成年年齢の引下げで税金も影響を受ける⁉具体的な内容を解説

[取材/文責]橋本玲子

成年年齢が令和4年4月1日より、20歳から18歳へと引下げられました(民法(以下同)第4条)。
各メディアでも成年年齢引下げによる注意点を取り上げていましたが、税制において身近な税金にさまざまな変更点があることにも留意しましょう。
ここでは、成年年齢引下げが税制に与える影響について解説します。

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成年年齢引下げの概要

日本における成年年齢は、1876年(明治9年)より140年以上もの長きにわたって20歳とされていました。それが今回引下げとなった理由や、法律上何が変わったかなど、まずは成年年齢の引下げに関する概要をおさらいしておきましょう。

そもそもなぜ成年年齢が引下げられたのか

成年年齢引下げに先駆け、2007年成立の国民投票法、2016年の公職選挙法改正で選挙権年齢が20歳から18歳に変更されました。これからの社会を背負う若い世代に政治に興味を持ってもらい、意見を取り入れたいという趣旨の改革だったのですが、これがきっかけとなり、18、19歳を選挙時だけでなく社会生活においても大人として扱うべきではという議論になりました。
加えて18歳から大人とされるのは欧米を中心に世界的な主流でもあることから、日本でも18歳から自己決定権を与え、積極的な社会参加につなげる目的で民法の改正に至ったのです。(第731条)
なお、今回の改正によりこれまで「16歳以上」であった女性の婚姻年齢が男性と同じ「18歳」に引き上げられたのも、やはり時代の流れに沿ったものでしょう。

成年年齢引下げで何ができるようになったか

未成年者は取引の際の判断能力が十分でないことから、未成年者及び取引の相手方を保護するために、一部を除いた法律行為に制限がかけられています。
たとえば未成年者は単独で契約を締結できず、親(法定代理人)の同意を得なければなりません(第5条)。しかし成年年齢が引下げられたことから、18歳以上は親の同意なくさまざまな契約が結べるようになりました。
進学や就職など18歳は親元を離れるきっかけが多い時期です。部屋の賃貸契約やクレジットカードの作成が単独でできるようになったのは大きなメリットといえます。

しかし一方で、18歳、19歳が高額なローン契約を交わしても、親の同意がないからと後から取消すことができなくなります。悪質な勧誘などに十分注意が必要です。
ちなみに飲酒や喫煙、公営ギャンブルの年齢制限は20歳のままです。間違えないようにしましょう。

影響を受ける税金その1~相続税

ここからは成年年齢の引下げが税制に与える影響をみていきます。まずは相続税です。
相続税額の算出時に適用されるさまざまな控除のうち、「未成年者控除」は、相続人に未成年がいた場合、「未成年者が成人するまでの年数」✕10万円を納税額から控除する制度です。未成年が成年になるまでの教育費、養育費などの負担を考慮したものですが、こちらが相続開始時「20歳未満」から「18歳未満」となります。つまり実質未成年1人につき20万円控除額が少なくなるのです。また、相続時に18歳、19歳であれば控除そのものがなくなります。

もっともデメリットばかりではありません。成年年齢の引下げにより、18歳から遺産分割協議に参加できるようになりました。
未成年相続人が法律行為である遺産分割協議に参加するには特別代理人の選任を家庭裁判所に申立てることが必要ですが、利益相反の関係で親は原則、子の代理はできません。弁護士などの専門家が選任されることも多く、手間と費用がかかります。
18歳、19歳の相続人がいるケースであれば特別代理人の選任が不要になり、スピーディーに遺産分割に取り組めるのは大きなメリットといえます。

影響を受ける税金その2~贈与税

次に贈与税関係の制度への影響です。こちらは成年年齢引下げによる以下のようなメリットが享受できます。

成年年齢引下げで特例贈与に影響が出てくる

贈与税には、毎年110万円までなら非課税で贈れる「暦年課税」制度があることは一般的にも知られています。もちろん1年間の累計贈与額が110万円を超えると贈与税課税対象になるのですが、この暦年課税率が成年と未成年で変わってくる場合があるのです。
父母や祖父母などの直系尊属から受ける贈与は「特例贈与」となり、以下の特例税率が適用されます。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

しかし、この特例税率は贈与される側が1月1日時点で成年年齢に達していることが要件です。未成年の場合には以下の一般税率の適用となります。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

たとえば贈与のうち1500万円が課税対象となった場合、特例贈与の受贈者が成年なら税率は40%でそこから190万円控除されるため、贈与税は1500万円✕0.4-190万円=410万円となります。
一方未成年だと1500万円✕0.45-175万円=500万円の贈与税が課せられてしまいます。
毎年1500万円の暦年贈与が現実的かどうかはさておき、特例税率が18歳から適用されるようになったことは覚えておいた方がよい変更点です。

贈与税非課税制度が18歳からになる

贈与税にはいくつかの非課税制度があります。これらの制度のうち適用対象年齢が20歳以上であったものが18歳以上に変更されました。

たとえば、贈与者の直系卑属(子や孫)に贈与する際に利用できる相続時精算課税制度があげられます。
相続時精算課税制度を選択すると、選択年以降に複数年にわたって贈与した額のうち2500万円を上限とする特別控除が受けられます。年齢などの事情で、少しでも早くこの制度を利用したい贈与予定者には朗報となるでしょう。
この制度を利用するには、受贈者が贈与された年の1月1日時点で18歳以上である必要があります。

他にも、住宅取得等資金の贈与税や結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置が18歳から適用されるようになりました。
ただし「18歳以上」となる基準時が、住宅取得等資金の場合は贈与された年の1月1日であるのに対し、結婚・子育て資金の場合は「信託受益権等を取得したときに」18歳以上であることが求められます。注意しましょう。

事業承継の場合の税制も18歳以上から適用

親の事業を子が生前贈与で受け継ぐ際に、一定の要件を充たすことで事業資産相当額に関する納税が猶予されるのが「事業承継税制」です。こちらも贈与を受けた時点で18歳以上からの適用となりました。

なお、事業承継税制は生前贈与だけでなく相続での承継にも適用されるため、相続税においても納税が猶予されます。そして生前贈与、相続ともに事業を継いだ後継者が亡くなった時点で税金の支払いは免除されます。

影響を受ける税金その3~住民税・その他

相続税や贈与税以外の税制についての影響の有無をまとめておきます。

まず個人住民税についてですが、未成年者の場合、1年間の所得合計額が135万円以下(給与所得者は約204万円以下)であれば均等割・所得割とも非課税になります。しかし成年年齢引下げにより、18歳、19歳は所得金額が各地方自治体が定めた非課税限度額を超えると住民税を納める必要が出てきます。
たとえば大阪市の住民税の非課税限度額は給与所得が100万円以下となっています。学生でアルバイトをしている18歳、19歳は要注意です。

他の税金、たとえば日本在住者が公平に支払っている消費税は当然ながら変更がありません。
また、税制上未成年ではなく「子」を対象としている制度に関しては現状のままです。
たとえば社会保険料控除、扶養控除などは成年年齢引下げの影響を受けず、これまでと同様に控除が受けられます。

まとめ

今回成年年齢が20歳から18歳へと引下げられたことは、新たに成年とみなされる本人はもちろん、親や祖父母にも税制上の影響が及ぶことがあります。18歳から成年となることの意義を親子で理解するとともに、特に相続税、贈与税に関するメリット・デメリットを確認しておくといざというときに役立つでしょう。

行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。

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