他人事ではない「老後破産」なぜ起こる?見過ごしがちな原因と対策を解説
「老後破産」とは、仕事をリタイアするなど高齢の年金生活になってから家計が困窮し、生活の維持に困難をきたす状態を指します。実際に「自己破産」するケースもありますが、そこまでいかなくても、「生活するのがやっと」の状況に陥るケースが年々増えているのです。まさかの事態を招かないためには、その原因を知り、可能な対策を講じる必要があります。
老後に生活維持が難しくなる5つの原因
公的年金は減額
高齢になれば、年金が支給されます。「老後破産」を端的にいえば、“さまざまな支出がこの年金支給額を上回り、やがて蓄えが枯渇する状況”ということになるでしょう。
その公的年金ですが、2022年4月支給分から、21年度に比べ0.4%引き下げられました。65歳で新たに受け取りを始める人を例にとれば、1ヵ月あたりの支給額は、自営業者などが加入する国民年金で6万4,816円と、前年度比259円減です。また、サラリーマンなどが加入する厚生年金では、平均的な収入があった夫婦2人の世帯(会社員の夫の収入が賞与分を含めた月額換算で43万9,000円、妻は専業主婦のモデル世帯、夫が40年間厚生年金の保険料を納めたことを想定)で21万9,593円と、903円の減となりました。これは、現役世代の賃金の減少幅を反映した改定でした。
公的年金に関しては、現役世代の保険料で年金世代を支えるという「賦課方式」という仕組みになっている以上、少子化に伴い、今後も「目減り」が予想されています。老後への備えは、ますます重要性を帯びているといえるでしょう。
収入と支出のアンバランスによって生活破綻を招くという点では、高齢者の場合も他の世代と変わりはありません。ただ、そこにはこの世代ならではの原因もあります。
【原因1】支出が減らせない
年金生活の厳しさは、重々承知している。だから、リタイア後は、夫婦そろってつつましやかに暮らしたい――。そう考えている人も多いと思います。
ただ、生活のレベルを下げるというのは、思うほど容易なことではなく、実際それなりの蓄えがあったにもかかわらず、切羽詰まってしまうケースが少なくないのです。
リタイアしたからといって、いきなり暮らし方を転換するというのは難しいでしょう。後ほど具体的に述べますが、働いているうちから家計を精査し、不要不急の出費を削っていくことが大事になります。
【原因2】住宅ローンの負担
若い頃には、長期の住宅ローンを組むのも怖くはなかったはずです。毎月の支払いが可能な定収入や、その昇給が見込めたためです。しかし、もし年金生活になってもローンが残るとしたら、それは非常に危うい未来だといわざるをえません。住宅ローンは、いざとなれば切り詰められる食費などと違い、毎月否応なしに請求される「大口の固定費」なのです。
最低でも退職金で完済できればいいのですが、考えていたほど退職金が貰えないリスクもあります。なるべく早い時期から繰り上げ返済するなどして、ローンを減らす努力をすべきでしょう。
ちなみに、ローンを完済していたとしても、固定資産税やマンションの管理費といったコストは発生します。賃貸住まいの場合には、当然家賃を支払わなくてはなりません。住まいに関連する出費は不可欠であると同時に、老後の家計の圧迫要因になります。
【原因3】医療費・介護費の負担
高齢になればなるほど、さまざまな病気になる可能性が高まります。転倒などによる予期せぬ怪我も多くなるでしょう。高齢者の医療費は現役世代に比べ安くなるとはいえ、受診の回数が増えれば費用はかさみます。公的保険でカバーできない病気にかかるリスクも否めません。
また、自分自身や配偶者の介護が必要になった場合には、施設や老人ホームへの入居費用、各種介護サービスの利用費といった支出も発生します。「老老介護」にみられるような厳しい現実は、他人ごとではないと考えておくべきでしょう。
【原因4】子どもに関する出費
晩婚化が進んだ結果、親が定年になっても子どもは大学生、といったケースが珍しくありません。そうでなくても、教育費は親の老後資金と「反比例」の関係にあるといえるでしょう。子どもにお金をかけたぶん、十分な蓄えをつくることができないまま、年金生活を迎えることになるかもしれません。
昨今の経済情勢を反映し、大学などを出たにもかかわらずなかなか就職できなかったり、不安定な収入を余儀なくされたり、というケースもあります。子どもが自立できなければ、親はいつまでも経済的に縛られる=「老後破産」に近づくことになってしまいます。
【原因5】退職金の「無駄づかい」
会社員ならば、老後の生活に向けた大きな助けになるのが、退職金です。見方を変えると、退職金の使い方を間違えると、老後に大きな影を落とすことになるかもしれません。
人生の節目に入るまとまったお金で、欲しかったものを買いたい、趣味を楽しみたい、という人は多いでしょう。あるいは、それを元手に事業を始める、夫婦そろって田舎にIターンする、といった夢を持つ人もいるかもしれません。いずれの場合にも、貯蓄額なども踏まえ、そこから先の生活がきちんと維持できるのかという検証は、しっかり行うべきでしょう。
老後資金を捻出するために金融商品への投資を始める、というケースもあります。ただし、元本割れのリスクがゼロの投資はありえない、ということは認識しておく必要があります。虎の子の退職金で損失を出してしまい、それを挽回するために傷口を広げ……という事態は、避けなくてはなりません。
