事業税と違う税金?事業所税について堺市の法人を例に解説

[取材/文責]阿部正仁

よく耳にする「事業税」とは違い、「事業所税」はあまり聞きなれない方も多いのではないでしょうか。この事業所税は堺市でも課税され、申告書も自分で作成しなければなりません。もちろん税金の計算方法や課税対象となる法人も異なります。そこで、事業所税について税金の計算方法や税務調査の手法などを網羅的に解説します。

事業所税とは

事業所税とは文字通り「事業所」に対して課税する税金です。事業規模が納税額の計算ベースであり、所得金額に課税する事業所税とはルールが異なります。それでは、制度のアウトラインを紹介します。

大都市の環境整備および改善事業に充てられる目的税である

そもそも事業所税は大都市の環境整備および改善事業に充てられる目的税であり、税収の使い道が限定されているのが特徴です。政令指定都市である堺市も大都市に該当するため、事業所税の課税対象となる地域になります。

納税義務者は中規模以上の法人または個人

事業所税には、事業所の床面積に応じて課税される「資産割」と、従業者の給与総額に応じて課税される「従業者割」があります。

 

事業所税の納税義務があるのは、堺市の場合、市内にある事業所(事務所、店舗、工場、倉庫など)において事業を行っている法人または個人です。

 

ただし、資産割あるいは従業者割それぞれの免税点に当てはまる場合は、納税は不要となります。

 

また、資産割あるいは従業者割のどちらか一方は免税点に当てはまり、もう一方が免税点に当てはまらない場合は、免税点に当てはまるものだけ納税しなければなりません。

 

資産割と従業者割、それぞれの免税点を確認していきましょう。

(1)資産割

資産割の免税点は、年度末時点の事業所床面積が1,000平方メートル以下であることです。事務所・店舗・工場・倉庫だけでなく、これらに附属する材料置場・作業場・ガレージ・無人倉庫など継続して事業遂行する目的の施設が事業所になります。そのため、「社宅、社員寮などの人の居住の用に供するもの」や「設置期間が2~3ヶ月程度の仮事務所、仮小屋などの事業に継続性のない施設」などは床面積の算定から除かれます。

(2)従業者割

従業者割の免税点は、年度末時点の従業者数が100人以下であることです。従業者の範囲には役員や正社員などであり、次の者は除かれます。

  • 役員を除いた65 歳以上の者
  • 役員を除いた障害者
  • 無給の役員
  • 労働時間が正規従業者の 4分の 3 以下のパートタイマー
  • 中途退職者
  • 派遣法に基づく派遣社員
  • 保険外交員で事業所得のみの者

など

 

上記の免税点を元に、納税義務者の判定例を示します。
 

  • 例1)事業所床面積1,200平方メートル、従業者数120人の法人
    資産割と従業者割の免税点をともに超えるため、納税義務者になります。
  • 例2)事業所床面積700平方メートル、従業者数70人
    資産割と従業者割の免税点以下のため、納税義務者になりません。
  • 例3)事業所床面積1,200平方メートル、従業者数70人
    資産割の免税点を超えるため、納税義務者になります。
  • 例4)事業所床面積700平方メートル、従業者数120人の法人
    従業者割の免税点を超えるため、納税義務者になります。

 

また、たとえ免税点に当てはまる事業者でも、次の場合は事業所税を申告しなければなりません。

 

  • 市内の事業所などの床面積800平方メートル以上の場合
  • 市内の事業所内の従業者数が80人以上の場合
  • 前事業年度または前年中に納付すべき事業所税額があった場合
  • 事業所などを他に貸し付けている場合

事業所税の計算方法

事業所税は資産割と従業者割を別々に計算します。税額は次の通りです。

  • 資産割:1平方メートルにつき年額600円
  • 従業者割:従業者給与総額×25%

 

たとえば、上記の例3)事業所床面積1,200平方メートル、従業者数70人なら、免税点を超える資産割の部分だけで計算し、税額は次の通りになります。

年額600円×1,200平方メートル=事業所税72万円

申告および納付する方法

事業所税は法人が自ら納税額を計算し、納付する仕組み(自申告納税方式)になっています。申告期限と納付期限は決算日から2ヵ月以内です。

 

申告方法は、「市役所の窓口」「郵送」または「インターネットによる電子申告eLTAX(エルタックス)」のいずれかになります。

堺市の場合、事業所税の納付場所は金融機関や市の納税課のみに限られ、Pay-easy(ぺイジー)やコンビニ納付などは利用できません

免税点を算定する会社の単位は?

