いを見てみましょう。

所得税vs法人税

収入vs益金

まずはそれぞれの条文を比べてみます。

 

所得税法の収入:「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」(所得税法36-1より抜粋)

 

法人税法の益金:「その事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で当該事業年度の収益の額とする。」(法人税法22-2より抜粋)

 

収入と益金についての違いの1つとして、法人税では無償でモノを譲っても益金としなければなりません。

 

例えば、時価100万円の絵画(取得時30万円)を個人にタダであげたとしたとします。

法人税法では、会社から個人に100万円の寄附をしたことになります。法人税における寄附金は特別なものを除き、損金不算入、つまり課税対象となります。これは、法人税法が無償取引をした者と有償取引をした者との間の税負担の公平を維持しているからという説があります。しかし、個人から個人に100万円相当の絵画を贈与しても所得税法では認識しません。

必要経費vs損金算入

同じように所得税と法人税の条文を並べてみます。

 

所得税法の必要経費:「不動産所得、事業所得、雑所得の計算上必要経費に算入すべき金額、収入金額に係る売上原価その他その収入金額を得るため直接に要した費用、その年における販売費、一般管理費その他」(所得税法37-1より抜粋)

 

法人税法の損金:「その事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その事業年度の収益に係る売上原価その他原価の額、その事業年度の販売費、一般管理費その他」(法人税法22-3より抜粋)

 

所得税の経費と法人税の損金の考え方には実に多くの差があります。いくつかの差のうち、代表的な3つを挙げます。

 

1つは、所得税に設けられた10の所得区分による差です。例えば、事業所得において事業で利用している建物を売った場合は、原則として事業所得ではなくなり譲渡所得として扱われ、計算方法も税率も変わってきます。所得税法では、どの所得区分に属するのかによって経費や控除の考え方が違います。しかし法人税では、自社建物を売っても他のものと一緒に法人の課税所得の中に含まれます。

 

2つめは、損失の取り扱いです。所得税では、損失について必要経費に算入できるとは規定せず、災害・盗難等や事業上の貸倒れ損失等など一定の損失のみを必要経費とすることを認めています。法人税では、原則として費用と損失を所得税のように区別していません。

 

3つめは、家事費や家事関連費の問題です。所得税を支払う納税者は、個人が生活のために収益を得て、その収益で生活を維持させるべく消費をしています。ですので、公私混同を避け、家計のための支出である家事費などが含まれた家事関連費に対して区分することを求めています。

 

個人に対してはその支出が事業活動なのか、家計のための消費活動なのかを見極めて、明らかに区分できないものは経費として認めないとしています。一方、法人は営利追求のため、事業活動における支出については、原則として「損金」と認められます。もちろん、法人であっても事業に関連のない支出は認められません。

法人成りのねらいとは

今までのことを踏まえて、個人事業主が法人成りをするとどのように変わるのかを見ていきましょう。つまり、支払う税金が所得税から法人税になるとどう変わるかということです。

 

「法人成り」とは、一般に個人事業主として事業をおこなっていた者が、株式会社や合同会社などの法人を設立し、その法人において事業を引き継いでおこなっていくことをいいます。

 

結論からいいますと、所得が大きくなれば法人成りをすると税金の負担は減るといえます。

 

主な理由は次の2つです。

①所得税は累進税率であるのに対し法人税率は一定であること。

税率では法人税が有利といえます。以下が税率表です。

 

<所得税率>

課税される所得金額 所得税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

 

<法人税率>

課税所得 法人税率
年800万円以下の部分 15%又は19%
年800万円超の部分 23.20%

②本来は個人事業主として課税される所得が法人からの報酬として受け取る場合、所得税の給与所得控除を受けることができる。

下の図で法人の方が課税される部分(課税所得)が少ないことがわかります。

 

 

また、その他の理由として、損失があった時に損失を繰越して、将来の所得と相殺できます。所得税では最大3年間の繰越が可能ですが、法人税では10年間の損失を繰越できる制度は法人成りの魅力といえます。

まとめ

個人事業主が法人成りによってさまざまな利点はありますが、法人税の申告書は所得税と比べて複雑です。多くの「別表」からできていて、税理士に依頼した方がよい場合もあります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にも法人税のメニューはまだありません。法人成りをする場合は法人税の申告についても事前に考えておいたほうがよいでしょう。

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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