「老後破産」を防ぐために考えるべきことは
まずは「いくら必要か」を明確にする
では、悲惨な事態を招かないためには、どうしたらいいのでしょうか? まずすべきことは、「老後の生活を維持するために必要な金額」を、できるだけ正確に把握することです。ここが“どんぶり勘定”だと、有効な手立てを講じるのは難しいでしょう。「何とかなるだろう」と、場当たり的な対応に終わってしまう可能性が高いからです。
具体的な生活費を明らかにする作業は、老後に対する意識を高めることにつながります。この意識付けが非常に重要で、それだけで「老後破産」のリスクを大きく減らすことができるはずです。その確保に向けてできること/すべきことも、自ずと明確になってきます。
主な家計支出には、次のようなものがあります。それぞれについて、具体的に試算してみましょう。
- 食費
- 住居費(家賃、住宅ローン、固定資産税、マンション管理費など)
- 水道光熱費
- 家具/家事用品(家電など)
- 衣料品
- 保健医療(医療費、保険料など)
- 交通費(電車・バス代、ガソリン代、駐車場料金、自動車税など)
- 通信費(携帯料金など)
- 教養娯楽費
- 住民税などの税金
収入の道を考える
「老後破産」の根本原因が「収入の急激な減少」にあることは、いうまでもありません。この減少幅を小さくすることは、リスクを軽減する有効な対策になります。
さきほど投資の問題に触れましたが、「絶対にやめましょう」というのではありません。できるだけ安全性を確保した上で(それでも元本割れの可能性は残りますが)、投資によって老後資金を増やしていくのも、選択肢の1つです。老後資金を貯めることを目的とした、次のような国の制度もあります。
●iDeCo(個人型確定拠出年金)
毎月積み立てを行って金融商品で資産を運用していき、積立金や運用益を60歳以降に受け取れます。運用益には課税されません(通常は20%課税)。
●つみたてNISA((少額投資非課税制度)
20年間、毎年最大40万円まで、やはり非課税で金融商品を運用できます。
また、リタイア後も働いて少しだけでもいいから稼ぐというのも良いでしょう。外に出て働くことで人との交流が増えることは、心身の健康を保つ上でも重要です。医療費の削減にもつながりますから、一石二鳥です。
「固定費」の削減を追求する
「老後破産」対策の王道は、やはり支出を減らすことです。ただ、生活費を削るというと、どうしても食費・光熱費・娯楽費といった「変動費」に目が行きがちなのですが、最初に検討すべきなのは、実は「固定費」です。
住宅ローンのところでもお話ししましたが、「毎月出て行くお金」なので、これが家計を圧迫することが多いからです。逆に言えば、固定費を削ることができれば、支出を目に見えて減らすことが可能です。
固定費には、「住居費」「通信費」「保険料」「子どもの教育費」などがありますが、次のような対策が考えられるでしょう。
・住居費
家計に占めるウエートが高いだけに、削減の余地も大きいといえるでしょう。持ち家で住宅ローンを組んでいる場合には、繰り上げ返済などでローンの総額を減らすことができないか、検討しましょう。賃貸住まいの場合には、より安い家賃の物件に住み替えれば、すぐに効果が表れます。子どもが巣立ったタイミングなどには、速やかに対応を考えるべきでしょう。
・通信費
携帯電話のプランも多様化しました。通信量も見極めながら、お得なプランを探してみましょう。
・生命保険の保険料
これも見落とされがちなのですが、生活の実態に見合わない(必ずしも必要ではない)補償に対して、高い保険料を支払っていることが少なくありません。一度見直してみることをお勧めします。
家(不動産)を活用する
持ち家に住んでいる場合には、その不動産の価値を活用することで、過重な住宅ローンなどによる「老後破産」を回避できる可能性があります。最近、次のような制度が注目されています。
●リースバック
不動産会社などに自己保有の不動産を売却し、売却先からのリースという形でその不動産に住み続けられる仕組みです。リース料は発生しますが、売却益を老後資金に充当することが可能です。
●リバースモーゲージ
自分の家などを担保にして、そこに住み続けながら金融機関からの融資が受けられる仕組みです。
「老後破産」が避けられそうになかったら
さまざまな手を尽くしても、経済的に追い詰められることはありえます。そうした場合には、各市区町村が設けている高齢者向けの「支援センター(自治体により名称が異なります)」で相談してみることをお勧めします。状況によっては、経済的な支援を受けられることもあります。
ローン(借金)の支払いがままならないケースでは、「自己破産(債務の支払いは免除されるが、自宅などは競売にかけられる)」や「個人再生(住宅などの財産を残し、その他の債務を大幅に減額。給与所得者のみ)」の可能性も含め、弁護士などの専門家に相談すべきでしょう。
まとめ
年金受給者になってから経済的に行き詰る「老後破産」は、決して他人ごとではありません。老後の生活にいくら必要なのかを試算した上で、蓄えの増加、支出の切り詰めの方策を考えましょう。
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