複数の法人を運営しているグループ会社の場合、免税点の基準となる床面積や従業者数の算定単位が「ひとつの法人」または「グループ会社のすべての法人」になるかどうかが問題になります。

原則は法人ごとで算定する

事業所税は原則、ひとつの法人ごとに床面積や従業者数を算定します。たとえば、堺市内にある営業部門のA社と製造部門のB社から成る同族会社の場合、所在地が別々ならそれぞれの会社が算定単位になります。

グループ会社単位で算定することもある

例外的にグループ会社単位で床面積や従業者数を算定するケースがあります。それが「みなし共同事業」です。みなし共同事業とは、個人または同族会社(特殊関係者を有する者)と同じ家屋内で事業を行う特殊関係者である法人を共同事業とみなし、グループ会社全体で納税義務者の判定をします。イメージ図は次の通りです。

(出典:堺市 事業所税の手引きを一部抜粋)

みなし共同事業の条件

特殊関係者を有する者を判定対象者として、同じ家屋内の法人が特殊関係者に該当すれば、みなし共同事業になります。特殊関係者とは、判定対象者に50%超の株式を保有される法人(法人税法上の同族会社)を指します。イメージ図は次の通りです。

税務調査の手法

税務調査は税務署だけが実施するのではく、堺市にも同じ権限があります。そこで、事業所税の税務調査について説明します。

参考資料の提出が求められる

事業所税の申告内容が正しいかどうかを確認する目的で、申告書に併せて参考資料の提出が求められる場合があります。参考資料は申告内容の裏付けとなる事業所総床面積・非課税面積・貸付面積などを示した図面や賃貸借契約書などです。

電話連絡での照会・実地調査を実施されることも

事業所税が未申告、または申告内容に誤りがあった場合、電話で照会したり実地調査が実施されたりします。税務調査時には、図面や賃貸借契約書などの提出が求められる可能性があります。たとえば、堺市内で店舗を新規オープンし、床面積が1,000平方メートルを超えた場合、納税義務者になったのもかかわらず未申告だったら電話で照会されるでしょう。

 

なお、税務調査は「徴税吏員証」を携帯している職員が実施するため、調査を装うニセ職員と見分けるためにも、事前に提示を求めましょう。

税務調査で引っかかった場合のリスク

たとえ事業所税の知識不足で申告するのを忘れても、税務調査で引っかかったら多額の税額を負担しなければなりません。そこで、調査官から指摘された場合のリスクについて説明します。

過去5年にさかのぼって課税される

税務調査は過去にさかのぼって調査し、課税することができます。原則は過去5年であり、悪質な場合は過去7年間までさかのぼります。悪質とは、床面積や従業者数をごまかしたり、資産割と従業者割の免税点を明らかに超えているにもかかわらず無申告であったり、隠ぺいしたりした場合を指します。

免税点でなくなった場合は税額が跳ね上がる

税務調査により、床面積や従業者数が免税点でなくなった場合、税額は跳ね上がります。たとえば、調査官から納税義務者と指摘され、事業所税年72万円が過去5年間にさかのぼって課税された場合、税額は「0円」から「72万円×5年間=360万円」になります。しかも、360万円の本税以外にも延滞税などの追徴課税もされてしまいます。

まとめ

事業所税は事業税と間違いやすいほど認知度の低い税目です。しかも中規模以上の法人・個人を想定しているため、税額は多額になる傾向にあります。そのため、事業拡大を図るために店舗を出店したり工場を新設したりして、納税義務者になったことに気づかないと、税務調査で足元をすくわれかねません。この記事を読んだのを機に床面積や従業者数を再確認してみてはいかがでしょうか。

 

(参考)事業所税が課税される地域

区分 地域
東京都(特別区の区域) 東京23区
指定都市 札幌市 仙台市 新潟市 千葉市 さいたま市 横浜市 川崎市 相模原市 静岡市 浜松市 名古屋市 京都市 大阪市 堺市 神戸市 岡山市 広島市 北九州市 福岡市 熊本市
首都圏整備法の既成市街地を有する市 川口市 武蔵野市 三鷹市
近畿圏整備法の既成都市区域を有する市 守口市 東大阪市 尼崎市 西宮市 芦屋市
人口 30 万人以上で政令で指定するもの 旭川市 秋田市 郡山市 いわき市 宇都宮市 前橋市 高崎市 川越市 所沢市 越谷市 市川市 船橋市 松戸市 柏市 八王子市 町田市 横須賀市 藤沢市 富山市 金沢市 長野市 岐阜市 豊橋市 岡崎市 一宮市 春日井市 豊田市 大津市 四日市市 豊中市 吹田市 高槻市 枚方市 姫路市 明石市 奈良市 和歌山市 倉敷市 福山市 高松市 松山市 高知市 久留米市 長崎市 大分市 宮崎市 鹿児島市 那覇市
(令和元年5月1日現在)

 

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner